第十一話 過去の記憶
ここはどこだろう…
フィオナは寝ぼけ眼をこすり、落ちていた自身の丸眼鏡をかけながらゆっくりと起き上がる。辺りを見渡すと見覚えのある風景が広がっていた。
サンフィオーレ城の中庭…かなあ?
見覚えのある景色ではあるがどこか懐かしさを感じていた。すると、遠くの方で声がした。
「フィオナ様ー!どこに行かれたのですかー?」
その声の主は、走りながら中庭へとやってきた。フィオナは、その声の主を見てはっと驚く。なぜなら、その人物とはクレアであり、今よりずっと若い姿で現れたからだ。
え?あれは、クレアのはず…だけど。
「やっぱり止めておこうよ…」
「大丈夫だって!私に無理やり連れて行かれたって言えばいいから!」
驚いていたフィオナの前にうずくまって、こそこそと話をしている少女と少年がいた。
「でも、フィオナのこと探し回ってるよ…。」
「いいの!クロトは私についてきなさい!」
フィオナ?クロト?って言っていたの?この子たち?それって…
小さな2人の会話を聞いていたフィオナは思った。もしかするとこの2人は幼少の頃の自分とクロトなのかもしれない…と。だが、クロトに出会ったのはつい先日のことであるし、こんな記憶は自身にはない。というよりかは、フィオナは6歳頃までの幼い記憶がほとんどない。きっと、ろくなことがなかったから何にも覚えていないんだ、と思い今まで気にもしていなかったが、目の前にいる小さな2人を見ているとフィオナは何故だか胸騒ぎがしてくるのであった。
「ね、ねぇ!君たち!」
居ても立ってもいられず、フィオナはその小さな2人に声を掛けた。が、聞こえていないのか返事がない。
「でも、驚いたなぁ。クロトが騎士団に入るなんて。」
少女フィオナが少年クロトを見つめ、嬉しそうに話している。それに対し、少年クロトは一瞬目が合うもぱっと目を逸らし、下を向きながら話を始める。
「そ、それは…セルバ団長に憧れてるし…。それに、その…フィオナをモゴモゴ。」
「ん?何か言った?」
「え、いや、その…」
「ま、でも強くなって私専属の護衛騎士になってよね!」
「へ?あ…うん!」
満面の笑みを見せる少女フィオナの顔をちらりと見た少年クロトはようやく顔を上に上げ、笑顔で答えた。
2人のやりとりを見ていたフィオナは思う。今のクロトを知っていると昔のクロトは想像もできないくらい何だかもじもじした子だなあ、と。
そして、あれ?騎士団に入った理由ってもしかして…
「見つけましたよ!」
「げ、クレア!」
そんな話をしていると、生垣に隠れていた2人を見事にクレアは見つけ出し、怖い顔で睨みつけていた。フィオナとは小さな2人を挟んで向かい合う形になっていたので、フィオナはクレアに向かって大きな声を出してみた。
「クレア!クレア!」
声を掛けるがやはり、反応はない。こちらの声が届かないようである。
「まったく、フィオナ様には困りましたね。クロトまで振り回して!」
先ほどの怒り顔が少し緩み、呆れた風にクレアは言った。それを見た少女フィオナはきっとこれ以上怒れまいとにやにやとしている。そこへ、シロが少女フィオナの元へ飛びついてきた。そんなシロの後ろから金髪碧眼のこれまたお人形さんのような少女がやってきた。
「あはは、置いていってごめんね。シロ…って、あ!ミモザ!」
「お姉様、こんなところにいたんですね。今日は私に魔法の稽古してくれる約束ですよ!」
「ごめんごめん。じゃあ、みんなで行こうか。」
ミモザはぶうっと可愛くふくれてみせた。そんな愛らしい姿にその場にいた者たちは思わず笑みがこぼれていた。和やかな雰囲気のまま少女フィオナ達は城へと戻っていく。
そんな幸せそうな姿を見ていた現在のフィオナは胸が張り裂けそうなくらい苦しくなる。今の自分は幼い頃の自分とは、かけ離れているばかりか周囲にいる人達まで自分が知っている以上に幸せそうである。特に妹のミモザがフィオナに笑顔を見せてくれるなどとは信じられない。
今の私に価値などあるのだろうか…
その場に立っているのが辛くなるほど胸が苦しくなってくる。
いっそのこと、このまま消えてしまいたい…
一方、その頃クロトはアンジーと交戦しながら考えていた。
アンジーの攻撃はというと小人ながら大きな斧を振りかぶり、身長差を埋めるため思い切りジャンプをして斧を振り下ろすといった力任せの攻撃が続いていた。クロトは自身の剣で斧を受け止めるがその力任せの攻撃に手が痺れすぐに反撃できず、するとまた次の攻撃がくるためなかなか動けないでいた。
アンジーさんは、こんな無茶な攻撃はしないはず…。そうなると、やはり奇術師ってやつをなんとかしないと…ってことだな。大体奇術師って何だ?魔法とは違うのか?
クロトはそんなことを考えながら、ちらりと奇術師を見た。その瞬間、クロトのタイミングが少しずれたのか、アンジーの攻撃が上手く防げずにクロトはスノーとシロのいるところまで吹っ飛ばされてしまった。
「おやおや、よそ見とは危険ですね。アンジーとやら、さらに追い詰めなさい。」
奇術師の声にアンジーが反応し、倒れているクロトの目の前までやってきた。
が、その前に立ちはだかるシロ。クロトは、おお!シロ、なんとも頼もしい…と思うのだが、シロが目線だけクロトを振り返ったその瞳を見てクロトは悟る。
めちゃくちゃビビってんな、おい。
果たして、この戦いの行く末いかに…。




