ジャンル:異能バトル
ジャンル:異能バトル
指定文章:どうだ?手も足も出まい
特記事項:能力名は必ず漫画のタイトルであること
「君が僕の相手?ずいぶんと楽そうなヤツが来たもんだね……」
そう言って挑発するのは、中肉中背で気味の悪い細身の男。彼は猫背ぎみな肩を緩慢な動きで左右に揺らしながら相手に一歩ずつ歩み寄り、こう続ける。
「君にいいことを教えてあげるよ……僕の能力は……無敵だ。決して負けることはないんだ……」
「御託はいい。俺も早くお前を倒して次に行かなければならないんだ」
歩み寄られたもう一人の男も、しびれを切らして苛立ちをあらわにする。彼は細身ではあるものの鍛えられた筋肉を服の下に隠し持っており、肉弾戦であればこの男を有利と判断するだろう。
しかし戦いはそれだけでは決まらない。異能という、人知を超えた大いなる力を持った者同士が戦うバトルなのだ。安易に戦場に近づけば、命の保証はない。
いつもなら人通りが多いこの広場には、家族連れの人々や学生、休憩中の会社員などで溢れているはずだが、今は彼ら二人を除いては誰の姿も見えない。二人の横にそびえ立つ大樹が風に揺られ、緊迫した静寂が声をあげる。
カミサマ代理戦争。それが僕たちに課された使命の名前。天界と呼ばれる世界に住んでいるカミサマは、それぞれの個が強すぎるゆえに、地上の一般人にその力を分け与え、カミサマの代わりとなって戦うのだ。
「フフフ……もう既に僕を倒したつもりでいるようだけど……調子に乗ってると痛い目を見るよ………」
そして言い忘れていたが、僕は中肉中背で気味の悪い男(↑これ)だ。敵かと思ったって?うるさいな。
「その言葉、そっくりそのまま返してやろう!《進撃の巨人》ッ!」
その瞬間、男の身体がメキメキと音を立てて肥大化していく。異能の力だ。男が着ていた服が破れ、筋線維が剝き出しになった巨大な筋肉に覆われていく。
「俺の能力は[筋肉増強]。自分自身に筋肉の鎧を纏う異能だ。数値にしておよそ10倍……防御力だけじゃない。俺自身の動きすべてが増強される」
そう言うや否や、男の姿が影のように霧散した。……いや、僕の動体視力では追いつけないほどの素早さで、僕を殴りつけたのだ。
間違いない。シンプルながらも近接戦に特化したタイプだ。軽く絶望するが、それを表に出すわけにはいかない。僕は余裕綽々とした態度を保つことにした。
「どこを見ている?僕はここだ」
「……………………そんなこと言うからてっきり避けたのかと思ったら、すでに虫の息じゃねぇか」
当たり前だ、僕自身は弱いのだから。
男の一撃により僕は地面に這いつくばっていた。常人では手も足も出せない物理法則を無視した圧倒的な力。思わず悪態をつきそうになる。
「どうだ?手も足も出まい」
「お前がな」
しまったな。ここぞというときに決めるセリフだったのだが、どうやら使い所を間違えたようだ。
本来の姿から二回りも巨大化した男は、僕の背中をブーツで踏みつけ、ぐりぐりと肉を潰す。
僕が抵抗できないことに気づくと、彼は口角をにいっと歪め、饒舌に語り始めた。
「よく、シンプルな能力は弱いという奴がいる。だがそれはあくまで、敵が自分の罠に嵌った時にのみ強さを発揮する限定的なものに過ぎない。強さを弱さの裏返しであると信じているのだ。物語に出てくる吸血鬼のように、大きな弱点があるほど強力な能力でなければならないと思い込んでいる。しかし現実は非情だ!弱い異能は弱いまま、強い異能はそのすべてにおいて凌駕している。俺の異能に弱点はない、故に《進撃の巨人》は最強なのだッ!」
男は動けなくなった僕のみぞおちに強烈な蹴りを放つ。純粋な痛覚が僕の身体の隅々にまで迸り、ひくひくと痙攣する。内臓に加えられた衝撃が僕の意識を奪おうと就縛する。
彼にとっては軽い蹴りだったが、僕の身体は10メートルほど吹き飛んだ。起き上がることはおろか、息をすることさえ満足にできない。
頬を伝う汗だったものが赤くにじみ、地面へと染み出していく。どうやら先ほどの衝撃で血管まで弾けてしまったようだ。
………………だけど、それだけだ。僕は死んでいないし、掠れてはいるが声も出せる。
僕は潰れた腹部に力を籠め、必死に言葉を紡ぐ。絶え間ない痛みを気合で無視しながら、彼を見据えて話しかける。
「君の異能……ざっと見たところ、そのほとんどのリソースを近距離能力に割り振っている。特化しているがゆえに、他のことは何もできない凡庸な能力」
ゆっくりと目を閉じ、異能の名前を口に出す。
「《トリリオンゲーム》」
ぼろぼろになった僕の手に、木でできた質素なそろばんが現れる。震える指でそろばんを弾けば、遠くにいた男の頭上に数字が表れ、弾くごとにその数値が増えていく。
「僕の異能は[買収]。相手の異能を正しく目利きし、その異能に❝値段❞を付ける。そして………その値段が正当ならば、相手の異能を買い取ることができる。見たところ、君の価値はそこまで高くないはずだ………」
ぱち、ぱち、とそろばんを弾くたびに頭上の数値が変動し、彼にとっての敗北のカウントダウンが進んでいく。
僕の脅威を感じ取ったのか、男は僕めがけて全速力で突撃してくる。君には遠距離攻撃手段はないのだし、止めるすべはない。
「そして僕は…………君にとっては残念なことに、とある財閥の御曹司なんだ。なあ、どういうことか分かるだろ?」
「ふざけるな…………ふざけるなよクソがあああああ!!!!」
高鳴る鼓動を抑え、息を大きく吸う。僕の戦いはこれだけだ。
「買ったッッ!その力、僕が2000万円で買収するッッ!」
言い終わると同時に正解の鐘が鳴り、男の纏っている凝縮された筋肉が元に戻っていく。僕が失ったのは、金だけだ。
そして、周囲から様々な歓声が聞こえ始める。隠れていた観客のカミサマたちが、姿を見せてヤジを飛ばしている。悔しがっているカミサマもいるが、きっと男が代理者を務めた人なのだろう。
もはや男に戦闘の意思はないし、勝負がついたとカミサマが判断した以上、襲われることはない。
だが、これで終わりではない。担当であるあの情けないカミサマと、いつか訪れるであろう強敵に想いを馳せながら 僕は意識を手放した。
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