第十話 侵入者
守り人族は精霊である。スノーも精霊であり、1000年近くを生きている。そんなスノーからするとほんの10年程前からセルバに連れて来られていた少年がまさか姫を護衛しながらやってくるとは人間の成長は早いものだと感心していた。
そんな時に何かに気がつき、アンジーに声をかける。
「アンジー!フィオナ様を追いかけておくれ。何か不味いことが起きている気がする…。早く!」
「は!」
スノーの命令に即座に動くアンジー。クロトとシロを横目に素早く扉を開け、出ていった。
「他の子達はどうしたのかしら…」
この神殿と森はスノーと7人の守り人族で守護をしている。先程からスノーはアンジー以外の守り人族と念話で話そうとしているが、どうも上手くいかない。一体何が起きているのか、状況を把握しようと焦りが出ている。
そんなことも知らず、クロトとシロは相変わらずじゃれ合っていた。そんな中、クロトに近寄る一人の少女。
「クーロト!」
「へ?」
クロトの目の前には先ほどの黒髪の美少女が立っていた。しかし、クロトにはなぜ名前を呼ばれているのか理解ができない。
「え、えーっと…どちら様でしょう?」
どこかで会ったことあったかな?とクロトは恐る恐る尋ねてみた。
「うそ!私のこと忘れちゃったのー?信じらんな
い!」
その少女はクロトが覚えていないことに驚き、怒りも露わにしている。ちらりとシロの方を見た。
「でも、シロは覚えてるよねぇ?」
少女の問にシロは目を見開き、わなわなと震えていた。そんなシロの様子を見てこいつはヤバイ奴なのかとクロトは思う。
「フィオナ様…どうして…?」
後ろからスノーの声がし、クロトは振り返った。スノーもいつもの穏やかな雰囲気とは一変し、驚きと恐怖が滲み出た表情をしていた。
「あ、久しぶり。スノーのおばさん。実はこちらにいる奇術師さんが私を眠りから起こしてくれたの。」
少女の後ろには先ほどフィオナが遭遇していたシルクハットを顔の半分まで被った燕尾服を着た男が立っていた。その男は眠ってしまったフィオナを抱えている。
「ま、まさか…どうやって?」
スノーが震える声で尋ねる。すると奇術師は不敵な笑みを浮かべ、答えた。
「ふふふ、他の守り人族にも眠ってもらってますよ。その前に私の催眠術でプリンセスフィオナの場所まで丁寧に案内させましたが。でも、守り人の名が廃りますね。守りが甘い甘い。」
「なっ!あの子達が眠っている?未だかつてここには何人も侵入など…」
「平和ボケではないですかねぇ。それとも、私の奇術が素晴らしいのかもしれませんが。」
スノーは悔しいのか歯を食いしばり、奇術師を睨んだ。奇術師はその視線に気づいているが先ほどから不敵な笑みを浮かべている。
「ちょっと!ど、どうなっているんだ?」
一人取り残されていたクロトが焦りながらスノーに問いかける。スノーはそんなクロトの様子を見て自身の冷静さを取り戻しつつ、落ち着いて答える。
「クロト、あの少女はフィオナ様なのです。」
「ん?フィオナ様が2人?」
「始めから話しましょう。フィオナ様は生まれつき強大な魔力を持って生まれました。その力は成長する度に強くなり、そんな強大な力を持ったフィオナ様は傲慢になり、我儘で手のつけらないくらいじゃじゃ馬になられてしまいました。そこで国王と王妃が思案し、フィオナ様の傲慢な人格と伴に魔力を眠らせ我が神殿でお預かりしていたのです。時がきたら少しずつフィオナ様にお返しするはずだったのですが…。」
まさか、この神殿の守護が破られるなど微塵も思っていなかったスノー。それにこの事を知る者は、国王と王妃、守り人族だけだと高を括っていたのかもしれない。一体どこで情報がもれたのか…。それよりも、スノー自身も自身の力を買い被りすぎて傲慢になっていたのかもしれない。情けない自分を責めるばかりである。
さて、どうしたら…
「ねぇねぇ、スノー。こーんなダサい私、絶対嫌なの。だから、私を本体にしてこっちを私に戻してくれないかなあ?」
「なっ!」
「ええー?出来ないの?出来ないなら力ずくでいくしかないよね。」
そう言うとじゃじゃ馬フィオナは右手を前に出し、魔力を込めた。
『ミーティアシャワー』
すると、スノーの周りに無数の光の矢が襲う。が、スノーも瞬時に反応し、杖を右手に出現させ防御魔法を使う。
『フリージストウォール』
スノーの目の前には厚い氷の防御壁が現れ、じゃじゃ馬フィオナが放つ無数の光の矢を防いだ。だが、スノーには余裕がなかった。なんとか抑えられるが持久力が持つだろうかというレベルだ。
クロトはスノーの必死な横顔を見て状況を把握する。というかその前に…だ!俺の知ってるフィオナ様と性格180度違うじゃねーか!とつっこみたいところではある。
「そ、そうだ…アンジー!アンジーは?」
スノーは、必死で防御する中、アンジーを思い出した。フィオナ様をすぐに追いかけていったはずだ、と…。
すると、奇術師がフィオナを足元に置き、指をパチんっとならした。
「アンジーとやらは此奴のことかな?」
後ろの扉からアンジーが入ってきた。その姿を見て息を呑むスノー。これは絶望的だなと悟る。
「私の催眠術にかかれば操り人形そのものさ。さぁ、アンジーとやら。行きなさい。」
奇術師の言葉にアンジーが反応し、背中に持っていた大きな斧を構え、スノー、クロト、シロの方へと突っ込んでくる。立ち塞がったのはクロトである。重い斧を自身の剣で受ける。力任せなその一撃はクロトの手が痺れるくらいだ。
クロトは思う、こんな力任せな攻撃だと受けるので精一杯かもしれない、と。そしてなにより、アンジーを傷つけずに済むだろうか。
「スノー…。この状況、どうしたらいいかな?」
クロトは苦笑いしながらスノーに聞いた。
「はは、巻き込んですまない。まずは、あの奇術師とやらをなんとかせねば…。」
それは十分分かっているスノーではあるが、フィオナの攻撃を防ぐので精一杯。クロトも同様の状況である。
一体どうしたら…。




