大草原と石壁世界 #4
「ベッドはふかふかで気持ちよかったしぃ、朝ごはんもすっごく美味しかったしぃ、あのネコちゃんも可愛かったねぇ!」
『くぅ……キャラ付けするかなぁ!?』
朝から元気いっぱいなアーシェの上で、レコは頭を悩ませています。
どうすれば、あの猫の偽物よりもアーシェに構ってもらえるのか。
けれどアーシェはそんなレコの様子に気付かず、ただひたすら朝ごはんの味を思い出しては頭の中で味わうのでした。
「それにしても不思議な街だねぇ。背の高い箱ばっかりぃ」
『……高層ビル群、って呼ぶみたい。狭い土地で得られる利益を、できる限り多くするための建物の作り方みたいだよ』
「建物が高いとお金がいっぱいもらえるのぉ?」
『というよりも、限られた範囲で出来ることを増やす、って感じかな。昨日泊まったホテルでも、かなり広い部屋だったでしょ?』
「うん、すっごいよねぇ! あの広さの部屋がいっぱい選べたから、空間拡張の魔法でも使ってるのかと思ってたぁ」
『それはコスト面で見ても多分維持できないと思うよ……。ボクたちの部屋が一階だったからわからなかったと思うけど、あの部屋が上の階にもあったんだよ』
「えぇ? 階段もないのに、上の階に部屋を用意するのぉ?」
『それはね――』
一人と一個は楽しそうに会話をしながら街を飛び回りました。
時には街に降りてご飯を食べたり、歩いてみたり、ふんわりふわふわ、たまにビュンと、ビルの間を縫うように飛ぶ姿は、とても目立っていたのでしょう。
街の中心にある、一際大きな神殿の前を飛んだときに、オーイ、と声が聞こえてきました。
「そこのキミたち! ちょっとこっちに来なさーい!!」
「んぅ? レコ、何か言ったぁ?」
『ボクじゃなくて、地上のあの人だよ』
「おぉー、りょーかい!」
ふんわりふわふわ、アーシェは白いパリッとした服に黒いズボンを履いたおじさんの前に立つと、こんにちは! と笑いかけました。
「おじさん、アーシェを呼んだぁ?」
「あぁ、アーシェちゃんって言うんだね。どういう手品かはわからないけど人が空を飛んでる! って通報があってね」
『あー、そういえばボクたち以外に空を飛んでる人はいなかったね』
「お空を飛べないの? 気持ちいいんだけどなぁ」
「その喋る帽子といい空を飛ぶのが当たり前みたいなことといい、キミたちはどこの子だい?」
怪しい何かを見るようなおじさんに、アーシェとレコは顔を見合わせてから、ハイ! と元気良く手を挙げます。
「アーシェはアーシェだよ! パパとママはわからない!」
『ボクはレコ。この子の親代わりみたいなモノだよ』
「なるほど。親は不明……と。家はどこかわかるかな」
「んぅー、どう言えばいいかなぁ」
『そうだね、ココにはないかな。探したところで見つからないと思うけど』
「そ、そうかい」
一人と一個の話を聞いても、おじさんは良くわかりませんでした。
家族も家もわからない、何故か空を飛べる、自分たちと違う髪色や顔立ち。
そんな少女に、おじさんはちょっと待っててと声をかけると、少し離れてから黒い小さな箱を取り出して、それに向かって何かを話し始めます。
「レコー、あれなぁに?」
『無線機っていう、簡単に言えば電話を小さくしたものだよ』
「すっごーい! じゃあじゃあ、無線機があれば遠くにいてもお話できるねぇ!」
『もっと便利な道具はあるけどね……』
アーシェが凄い凄いと無線機をじっと見つめていると、ふとおじさんがにっこりと笑いかけました。
「アーシェちゃん、良ければおじさんに付いて来てもらってもいいかな。確認したいことがあるんだ」
「確認したいこと? わかったぁ!」
『アーシェ、ちょっと待って! おじさん、確認したいことってなんだい?』
「キミたちの情報がないか、何か覚えていることがないかを確認したいんだよ。本庁に行けば、写真とか情報は大体あるはずだからね」
そう言いながら、おじさんは大きな建物へと入っていきます。
レコは怪しんでいましたが、アーシェは何があるのかワクワクしながらおじさんに付いていきました。
そうして入った神殿の中は、太い紐のような金属やホテルでも見たモニターがたくさんありました。
そんなモニターの前を白くて長い服を着た人たちが、忙しそうに行ったり来たりしています。
そんな人たちを不思議そうに見るアーシェでしたが、おじさんに置いていかれないように目に虹色の膜を出してからすぐにおじさんの元へ向かいました。
「地下へ」
「ふわぁ!? 何これぇ!?」
『エレベーターっていう、上下に移動するための箱だよ。それにしても地下?』
「おもしろーい!!」
ちょっとした浮遊感を楽しむアーシェでしたが、レコはロップイヤーで腕を組みます。
二人と一個を載せた箱は、地下へ地下へと降りていきました。
グングンと、下りて、降りて、落ちて――――――。
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