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フィオナ王女の冒険譚  作者: アイヒカ
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第三話 出発の日


「フィオナ様ー!起きてくださーい」

「はひっ!」


 大きな声で起こされ、辺りを見渡すと部屋には侍女達がフィオナの仕度をするため勢揃いしていた。


「フィオナ様、聞きましたよ。今日は、セルバ団長とお出かけされるとか。」

「は、そうだった!」


 昨夜は、あんなに悩んで眠れなかったはずが、いつの間にかぐっすり眠っていて寝坊寸前であった。あわよくば昨日のことが夢であったりしないかなどと思っていたが、いつの間にやら優秀な侍女達のお陰で身支度は万全に整えられていた。朝食も部屋で簡単に済ませ、そろそろ行きましょうという時にふと気づく。


 あれ?また、シロがいない…いつからだったんだろうか。


「わわっ、びっくりしたー!」

 扉の近くに立っていた侍女の声に振り向くと、どうやらシロが入ってきたようだった。

「そういえば、シロ様が見えないと思っていたんですよ。シロ様も朝ご飯しっかり食べて姫様をお守りしてくださいまし。」


 そう、声を掛けたのは幼い頃からフィオナとシロの世話を焼いてくれている侍女長兼フィオナの乳母であるクレアだ。まるでフィオナを自身の孫の様に可愛がってくれている。


「では、フィオナ様。行ってらっしゃいませ。」

 クレアは、声を掛けながらえんじ色のケープを羽織らせてくれた。

「朝晩は冷えますのでどうぞ着て行ってくださいね。」

「ありがとうございます。で…では行ってきます。」


 温かく見送られ、引き返すことができなくなってしまったフィオナであった。

 シロと一緒に朝の城内を歩く。気持ちが重く、足取りも重いが、今朝は気持ちの良いくらい晴れ渡っていることに気づいた。中庭を通り北の門へと向かう途中、すうっと息を吸い込んでみた。冷たく澄んだ秋の空気が肺へと流れていく。

 空はあんなに綺麗で清々しいのに…。

 美しい空を恨めしそうに眺めながらシロとともに約束の場所へと向かった。

 北の門へとたどり着くと見慣れない少年が立っていた。年の頃はフィオナと同じくらいの爽やかな黒髪の少年である。フィオナを見つけると鮮やかな紫色の瞳を輝かせて近づいてくる。


「あんたがフィオナ様か。俺はセルバ団長の一番弟子クロトだ。」

「は、はぁ…。えっと、セルバ団長は…?」

 フィオナはなんだか馴れ馴れしいクロトに咄嗟に距離をとってしまう。


「それが…昨夜からなぞの腹痛に襲われていて寝込んじまってるんだ。だから、代わりにこの俺がフィオナ様をお守りすることになったって訳さ。セルバ団長の一番弟子このクロトがね!」


 さっきも一番弟子って言っていたけど…?

 若干この人ウザいかも、と思ってしまったフィオナであった。そんなことより、セルバ団長が腹痛…?

 ちらりとシロを見ると口があんぐりと開いている。いや、まさか…ね。と、フィオナは一瞬シロを疑った。

 だが、そのまさかである。

 主人に忠誠を誓う忠犬シロは、遡ること昨夜のこと。騎士団の宿舎にこっそりと忍び込み、セルバ団長の夕飯に下剤を大量に仕込んだのである。その効果は、いかほどか確かめるため今朝方も騎士団の宿舎に忍び込んだ。すると、震える手で素振りをするセルバ団長を発見した。下剤と戦っていたのである。なんのこれしきと必死であったセルバ団長の水筒にとどめをさすため追加の下剤を大量に仕込み、これでセルバ団長は床に伏せり、国王からのお使いも無くなるはずと思い込んでいた。が、まさか代わりをよこすとは思っていなかったようだ。


「まあ、そんなことだからよろしくフィオナ様。」

 満面の笑みで握手をもとめてくるクロトにフィオナは、驚き戸惑っていると、我に返ったシロが「グルルル…」と前に出て威嚇し始めた。


「だあいじょうぶだって!俺は毎年セルバ団長と一緒に守り人族の森に行っているんだ。案内なら任せてくれ!」


 ふんぞり返るクロトに本当に大丈夫なのだろうかと不安がよぎる。クロトをまじまじと見るフィオナ。よく見ると騎士団の制服を着ており、腰には中型の剣をさしている。騎士団の者というのは、どうやら間違いなさそうだ。


「そうですか…。分かりました。案内をお願いします。」

「おう!任せとけっ!」


 はっはっはーっと大きな声で笑う姿は、どことなくセルバ団長に似ているなあ、と思うフィオナ。しかし、シロは得体のしれないクロトへ威嚇し続けている。


「ほいじゃ、早速行きますか…って、痛てて!」

 クロトが歩き出そうとした瞬間、いきなりシロがお尻に噛みついた。あわててフィオナがシロを制す。

「こ、こら!シロ!何してるの?!」

「なんだぁ、この犬!ちゃんとしつけしといて下さいよ。あいたっ!」

 フィオナにカラダを引っ張られながら、なおもクロトのお尻をガブリ!

「ご、ごめんなさい!シロは、私意外には全く懐かなくて…。」

「ひぃぃぃ…」

 ようやく離れたシロに追いかけ回されるクロトであった。

 

 一方、その頃騎士団の宿舎では、セルバ団長が寝込んでいた。


「ああ、全くなんて様だ…。夕飯前に落とした握り飯を食べたのがいけなかったのかな?はあ…。」


 セルバは体調を崩すことなど滅多にない。ましてや腹痛など、こどもの頃以来だ。なので、相当弱っていた。


「セルバ団長!失礼します。レイド団長がお見えです。」

「レ、レイド団長!こんな姿をお見せしてすみません!」

 

 セルバは、レイドの姿を見るなり体を起こそうとしたがレイドに止められる。


「いえ、そのままで大丈夫です。それにしても災難でしたね。」

「は、はぁ…。お恥ずかしい…。」

 セルバは、か細い声で答えた。体の大きいセルバがこんなにも小さかったっけ?っと思うくらい申し訳なさと恥ずかしさに溢れている。そんなセルバにレイドは静かに尋ねた。


「それで、フィオナ様は?」

「レイド団長のご指示通り、騎士団の中で一番優秀な者を代わりに行かせました。自分が最も信頼をおいている者です。」

「なるほど。では、この件については、私から国王へ報告しておきます。」

「ご迷惑お掛けしてすみません。自分が行ければよかったのですが…。」

「まあ…、あの辺りは我が国の庇護下にありますから魔物の心配などありませんゆえ。ゆっくり休まれてください。では…。」


 用件を伝え、レイドが部屋を去っていく。その後ろ姿を見送り、セルバがポツリとつぶやく。


「クロトだけで大丈夫だったかな…?」


 セルバは、ふと心配が過った。あいつ強いんだけどすぐ調子に乗るからな、と。

 

 こうして、2人と1頭のお使い珍道中が始まるのであった。

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