表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花束を抱え、神は咲う。  作者: 大石或和
chart2
9/13

prologue

王城爆破事件から一週間後────────


「ねぇ、もう止めようよ……」


 一人の少年が小さく呟いた。


 声を出したのは、村のちびっ子の一人であるジンタ。特徴をあげるならば、村の中で一番小さいこと。


 そんな彼が止めるように声をかけたのは、村のはずれにある神殿の探索。もっとも、止めるように促したところで彼らは中枢まで潜ってしまっていた。


 それに、彼が声をかけた人物は村が誇る体格の持ち主であるフラルドだ。異論を唱えれば拳が飛んでくる。


「お前はビビりすぎなんだよ。んだよ、こんなとこただの廃墟だよ。魔力も少ない」


「そ、そうかなあ……?」


 どうやら、今日は拳が飛んでこなかったようだ。


 不安がるジンタをよそに、フラルドはズケズケと神殿を進んで行った。隠し部屋などはすっ飛ばし、無我夢中で神殿の最奥を目指して。


「お、あったぞ!?」


 そして、ようやく見つけた。


 煌びやかな装飾の施された、神殿の最奥に位置する宝部屋。この神殿にしては綺麗すぎた。


「開けるぞ?」


「う、うん……」


 ジンタとフラルドは協力して扉を開くと、そこにはたった一つだけ、宝玉が置かれていた。


 長い時間の割には合わない宝玉の存在に不信感を覚えつつも、フラルドは探索の成果として、その宝玉を頂戴しようとした。


 多少震える手でフラルドが宝玉を掴み、台座から持ち上げた刹那、二人の首が飛んだ。


「「……え?」」


 己の首が宙を舞う。二人は目を見開いた。


 一体全体、何が起きているのかさっぱり分からなかった。ただ、気づいた時には遅かった。


 そして悟った。自分たちは罠にかかり、死んだのだと。


 首が地に落ち、視界が安定する。


 暗く狭くなる視界の中で、ジンタたちの元へ足を進める人とは言えない異形の徒。それは、足を上げると、勢いよくジンタたちに振り下ろし────────


「────はいはい、そこでお終い」


 異形の徒を撃退する、宙を舞い踊る数千の剣たち。見たもの全てを魅了する剣技で異形の徒を圧倒し、一人の青年へと還る。


 白色に赤のメッシュが入った髪を生やし、透き通った琥珀色の目と血に染まったような真紅の目を持つ青年。


 名をリアフィ。


「イデアル、その子たちの容態は?」


「無茶言いやがって……まあ、どっちも大丈夫だ。首が飛んではいるが、あと数分もすれば完治できる」


「よし」


 リアフィの無茶振りに対応している青年はイデアル。白髪の青年である。


 彼はジンタとフラルドを治癒魔法にて回復させ、どうにか首をくっつけようと尽力している。


「さすがに一撃じゃ、退治しきれないか」


 イデアルから異形の徒に視線を移したリアフィは、残念そうに呟いた。


「さすがに罠が少なすぎたと思ったんだよね。したらどうだ、宝を取ったらお前が出てきて即死。エグいね」


「ブルァァァァァァァァァァア!!!!!!」


「おっと、やる気だね?」


 リアフィを殺さんと迫り来る異形の徒に怖気付く事なく、彼は空に手を突き出した。


 異形の背後に設置される【虚空】。


「まあ、勝つのは僕だ」


 勿論、異形の徒は止まる気配を見せない。


 彼らの間隔は毎秒縮まり、あと数秒もすれば異形の徒はリアフィに即死の一撃を叩き込むことができる。


 明確な力の差がなければ、このままリアフィが死亡しゲームオーバー。イデアルもジンタたちもついでに死亡することだろう。


 異形の徒は眼前に佇む、リアフィに対し勝ちを確信し、持っていた鎌を大きく振り上げた。


「はあ……」


 敵の舐めた態度を察し、リアフィはため息をついた。と、同時に突き出していた手を下ろし空を薙ぐ。


 するとリアフィはくるっと半回転し、イデアルの元へ歩み出す。異形の徒なんていなかったように。


「大丈夫、君を詰ませる手段ならもう打ってある」


「────!?」


 不審がる異形の徒。


 鳴り響く、剣が肉を斬り裂く音。


 リアフィの待機させていた剣の一つは、一撃にて異形の徒の魂を粉砕した。


 辺り一帯に雨のように降り注ぐ血は、皮肉な事に鮮やかに彼の敗北を彩った。


「だいぶ格好つけるのな、リアフィ?」


 一部始終を横目に見ていたイデアルは、何事もなかったように近づくリアフィに笑みを浮かべる。


「だって、その方がいいだろう?イデアル。実力差は明白だった。これくらいの格好はつけてもいいでしょ」


 リアフィは一度言葉を止めると、先程の剣を手に引き寄せ血を払い、虚空の中に収納した。


