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花束を抱え、神は咲う。  作者: 大石或和
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Dreams or the past?

 さて、二人がこうしてピンピン出来るようになるまでには大体一週間の時間を要した。


 一週間前、【天啓の雫】と適合したリギアは王城の研究室を破壊。その後アイロードを担ぎ上げ、逃走した。


 追手が来るよりも早くに逃走をしたおかげで、特に苦労することもなく姿をくらます事に成功した。


 けれど、


「これから……どうしようか」


 身を隠した森の中、リギアは途方に暮れていた。


 はっきりとしない意識の中、確かに父を殺した感覚はある。これでは王族殺害の反逆者として、国を追われても何ら不思議ではない。


 この先のことを考えても、結果詰んでいることは確かであろう。常識的に。


 リギアは大きなため息を吐き、大きな木の根に腰掛けた。


「取り敢えず、姉さんを奪還することを最優先にしないと。父さんのことだ……何かしらの手は打っているだろう。マズったな」


 リギアは頭を抱え、苦笑いを浮かべた。


「それにしても多分僕、可笑しなことになってるよな。だって…あの時僕は、レブノに……」


 数時間前、己の身に起きた不運を思い返す。何度繰り返しても、やはりあの時に死んだことを自覚する。


 体を触っても体温は感じられない。


 自分の魔力を用いて回復させたアイロードの体に触れれば、彼の体温が余計に高く感じる。


 もう彼は、人ではないのだ。


「でも、道半ばで息絶えるよりマシか」


 さて、とリギアは心機一転して立ち上がる。


「リギア……?」


「おお、アイロード。目が覚めたか」


 ようやくアイロードが目を覚ました。とは言っても、あの重傷からの復帰と考えればあまりにも短時間である。


 彼の生命力が強いのか、人ならざる者への進化を遂げたリギアの魔力治癒能力が優れているのかは定かではない。


 アイロードはボヤける目を擦り、髪色が多少変化したリギアを見た。


「リギア、お前……成ったんだな、神に」


 アイロードは覚えていた。


 意識を失う前に起きていたことも、リギアの身に起こったであろう変化も。後者についてはある程度予想の範囲を含むが。


「ああ。成っちゃったよ、ほんと変な気分さ」


 リギアはアイロードを心配させまいと、決して不安気な表情を見せなかった。ただ和かに笑っていた。


 けれど、彼らに気を抜いている時間はない。


 リギアは神になったが、それは別に目的としていたものではない。本来の目的はレディミアの救出。彼らはそれに失敗している。


 大元であるリヴァンは死んだと推測されるが、レディミアの居場所は不明のまま。


 何かしらの策が講じられていた場合、彼女の身に危険が迫っていても何も不思議ではないのだ。


 未だに誰かしらがレディミアに【天啓の雫】を投与することを考えているかもしれない。そう考えると、リギアの体は動かずにはいられなくなっていた。


 そのことをアイロードへ伝えると、彼はリギアに一つ提案をする。 


「だがリギア。名前も顔も知られていたら、すぐに王家にバレるのがオチだ。だから、名前と顔を変えよう」


 彼の提案は一理あった。


 一般人ならまだしも、彼らは王族の人間だ。事情が重なり公に顔が知られていないアイロードはともかく、リギアは本家の王子である。


 このまま暗躍しようとしても、表に立った瞬間に大衆に気づかれ計画は破綻してしまうだろう。


 そっか、とリギアは顔に手を近づけ魔力を流し込んだ。


「これでどう?」


 アイロードの前に現れたのは、童顔寄りだった顔を大人よりにしつつ、割と別人になったリギアの顔だった。


 目つきもキリッとしたものになったが、以前のような優しさも兼ね備えられている良い塩梅に抑えられている。


「凄いな。魔力操作もここまで来ると芸術だな」


 短時間の変わりようにアイロードは呆気に取られる。結構無茶を言ったつもりだったけれど、リギアにとっては余裕みたいだった。


「それじゃ、アイロードにも手を加えよう」


「頼む」


 リギアはアイロードの顔に手を伸ばす。


 アイロードも多少童顔が抜けきっていない部分があるので、リギアはそこらを充填的に改造した。


 想像するのは25歳くらいのカッコいい執事。アイロードの年齢は19歳だから、だいぶ鯖読みする事になるけれど、バレるよりいいだろう。

 

 目つきはキリッとさせて、輪郭はシュッとさせた。


 自分よりもアイロードの方が時間をかけているのは、リギアが彼を大切に思っている証拠だろう。


「出来た」


 リギアは近くにあった水辺にアイロードを連れて行く。


「おお。面影がないな」


 新しい自分の顔を見て、アイロードは質素な感想を漏らした。あまりにも簡潔である。


 なんにせよ、これで旅の青年二人感は出た筈である。


「次に名前だよね?せっかくだから、二人で互いのをつけようと思う。……自分のつけるのはなんか恥ずかしいし」


「そうだな。じゃあ、お前は今からリアフィだ」


 アイロードは間髪入れずに宣言した。


「なんか雑じゃない?」


 リギアはすぐに由来に見当がつくので、ジト目でアイロードを見てやった。


 それもそうだ。リギア・フィ・レギレスの名前から、リとアとフィを取ってつけただけ。名前自体の聞こえは良いが、割と雑である。


 雑に命名されたのでリギアも同じことをしてやろうと考えたが、アイロードの名前が名前なので良いものが思いつかない。


「お前だいぶ完成された名前持ってるよな」


「そうか?」


「うん」


 リギア、悩む。


「じゃあアイロードはイデアルね」


 結果的に雑に決まった。


 リギアの直感と言うよりも、何かこうしっかりとした理由があるような閃き…これも神の力の弊害なのだろう。


 どうせ、てきとうに付けたと考えたアイロードは特に由来とかを聞かなかった。そこまで変な名前でも無かったので、異も唱えない。


 こんな感じでリギアはリアフィに、アイロードはイデアルに名前を変えたのだった。


「じゃあリアフィ。目的は変わらないままなのは良いとするが、一般人としてレディミアを助けるのなら、そこまではどうする?」


 アイロードは問う。


「そこも考えているよ。確かレギレス王国には王への謁見が許されている、覇王十二使徒がいるだろう?」


「そうだな」


「それを利用する。都合のいい事に、選考会はだいたい二週間後にある。そこで覇王十二使徒となり、王家へ近づく」


「お前にしては具体的な計画だな」


 予想を超えた計画が飛び出し、アイロードは感心する。もっと言えば、リアフィの成長をひしひしと感じていた。


「よし、さっさと王国へ行って今度こそ姉さんを救い出す!!」


 こうして、リアフィとイデアルの二度目の救出劇が始まったのだった。


 とは言っても流石に疲弊しきった体をすぐには酷使できないので(特にアイロード)、二人は一週間のリハビリ期間を設けた。

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