First round, start!!!!
『では、一回戦を開始致します』
戦士たちは闘技場へと足を踏み入れ、 フィールド全体へと散らばる。乱闘戦は開始された。
覇王ブロック参加者359人のうち、生存できる人数は4人。闘技場に繰り出した人々は、一斉に敵に攻撃を始めた。
当然それはリアフィも例外ではない。
あと、この試合で制限されているものはない。何の武器を使っても良いし、出来ることなら卑劣な行為だってしても構わない。
今だって、リアフィの目の前では倒された女戦士が屈強な男にレイプされている。もう何でもありだ。
「そりゃぁぁぁぁあ!!!!」
大声で一人の男がリアフィに斬りかかる。
全く、どいつもこいつも血の気は多かった。
「おっと……」
リアフィはそれをひらりと躱わし、虚空から剣を召喚する。剣でジリジリと音を立てながら均衡状態へと持ち込む。
他人の行動に意識を割きすぎると、いつのまにか死んでいたという事例が起きそうなくらい、ここは殺伐としている。
鍔迫り合いをしている時間はなさそうだ。
リアフィは男の腹部に蹴りを一撃お見舞いし、立ち続けに剣を奪う。これで二刀流だ。
「ちょ、お前、それ俺の剣……」
男は奪われた剣に手を伸ばす。
「なら、最初から武器なんて使わない方がいいよ」
目を丸くする男に、彼の剣を用いて攻撃を加える。リアフィ、中々非道である。
さぞ丁寧に手入れされていたのだろう。切れ味は鋭く、頭から股間まで一直線に切れてしまった。
血が噴水のように吹き出し、リアフィの服に付着してしまった。
「こっわ。……マジかよ」
一人死亡。だが、弔っている暇はない。
周囲の状況を確認すると、そこは既に屍の山だった。立っているのは20名になっており、あと16名が死ねば、晴れて第一戦通過だ。
「リスクは負いたくないし、ここらでちょっと……本気出すか」
リアフィは魔力をフィールド全体に散りばめた。有難いことに、敵さんたちは戦いに夢中で今はリアフィに攻撃は仕掛けられていなかった。
イメージするのは地獄にあるとされる針山。
別に尖っていて鋭いものであれば、基本何でも良かったのだが、イメージするにはちょうど良かった。
神に成って、真力操作は生前よりも数段階上手く出来るようなっている。不幸の副産物といえるが、有り難く使っている。
30秒もあれば、フィールドにいる敵全員を抹殺するための武器を完成させることだって容易である。
「はい完成!!」
リアフィはさぞ大変でした感を出しながら、額にあるであろう汗を拭う真似をした。勿論、死んでいるので汗は出ない。つまらない。
「さて、さっさと終わらせますか!!」
と、武器の発動をしようとしていると周囲にいた敵たちが群れをなしてリアフィの元へと駆け寄ってくる。
どうやら、膨大な魔力が散りばめられたことで何かしようとしていることがバレたらしい。
さっきまで敵同士だったものたちが手を取り合って、一人の厄災へと武器を向ける。
「なんか全員の敵みたいにされてるの、癪だなぁ」
リアフィは悲しいよ、と泣く真似をした。
戦士たちは剣、盾、拳、魔法、あらゆる手を使ってリアフィの攻撃を止めようとした。
中には「こいつやりおる」と感心した戦士もいたのだが、当のリアフィが強すぎるせいで結局倒される始末。
この調子で行くとせっかく造った武器が無駄になりそうだったので、早急に戦士全員を吹き飛ばすことにした。
「……【離】」
リアフィは誰にも聞こえない声で言った。
と同時に、周囲に溜まっていた戦士たちは何かを食らったかのように吹き飛ばされた。その後闘技場の壁へと激突する。
(別に魔力操作さえ出来ちゃえば、これも使えるのか)
リアフィはイデアルが得意とする【離】を、土壇場で模倣し発動した。多少イデアルのものと異なるが、大元は同じだろう。
