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「なんですか?」
「人間の赤ちゃんだな」
上を見ると、無数の赤ん坊が空を飛んでいた。
「なんだよ、あれ」
道にはガラガラや、玩具、哺乳瓶、赤ちゃんが着る洋服が散乱している。
本来、愛らしいはずの赤子や玩具が大量にあるのは、不自然で不気味だった。
「赤ちゃんってなんだか怖いですね」
「いや、本来はそんなことないんだけどな」
一人の赤子がすやすやと扉の前で寝息をたてていた。
あまりにもデカい赤子だった。
横になった姿勢で、後ろの扉が見えなくなるほどの大きさである。
「あの扉、あの奥にさっきのなにかよくわからないモノが居るはずです」
「最後の試練が赤ちゃんねえ、ただ、とんでもなくデカいな」
「どかさないと、入れそうにないですね」
なんとなくシャーリーは落ちていたガラガラを赤ん坊の近くに投げた。
ガラン、ガラン、ガラン
ガラガラは落ちて、激しい音をたてたが、赤ん坊はすやすやと眠っている。
「起きねえな」
二人は近づいてほっぺをつついたりしたが、まるで起きる氣配が無い。
つんつんつん
「柔らかいほっぺたですね」
つんつんつん
「だな」
つんつんつんつんつんつんつんつんつんつんつんつんつんつんつんつんつんつん
二人はしばらく赤ん坊のほっぺたを触っていた。
「しっかし、どうやって起こせばいいんだろうな」
「いい方法があります、これをやると旦那様は起きてくれました」
シャーリーはポケットからハンカチを取りだして、こよりを作り赤ちゃんの鼻にそれを入れて起こそうとした。
「寝てる奴にそんなことしてたのか」
「はい」
「たまったもんじゃねえな」
「なんとでもいってください」
こそこそとシャーリがすると、赤ん坊はは、は、
ベブシッ!
二人に鼻水がかかりベチョベチョになった。
「うええええ」
「あら、起きませんね」
赤ん坊はスヤスヤと眠り続けている。