第十二話 お調子者の末路
倒れたクロトの前にはシロが足をプルプルさせながら立ち塞がる。そんな様子を見て奇術師は笑う。
「仔犬など無視して少年を片付けてしまいなさい。」
奇術師の声を聞き、アンジーは斧を振りかぶる。その瞬間、クロトの大きな声がした。
「今だ!」
大きな声にアンジーが一瞬であったが動きが止まった。そして、クロトの大声で反射的に動いたのはシロだ。アンジーの顔にシロが飛びつき、その拍子にアンジーは床に倒れてしまった。なおもシロは必死の形相でアンジーの顔から離れず、しがみついている。
「なっ、何を!」
奇術師が呆気に取られていると背後からクロトの声がした。
「はははー!俺の作戦みたか!」
奇術師がしまった!と思った時にはクロトが素早く背後に回っており、奇術師の背中にクロトの剣先が当たっていた。
「さあ、アンジーさんを元に戻してもらおうか!」
奇術師はちっと舌打ちをし、指をパチんっとならした。すると、ジタバタと動いていたアンジーが大人しくなる。
その様子に気づき、シロがゆっくりアンジーから離れ、その場で一度伸びをして姿勢を正した。先ほどまでの体の震えはどこへやら『みたか!俺の勇姿』と言わんばかりなキメ顔をしている。
「お、俺は何を…?」
「アンジー!」
スノーも状況を把握したのか、アンジーに声を掛けた。
「よし、じゃあ。次は、あそこでスノーに魔法をぶっ放しているフィオナ様も元に…」
「プリンセスフィオナは自分の意志で動いている。私の催眠など必要なかった。」
「は?へ?」
予想外の言葉にクロトは拍子抜けしてしまう。その隙に奇術師はクロトの目の前に小さな輪っかをぶら下げて呟いた。
「だんだんだんねむくなーる…」
「は?そんな子供騙しで誰が眠るか…くかー」
クロトはあっさり眠りこけてしまった。そんな様子を見てアンジーは言う。
「スノー様、あいつは一体何をしてるんですかね?」
「はぁ…、あのお調子者が…」
アンジーとスノーに便乗するかのようにシロも頭を振る。まったく…あいつときたら、と言った感じだ。
アンジーの正気が戻ったかと思いきや今度はクロトが眠りについてしまった。そんな状況に呆れてしまうスノーであった。
それよりも、フィオナが操られていないとするならば、少々厄介だなと思うスノー。魔力量はすでにスノーを上回るほどのフィオナである。そんなフィオナに全力を出されたらスノーは、きっと抑えきれないと分かっている。今やギリギリの状態で防御を続けている。
ギリギリの状態で…
そこで、スノーは違和感を感じた。
そう、ギリギリの状態で防ぐ事が出来ている。もしかすると…これは、と。
そこで、スノーは奇術師に問いかける。
「奇術師と言ったかな。貴様は何者だ?なぜ、フィオナ様がここに眠っていることを知っている?」
「私は、あの方にこのプリンセスを捧げるためにここへ来たのですよ。知りませんか?もうすぐ復活するあの方ですよ。」
「あの方…まさか!」
「そう、魔王クロードレイの片腕だった悪魔シュヴァルツ様ですよ。」
スノーは、息を呑んだ。あの悪魔が復活するのか、と。
悪魔シュヴァルツは魔王クロードレイの片腕と言われ、人々に恐れられていた。しかし、魔王クロードレイが大賢者ミハエルと和平を結ぶことに納得がいかず、魔王に反旗を翻したと言われている。その際、魔王クロードレイに敵わないと気づいた悪魔シュヴァルツは500年の眠りにつくことで力を増幅させ復活を果たすという言わば言い伝えのような話があった。
それが、まさか本当の話だったとは…。
「フィオナ様は、そんな悪魔に手を貸されるおつもりですか?」
スノーは、必死の思いでじゃじゃ馬フィオナに問いかける。真意を知りたい一心であった。
「そうだなぁ…。私のこと邪魔者扱いしたお母様やお父様にはウンザリしてるの。私を必要としてくれるならそれもいいかなぁって。」
じゃじゃ馬フィオナは、そう言うと可愛くニコッと笑った。
いやいや、その笑いが怖すぎるとスノー始め、アンジー、シロが強く思った。
「そんな訳だから、そろそろ全開でいくよー!」
じゃじゃ馬フィオナは、続けて高らかに笑いながら、魔力を込めた。
スノーも杖を握りしめ、防御体制に入る。
その頃、クロトは目が覚めてゆっくりと起き上がる。
ここは…どこだ?
クロトは起き上がりながら、どこか懐かしさを感じていた。
ここは…、サンフィオーレ城…か?
クロトがいる場所はサンフィオーレ城の大広間へと続く通路であった。クロトは立ち上がり、大広間へと向かった。
大きな扉を開けるとそこでは舞踏会が開かれていた。豪華絢爛で華やかなその部屋に入ると、クロトの心までもが躍った。先ほどまでの緊張感が解れ、楽しそうな雰囲気に呑まれそうになるが、今は状況を把握しなければとクロトは気を引き締める。大勢のドレスやタキシードを纏った紳士淑女を見ながら、知っている者がいないかと歩き回る。すると、奥に豪華な椅子に座って退屈そうに舞踏会を眺めている少女がいた。
あれは…もしかすると、フィオナ様?でもなんだか、幼い気がする…。
クロトは、その少女に近づいていく。
「クロト…さん?」
声に振り向くとそこには、見覚えのあるいつもの丸眼鏡をかけたフィオナがいた。
「フィオナ様?本当にフィオナ様?」
クロトは、先ほどまでのじゃじゃ馬フィオナではないか力を込めて尋ねた。
「あ、は、はい。フィオナです…。」
この、挙動不審な態度!正しく自分が知っているフィオナ様だ!っと胸を撫で下ろし、ふうっとため息をつくクロトであった。
「な、なんか…。今、失礼な事考えてませんでしたか?」
「は!な、何を言ってるんですか!俺は心の底から安心してたんですよ!
それより、ここはどこなんですかね?サンフィオーレ城ですよね?」
「それが…、私にもよく分からなくて…。でも、もしかすると、過去の記憶とかそういうことかなぁ…と。」
「過去の記憶…?」
フィオナにそう言われて辺りを見渡すと舞踏会に参加している王侯貴族や大臣らがなんだかどこかで見たことあるような顔ぶれだが、クロトの知っているその人らよりずっと若く判別が難しい。
さらに、先ほどの退屈そうな少女の後ろには見慣れた顔の少年もいた。
「あれは…?」
その少年を見てクロトは驚く。
「俺?」




