第九話 守り人族の森
ようやく、守り人族の森へとたどり着いた一行。
「キーラさん、本当にありがとうございました。」
フィオナがキーラに礼を言う。
「ああ、それでフィオナ。城に帰ったら弟のこと、頼んだよ。」
フィオナは、今朝キーラの部屋で着替えをした時に詳しい話を聞かされていた。キーラの弟、名前をミリオという。2年ほど前に王都に出稼ぎで連れて行かれそれ以来一度も戻っていないらしい。本来カブスの家は代々牛飼いをやっているため後継ぎは連れて行かないようなのだが、キーラの方が牛の扱いが上手く、弟を労働力として連れて行かれたようだ。キーラが最低限望むのは弟の安否を教えてほしいとのことであった。
フィオナはこくりと頷く。誰かのために何かしたい、そう思ったのは初めてかもしれない。ただ、写真に写っていた幼いキーラとその母親の笑顔を見た時から救ってあげたいと思ったのかもしれない。
「キーラ、良かったな。フィオナ様がお優しい方で。気をつけて帰るんだぞ。」
「ふん。お前こそしっかり護衛を果たすんだな。」
クロトとキーラは互いに罵り合いながらも笑顔で別れを告げた。
「さて、ようやく守り人族の森へ着きましたね。」
クロトがフィオナに声をかけた。…のだが、フィオナはクロトと反対方向を向いて黙っている。おや?と思うクロトではあったが、ようやくたどり着いた守り人族の森へと向けて歩いて行く。その後ろを俯きながらついて行くフィオナ。その様子を見ながらシロはクロトを睨みつけながら進んでいく。
森に入ると、クロトは大きな声で挨拶をした。
「こんにちはー!お久しぶりです。クロトです。今年も建国祭の招待状を持って参りました!」
すると森の木々が大きく動きだした。ざぁぁぁっと葉っぱが触れ合う音がし、それに伴い緑の葉が落ちてくる。フィオナは思わず目を閉じた。次の瞬間、目の前に現れたのは白い大きな神殿であった。
「あちらの神殿をこの森に住む守り人族が守っているんですよ。さ、行きましょう。」
クロトが先頭にたって神殿の中へと入っていく。
「よう、クロト。今年もご苦労なことで。」
神殿の入り口で待っていたのは、フィオナの腰辺りまでの背丈の髭を生やした小さなおじさんがたっていた。顔を見ると怒ったような顔をしている。背中には大きな斧を持ち、服装はシャツの上からベストを羽織っていた。筋肉質な体つきのようで服はパツパツになっている。見た目からすると木こりのようだとフィオナは思った。
「アンジーさん、族長のとこまで案内お願いします。」
「あいよ。そちらがサンフィオーレ王国の姫様だね。儂は守り人族のアンジーだ。よろしくな。」
「は、はい。フィオナです。よろしくお願いします。」
「それじゃ、ついて来な。」
そう言うと今度はアンジーが先導し、神殿の中を歩いて行く。神殿の中は天井が高く、通路の両脇には円柱の高い柱が等間隔にならんでいる。中も白い石膏でできており、歩くと足音が響き渡っている。フィオナは荘厳な神殿の内部に若干緊張をしながらぎこちなく歩いて行く。
進んで行くと突き当たりに大きなアーチを描いた扉があった。アンジーはそこでとまり、扉をあける。
「スノー様!クロトさん達をお連れしましたぜ。」
「ああ、ご苦労。久しぶりだね、クロト。」
扉の中に入ると広々とした広間になっていた。その中央にはすらっと背の高い、白銀の長い髪をした美しい女性が立っていた。女性の着ている水色のロングドレスがまた白銀の髪を際立たせている。肌も透き通るように白く、瞳は淡い緑色をしており、見つめていると吸い込まれそうになる。不思議な雰囲気を纏った女性であった。その魅力的な瞳が細くなり、柔らかい笑みを浮かべた。
「ようこそ、サンフィオーレ王国の姫フィオナ様。お待ち申し上げておりました。私は守り人族の族長をしておりますスノーティアと申します。どうぞスノーとお呼びください。」
そう言うとスノーは軽く会釈をした。その所作があまりにも美しく、見入ってしまうフィオナ。そんなフィオナを見てスノーは再び優しい笑みを浮かべる。
「フィオナ様が来られることは聞き及んでおりましたが、まさかクロトが護衛をされていたとは…。大きくなられたんですね。」
「もちろん。しっかり護衛を果たしたんだぜ。ね、フィオナ様?」
スノーは母親のように優しい眼差しでクロトを見ている。そしてクロトはこどものようにもっと褒めてとフィオナを見て自身の勇姿を称えていた。そこで、今日初めてフィオナと目が合った。…と思いきや思い切り目を逸らされてしまう。さすがのクロトも何か変だぞと思う。
「フィオナ様、なんか今日変じゃないですか?俺、何かしましたか?」
「い、い、いえ、その…あの」
クロトがフィオナに詰め寄ると、フィオナはそれに伴い後ろに下がる。下がる下がる…。
そこへ、シロが間に入りクロトの前に立ち塞がる。
「ううっ、シロ…?」
シロはクロトに飛びかかり、これ以上近づくなと制した。そんなことをしていると、フィオナは先程入ってきた入り口の扉まで下がって来ていた。シロとクロトが一悶着している隙に思わず扉を開け、外に出た。
フィオナは扉を背にしてはぁぁぁぁぁぁっと下を向いてため息をつき、自身の赤ら顔を落ち着かせたく両手で顔を押さえその場に座り込む。
「フィオナ!」
そんな時に声を掛けられ、フィオナは声の方を反射的に向いた。そこには、黒髪ロングの素朴な感じがする美少女が立っていた。その少女の瞳は深海のように冷たく深い青色をしていた。白い肌にふくらはぎくらいまでの白いワンピースを着ており、なぜか裸足で立っている。
フィオナはその少女の顔を見るなり、息を呑む。なぜならその顔は自身がよく知った見慣れた顔だったからだ。
「わ、私…?」
フィオナが驚いているとその少女はにっこりと笑った。その直後、後ろにいたシルクハットの男が間近に現れ目の前に穴の空いたコインを糸でぶらさげたものを左右にゆらゆら揺らし始めた。昨夜の寝不足もあり、フィオナはその動きを見つめていたらうとうとしてきてしまった。そして、そのシルクハットの男が呟く。
「だんだんだん、ねむくなーる」
その言葉を聞いた途端、フィオナはこてっと眠ってしまった。




