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猫耳フードと旅する少女 ~巡りまわる不思議な世界~  作者: 灰猫 無色
大草原と石壁世界
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大草原と石壁世界 #1

1章を書き終わる毎に1話ずつ投稿していきます。

1章毎の速度は遅くなりますが、どうぞよろしくお願いいたします。

 広い広い、広大な緑色の海みたいにも見える草原。

 サァサァと風に草が撫でられて奏でるメロディに、ふわりと音が増えました。


 あどけなさを残す顔だけどすらりと高い背、ちょっとだけ日焼けをしている白い肌に、白いワンピース。

 色々と小物が詰まったジャケットを羽織って、生活必需品が詰まったリュックサックを背負っている。

 そして小動物を思わせるような"もこもこ"の猫耳フードの下で、長く蒼い髪をふんわりと空に泳がせながら少女が楽しそうに微笑んで踊っています。


「広いねぇ、涼しいねぇ、空気が美味しいねぇ!」


 歌うように、詩を詠むように、鈴を転がすような声が弾むように草原を駆け巡ります。

 けれど草以外に動物どころか虫一匹も見当たらず、彼女の声だけが辺りに響き渡りました。


『見渡すばかり草ばっか……アーシェ、生き物の姿は見える?』


 そんな声に答えたのは、"もこもこ"の猫耳フード。

 ちっちゃく可愛らしい目を細めて、ロップイヤーのように垂れ下がった日除け布を双眼鏡のようにして遠くを見ています。


「うん、見えてない! 不思議だねぇ、レコ」

『ダメじゃん!?』


 日除け布でモコ! っとアーシェを叩きますが、彼女はケラケラと笑うばかりで、猫耳フードのレコは思わずため息を吐くのでした。


「ところで、ここってどこなんだろうねぇ? 見たことないや」

『ボクだって見たことないよ。こんな不気味な場所』

「不気味かなぁ? アーシェは気持ちが良い場所だと思うけど」

『見渡す限り背の低い草ばかり、高低差はあるけれど人や獣が通った形跡もなし。挙句の果てに虫一匹いないって、呪われた土地って言われてもボクは驚かないよ』


 マスコットのような口を歪ませて、ああ嫌だ嫌だとレコはロップイヤーを人間臭く横に振りました。

 けれどアセビアは気にしていません。


「ふーん、そんなもんかぁ。ま、呪われているならどうにかするけど――」


 右手の人差し指と親指で円を作って目に当てると、不思議と円の中がシャボン玉の表面の様な膜になります。

 それを通して見た彼女の視線には、ちょっとマーブル色に染まってはいるけれど、それまでと変わらない草原が映っていました。


「呪いどころか、霊一匹もいないねぇ! 神聖って程じゃないけど、(よど)みは一切ないや」

『自然の営みそのままってことか……こんなだだっ広い場所が人間どころか獣にも影響されずに在り続けるなんて、やっぱり変だよ』

「確かに、それはそうかもぉ。でも、そんな場所があっても良いんじゃない?」

『本当にアーシェは楽天的だね』

「前向きなのは良いことだよねぇ」

『たまには立ち止まって欲しいけど』


 鼻歌で気分良く歩くアーシェに、レコはヤレヤレとロップイヤーを掲げます。


「とりあえず歩いてみよっか!」

『え、歩くの!? 絶対飛んだ方が早いよ!!』

「たまにはさー、歩いてみないといけないと、アーシェは思うんだよ~♪」


 どこか外れた調子で歌う彼女に、けれどロップイヤーは諦めたかのように垂れ下がります。

 心なしか毛色も若干(しお)れてしまっているようです。


 そんな一人と一個が歩き始めて、景色が変わることなくアーシェがスキップを始め、そしてとうとう飛び始めてから数時間、ようやく彼女たちの前に草原以外のものが見えました。


「おー、おっきいね、おっきいねぇ!! なんだろなぁ、なんだろなぁ、あれぇ!!」

『良かった……アーシェが完全に飽きたってなる前に何か見つかって本当に良かった……』


 ぐったりとした様子のロップイヤーを風に泳がせて、アーシェは大きな大きな石の塊の前に来ました。

 そしてよく見るとそれは塊ではなく、まるで巨大な壁の様に立っていることがわかりました。


「ふわぁ……大きな壁だぁ……これ、どんな魔法で作ったんだろう?」

『魔法の使用形跡なし、表面の状態から多分数万年前に作られたものみたいだね』

「数万年!? すっごいすっごい!! そんなに昔から立ってるんだねぇ、偉いねぇ」

『しかもこれ、良く見たら覗き穴とか手すり付きのバルコニーみたいなところもあるし……もしかして城壁とか砦とか、そんな人類の防御の(かなめ)だったんじゃないかな』

「ほぇー、それならもっとすっごいよねぇ。だってそれだけ長い間、この壁の向こうを守って来たんでしょ。魔法の力も無しに、本当にすっごいよ!」


 キラキラと目を輝かせる彼女に、けれどレコはクリクリとした飾り物の眉を(ひそ)めます。


『それにしてはこう、手入れとかがされた跡がないね。それにボクたちがこの壁の前にいるのに誰かが見ている気配もないし、実際は廃墟なのかも――』

「すいませーん、誰かいますかぁ?」

『ってちょっとぉ!?』


 慌てるレコを無視して、アーシェはふわりと飛び上がり、穴や手すりのある場所を飛び回ります。

 けれどレコの言う通り、そこには誰もいませんでした。

 それどころか、まるで慌てて逃げだしたかのように物が散乱(さんらん)していました。


「うーん? これ、多分机と椅子、だよねぇ。これは器で、このシミは――」

『腐った食べ物の跡みたいだ。ということは何かがここであったのか』

「そっかぁ。普通じゃないことが起きてないとこういうのってないし、それなら人がいるかは期待できないかなぁ」

『そうだね、じゃあ別のところに行ってみ「ちょっと見てみよっかぁ」る?』


 スイっとアーシェは高く高く飛び上がり、あっさりと壁の一番上までたどり着くと、そのまま中に向かってゆっくりと降り始めました。

 上から見る壁の中はとても広く、地平線が見える程でした。

 そんな中に壁と同じ石で出来た大きな四角い建物や、粘土を焼き固めたような屋根の木造の家、それにガラスの窓が沢山張られた金属の搭が立ち並んでいました。


『アーシェ、何にでも首を突っ込もうとするんじゃないよ! 何かあったとしても、現地の人が対応すればいいんだからさ!?』

「えへへぇ、それならそれで気になるねぇ。どんなやり方で解決するんだろー?」

『ハァ、全く、この子は……』


 綺麗な景色がやがて赤く染まって、蒼く暗くなる頃にアーシェはその壁の中の街に降り立ちます。

 そんな彼女とレコは、降りながら光始めた搭や四角い建物に驚きながらも、その建物へと向かうのでした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

ブックマークや評価等いただけますと、モチベアップもそうですし大変嬉しいです!!

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