 何もない空間に剣が消え去り、時空は揺らぐ。これはリアフィが使う空間収納魔法である。


「別に僕のことは良いんだ。イデアル、その子達はどう?治りそ?」


「ああ、お前がこっちに意識を集中させてくれたお陰で無事に接着できたよ」


「なら良かったよ」


 ジンタとフラルドの首は嘘のように元通りになっており、イデアルの腕の良さが際立っていた。


 この調子ならば、すぐに目を覚ますだろう。


「この子どうする、リアフィ」


「取り敢えず村に返そう。彼らは特に説明もせず、置いておけばいい。何かお礼騒ぎになると面倒だからね」


「分かった」


 リアフィは二人を担ぐと、出口へと進む。


「それに、僕らにはやらなきゃいけないことがあるだろ?」


 イデアルは立ち上がり、彼の後を追った。


「ああ、そうだな」


数刻後────────


「大丈夫だった?」


「ああ。村の中心部に転移して、あの二人を置いたら撤退した。勿論、バレてないだろう」


 神殿から脱出したリアフィとイデアルは、先程の一件で死にかけていた少年二人を無事に送り届けた。


 別にお礼を求めて助けた訳じゃないので、名前や容姿などは一切明かしていない。


 だって、彼らは旅の道中で子供を偶然助けただけなのだから。


 結局、彼らは空回り。何の成果も得られず、ただ人助けをした一日になってしまった。


 太陽は空から姿を消そうとしているし、一日も終わりに近づいている。無駄な時間を過ごしたことを後悔していた。


「このまま進むのか?リアフィ」


 ローブのポケットから取り出した地図を見て、イデアルはリアフィに問い掛ける。


「ああ、出来れば。覇王十二使徒の選考会は二日後だ。時間の余裕は持っておきたい」


 神殿で二人が口にした目的とは、まさにこのことである。


 覇王十二使徒。この世界の半分を統べる国──レギレス王国が、国家の治安維持の為に設立した国の最強戦力。ここに入った者は王への謁見を許され、あらゆる場での発言力が強くなる魅力的な職。


 彼らの目的は、覇王十二使徒になること。


 どんな役職だって構わない。どんな仕事だって、引き受けて見せるつもりだ。ただ、王に謁見をする権利さえ手に入れることができれば……それで良いのだ。


「確かに。これ逃したら終わりだからな、全部。しょうがない、ノンストップで行くか」


「ああ」


 彼らは進み続けた。


 走れば数時間で到着する筈なので、体力の続く限りは足を止めることなく進んだ。


 途中には行手をモンスターや山賊などが阻むこともあったが、彼らの敵ではない。


 移動の片手間で捻り潰し、特に時間を取られることは無かった。


 と、短い旅路を進んでいると目的地にはすぐに到着したのだった。


「着いたか」


「長かったな、戻ってくるまで」


 無事、レギレス王都に到着した。


 リアフィもイデアルも息は上がっておらず、なんなら予想よりも遥かに早く到着出来たので、だいぶ余裕が生まれた。


 覇王十二使徒の選考会は明日。今は前日の午後一時ほど。準備をしていればすぐだろう。


「この後はどうするんだ?リアフィ」


「宿に行こう。それで明日への準備をしつつ、飯を食いに行こうよ」


「そうだな。取り敢えずは休憩か」


 王都には数多くの店が出ている。


 その規模は世界最大とも言われており、周辺地域と比べたら別格である。


 中央広場に赴けば大体の品は揃うので、最初から王都に買い物に来るという人も少なくはない。


 勿論それは宿も例外ではなく、歩いていれば自ずと宿に到着するレベルだ。


「じゃ、ここにしようか」


 リアフィは目の前にある宿を指さした。


「まあ品質は求めていないし、俺は構わない」


 イデアルが品質という言葉を口にした通り、お世辞にも見た目は良いと言えないボロ屋。


 蜘蛛の巣は張っているし、何枚か窓ガラスは割れている。普通の人が見れば、泊まりたいとは思わないだろう場所だ。


「じゃあ決まりな」


 二人は無事に宿をとることができた。


 ここの店主は素っ気ない態度で二人を迎えたのだったが、それとは裏腹に飯はとても美味しかった。


 多分、外装と愛想を良くすれば繁盛するのではなかろうか。あ、あとベッドは硬い。


「じゃあ、もう寝ようか」


 部屋のベッドの一つに横たわったイデアルは、リアフィに促す。さすがの彼も疲れているようだ。


「そうだな、おやすみ」


「ああ、おやすみ」


 明日はラストチャンスだ。


 二人の計画は明日の成功を以て、初めてスタートを切れるものだ。逆に言えば、明日ミスをすれば全てが終わりだ。


 失敗は許されない。


(僕は、絶対に姉さんを……)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