修学旅行は行きません
「修学旅行、ほんとに行かない気?」
担任の新妻詞丗は、本日三度目の確認事項を問う。
「勿論、参加するつもりないですけど。あの修学旅行参加申込書にも、不参加って書きましたから」
こちらも本日三度目になる定型文を読み上げる。
そう易々と、俺の気が変わるとでも思っていたのだろうか。この確固たる決意が揺らぐはずがないというのに。
「そ、そっか。うーん....」
新妻は困り顔で、何やら思案し出す。
勝手に好きなだけ考え事をして貰っていいが、今はとにかく早く俺を解放して欲しい。
ただでさえ、職員室は生徒が萎縮する場なわけでもある。
長居は御免だ。
「じゃ、帰らせて貰いますよ」
「あ、待って。やっぱり駄目だよ。一生の思い出になるんだよ」
..はぁ。その一生の思い出とやらは、俺には地獄にしかならん。
そろそろ察しろよ。なぜ俺がこうも修学旅行なんかに行きたくないかっていう大前提を。
わざわざ言わせないでくれ。
「今更思い出もくそもないです。青春放棄した者なんでね」
「??? どういうこと?」
おいおい、鈍感すぎだろ。
──あぁ、もう。はっきり言うしかないか。
「だから俺、瀬川孤空はぼっちなんです。そんな奴が修学旅行に行ったって、楽しくないでしょ?」
そもそも学校行事なんて、友達がいない奴は寂しく孤独なものでしかない。
友達がいることが前提で、ぼっちには何も配慮されないのが常だ。
「え、一人も友達いないの!? そんな事あり得る!?」
やめろ、そのリアクション。
新妻、あんたが思ってるほど世界は甘くないんだ。
「十人十色っていうでしょ。友達がいない奴だっています」
「十人十色..人それぞれってわけか。孤空君訳ありなんだね」
微妙にディスられた..?
「でもね、孤空君。それなら私と班組んじゃえば解決じゃん! 一人にはならないよ! 先生と一緒に、修学旅行来て欲しいなぁ」
「......」
あぁ──まただ。
優しさだって時には裏目に出る。
修学旅行で先生と班組んで回るとか、普通に悲しいわ。
そこまでして修学旅行に行く意味あるのかよ....。
「じゃ仮に、先生と班組んだとして、それで楽しい修学旅行になります? 俺は全然楽しくないと思いますけど。そういうのって、迷惑です」
「────」
もういい。いい加減、帰ろう。
新妻が何か言いたげだったが、どうせありがた迷惑な優しさだ。
俺は足早に、職員室を後にした。
ああいう気遣いは、一番癪に障る。