さて、戦士たちが配置についたのでここからは少しカッコつけるターンである。
名前とかを言ってもいいが、ネーミングセンスなんてものはない。変に凝ろうとすれば大惨事になることは明らかだ。
なのでリアフィは単純な名前を叫ぶ。
「【黒槍】!」
リアフィは魔力操作を介して、武器を起動させる。
地面で待機していた【黒槍】が一斉に、残っていた敵全員の胴を貫き殺害した。殺傷能力は十分である。
「さて、これで僕の一回戦通過は確実……」
リアフィは周囲を見渡した。
「ん?」
そして気づく。先程まで殺伐としていた筈の闘技場が、お子様たちには見せられないほど血で染まり、無数の死体が転がっていることに。
なんなら、一回戦を通過できるのは四人なのにリアフィ以外残っていない。
「ちょっと、やり過ぎたかな」
ちょっとどころではない。やり過ぎである。
二回戦以降はどうなるのだろうか。見た感じでは戦う相手などいない。
「ま、どうにかなるか」
リアフィは実に楽観していた。
試合終了の合図が出されるまで暇なので、魔力操作で魔力を練って、何か出来るようにすることにした。
こねこね、とまるで粘土を練るように。
『ここで試合終了です!』
遊んでいると、やっと試合終了の合図がされた。結構待たされたので待ち遠しかった。
『覇王ブロックの生存者はリアフィ様のみとなります。なので……えーと、二回戦以降は不戦勝に────』
リアフィはえ!?まじ不戦勝?と、内心手間が省けたことを大喜びした。のだったが、
『────それでは実力が掴めん。では、一人残った彼の実力、私が試させてもらおうか』
ぬか喜びになりそうだった。
アナウンスからは先ほどの女の人の声ではなく、一人の老人の声が混じるようになり、どうやら彼と戦うことになりそうである。
『ええ!?騎士団長様が直々にお相手なさるのですか……?』
『ああ。試合を見る限り、彼は相当な実力者と見る。だが、敵が弱かった可能性も捨て切れないからな。私がお相手しよう』
どうやら老人は騎士団長というかなりの手練であるようで、普通に三回勝ち進むよりも面倒事になりそうだ。
話し方からして余裕はあるらしく、リアフィはうげぇと怠そうにしていた。
(余計なことすんな爺さん……)
リアフィはこれでもかと大きなため息を吐いた。
『それでは二回戦は緊急戦!!リアフィ様と騎士団長──オルデラス・リービッヒ様との対決になります。開始までしばらくお待ちください』
決まってしまった。不戦勝ではなく、緊急戦とかいう謎の試合が。
「まぁ、二回戦行けただけマシか」
変な疑いをかけられて二回戦に行けないよりは良いと、リアフィは重い足を動かして選手控え室に戻るのだった。
「あ、そうだ。イデアルはどうだろうか。突破出来ただろうか」
リアフィは選手控え室にある魔力掲示板で、各ブロックの二回戦進出者を確認した。分かってはいたが、大体の戦士の名前は分からなかった。
「ふむふむ。」
リアフィは進出者名簿を読み進め、とうとう探者の進出者に目を移した。
『探者、進出者一覧。
アッチー・ムイテ・ホイ、
ナニ・ツクロ・ツクロウ、
チッチーノ・イ・チイィ、
イデアル』
リアフィは安堵し、息を吐いた。
「良かった。イデアルも二回戦進出最高か。まあ、負けるとは思ってなかったけど……というか他のやつ名前の癖強くね?」
本当に人名が疑うような文字が、そこには映っていた。親よ、何故こんな名前をつけたのか。ただ面白いだけであるが。
これで最初の心配事はなくなった。
次に心配なのはイデアルが無事に二回戦を突破できるか、というのもあるけれど、リアフィ的には自分の試合も心配になってきた。
騎士団長とやらと戦うにしても、国の治安維持に貢献している人であるから、殺すことはできない。
良い塩梅で戦えるか、心配だ。