Story1:ここが居場所
「またね」
少年は、孤児院から出て行く子供に笑って手を振った。
少年よりも小さいその子は、決して笑っていなかった。
最後に、無理して笑ってくれたが、同時に涙 を零していた。
ハッと、隣の高価な服装をした貴族の男の人に気づかれないように、涙を拭って、俯いた。
少年は、決してほほえむことをやめなかった。それ
が、たとえその子を傷つけているとしても、少年はや
めなかった。
少年は、孤児院から出たかったから。
小さな孤児院に、その少年はいた。ネズミの住処のよ
うに汚く、何年も掃除をしていないような部屋に、少
年は住んでいた。
他の部屋はちゃんと綺麗に清掃されていて、小さい孤児院にしては高価に見える。
部屋に戻り、汚らしい部屋の掃除を始めた。少年は掃
除がうまく、30分もすれば部屋は周りの高価に見える部
屋に劣らない綺麗さになった。
だが、それは瞬間でし かない。窓から水が飛び散り、泥団子などを投げ入れられた。
綺麗だった少年の部屋は、瞬間で水に濡れ、泥でぐちゃぐちゃにされてしまった。
窓の外から歓喜の声が聞こえた。
孤児院の子供だ。その子供たちは、毎日のように少年の部屋を汚し、少年の大切な物を壊
していった。だが、少年は怒らなかった。むしろ笑っ
て、子供たちを部屋から見下ろした。