大草原と石壁世界 #5
暗い昏い、遠くて深い地下の底。
空気はどんどん湿ってきて、どこか身体が重くなるような、そんな息苦しさを感じ始めた頃。
気付けばエレベーターは止まっていて、洞窟のような場所が眼の前に見えました。
光る棒が天井に一定間隔で並べられていて、不思議と明るく感じました。
「おじさん、ここで調べるのぉ?」
「――ああそうだよ。この先で調べられない事はないからね。大事な場所というのもあるから、ちょっとばかり怖い雰囲気だけど、大丈夫だからね。しっかり付いてきてね」
「はーい!」
元気な返事に笑みを返したおじさんは、しっかりとした足取りで洞窟を歩きます。
アーシェも今ばかりは鼻歌やスキップをしたい気分を抑えて、大人しくおじさんに付いていくことにしました。
けれども、彼女は好奇心に勝てません。
「ねぇねぇおじさん、この先に何があるのぉ?」
「この先は誰が、いつ、どこで産まれたのかを記録したり、今どこで何をしているのかを把握する場所だよ」
「そーなんだぁ! どうやって記録してるのかなぁ」
「そこは企業秘密、ってね。流石に教えられないかな」
「秘密なんだぁ。じゃあじゃあ、この光ってる棒は?」
「蛍光灯って言ってね。電気を使って明るくさせてるんだよ」
「すっごーい! じゃあじゃあ――」
アーシェは街に付いてから気になっていた事をどんどん聞いていき、おじさんはゆっくり、しっかりと答えてくれます。
やがて洞窟の奥に朱い木で出来た、扉がない立派な門が見えた時、アーシェはところで、とおじさんの服を引っ張りました。
「おや、アーシェちゃんどうしたんだい?」
「あのねぇあのねぇ、どうしてここは、こんなに魔力がいっぱいなの?」
「ああ、それはね――」
そうしておじさんはおもむろに振り向くと、アーシェを抱っこしてレコを脇に抱えて門を潜りました。
「――魔力をもらって電気を作るためだよ」
『アーシェ!!』
レコが叫ぶと同時に、おじさんはレコを門の外に投げ捨てると、口が耳に届くまで、いえ、後頭部まで一気に広がって嘲笑いました。
「安心したまえ、帽子クン。キミは我々にとって大変興味深い存在なのでね……アーシェちゃんとの用事が終われば、一緒にしてあげるよ」
『このっ……!? 鳥居を潜れない!?』
「御用のないもの通しゃせぬ。たかだか憑き物風情が、神の供物に手を出せるなど笑止万全。そこで無い指咥えて見ているがいい」
『コイツ、まさか最初から!!』
「そうさ、そうとも、その通り! お前たちがホテルに入ってからずっと感知していたよ。上質な魔力、外から来たにしては不思議に思っていたが、私には関係ない!」
『一体なにが目的でこんなことをするんだ! アーシェを攫って何をする気だ!?』
「最初に言った通りだ。この娘の魔力を喰らい、電気を作る。ただそれだけだ」
ボコボコと洞窟の形が歪んで、それはどんどんと街の形を作っていきます。
それはやがて様々な建物を作り、海や森、山を作ると、そのまま球になって宙に浮かびました。
「これは外なる神たる私が、私のために作り出した星だ。しかし完成したのはなんの面白みもない、魔力を持っただけの文明遅れな世界。だが、それではあまりにもツマラナイじゃあないか。だから下界に降りて電気を、機械を生み出したのさ」
街の一部が急に盛り上がると、一つのビルを作り、やがてその街を中心にビルが増え始めました。
けれど同時に、外側に壁も作られ始めます。
それをおじさんは忌々しそうに顔を歪めて見ています。
「しかし忌々しき人類共は、あろうことか神に歯向かおうと壁を立てて私の街を、国を、世界を隔離しようとしたのだ!! ここは私が作った、私のための星だぞ!? たかが創られただけの存在が創造主に歯向かうなど、ふざけるな!!!!!!」
壁が高く作られ、おじさんが怒り狂ったように叫ぶと同時に壁の外に波紋が広がると、外の世界にあったものが次々と消えていき、残ったのは草原だけになりました。
「そして私は奴らを草に変え、ただ魔力を放出するだけのオブジェクトにしたのだよ。その魔力を電気に変換し、機械に興味がある人類を吟味することで一気に文明を進めることができた。後はエネルギーの量を増やしていくだけよ」
「ねぇねぇおじさん」
「そして……驚いた。まさか眠っていなかったとは――っ!?」
その時、まるで眠ったように動かなかったアーシェが、ゆっくりとおじさんを見上げました。
その目は虹色の膜が輝くようにキラキラと光っていて、その先にはシャボン玉のように歪んだ色だけが見えています。
けれどアーシェは普段通りに、そして不思議そうに、楽しそうに聞きました。
「やっぱりおじさん、この奥にいる何かとおんなじ魔力をしてるねぇ」
「この状況で起きていて、先の話を聞いて笑えるなどとは思わなかったが……やることは変わらない。お前はこのまま、この神の供物となるがいい」
アーシェの顔を鷲掴みにしたおじさんに、けれど彼女は相変わらずわかっていない顔で考えます。
「神様のご飯になるのぉ? そしたらアーシェはどうなる?」
「ああそうだ。安心するが良い。お前は神たる我の中で永遠に生きるのだ」
「レコはぁ?」
「アレは分解し、中身を存分に見せてもらう。あのようなものは創造したことがないのでな。良い文明の礎となるだろう」
「んぅー、それはやだなぁ」
アーシェが眉を顰めたその時、鷲掴みにしていたおじさんの指が全て反り返りました。
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