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【ヒーローに憧れた人が、物語に出会う話】

作者: 琥珀

ヒーローになりたいと思った。



日常的なちょっとした出来事の話ではなく、テレビや映画で放送されるようなスーパーヒーローに憧れた。



巨大な戦士に変身するのにも憧れた。

鎧を纏って戦う戦士にも憧れた。

超能力を身につけて、悪と戦うのにも憧れた。



妄想を膨らませ、自分がヒーローになることを思い浮かべて…

真似っこすることなんてしょっちゅうだった。



そんな中で、私にとっての変身グッズはゲームだった。


画面の中であることには変わりないが、自分の思い通りに動かすことの出来る世界は、まさに自分がヒーローになっているみたいで、輝いていた。



ゲームの世界で、私はヒーローだった。

町を守り、人を助け、世界を救うヒーローだった。

その時私は、間違いなくヒーローだったのだ。



少し時が経ち、ヒーローへの憧れは少し形を変えた。

私は現実でヒーローになることは出来ないと、理解した。



現実的な話だ。けれど事実でもある。



それでも私にとって、変わらないことがあった。

それは、ヒーローになりたいという気持ちであった。



くどいようだが、日常におけるちょっとしたことではなく、特別な力を用したヒーローに、である。



例えそれが現実的でなくとも、私の中のヒーローに憧れ、ヒーローになりたいという想いは、何年経っても廃れることは無かった。



しかし、同時に現実を知る私の中では葛藤があった。



私はヒーローになることはできない。



当然である。

明白である。

摂理と言っても良いだろう。



私の中での葛藤は、やがて画面ではなく、頭の中に移っていった。


頭の中で、私はヒーローであった。



巨大化して怪獣と戦う戦士、ベルトを巻きつけ鎧を身につけ戦う勇者、魔法や超能力を身につけ戦う能力者。



頭の中では私はいつでもヒーローだった。



どんな時でも挫けない、どんな困難にも立ち向かう、幼い頃から憧れ続けたヒーローだった。



だけど私はそれを表に出すことは出来なかった。



たくさんのヒーローを生み出しては、やがて記憶から消えていき、奥の底で眠らせてしまうのが常だった。



ある日、ある年。

私は消えてばかりのヒーロー達が無念で、癪で、思い付いたヒーロー達を紙に書くことを覚えた。



すると不思議なことに、ヒーローは私の中から消えず、例え一時薄れることがあっても、読み返すことで再び蘇ってきたのだ。



私が明確に文字というものを理解し、出会ったのは思えばこの時だったと思う。



ヒーローは私が考えれば考えるほどに生まれてきた。

例え薄っぺらい、咄嗟に考えたヒーローであっても、紙に落とし込むことで、何年も生き続け、そして蘇った。



それからまた時が経ち、私はヒーローが生み出されているだけであることに気がついた。


彼らは使命は持っていても、それに従って進むことがない事に気がついた。



私は彼らの道を作ろうと考えた。



その最初の道筋が、絵を描く事だった。



私は思い付く限り、自分に出来る限りの力を振り絞って、絵を紡いでいった。



お世辞にも他人にお見せ出来るような代物では無い、お粗末な出来ではあったが、それでも自分の中のヒーローが動き出した事に、当時の私は感銘を受けたことを覚えている。



この時、初めて私は、生み出したヒーローが、息をしたと感じた。



ほんの少しの時が経ち、私は首を傾げていた。



私の頭の中のヒーローは動き出し、息をし出した。

けれど、私の頭の中のヒーローの想像とはどこか違う。

そんな思いに駆られていたのだ。



有り体に言ってしまえばカッコ悪い。

その一言に尽きた。



そう思ってしまうと、何故か私の中のヒーローが生み出されなくなってしまった。



私の描いたヒーローが、形となってしまったが故に、それ以外のヒーローの形が出てこなくなってしまったからだ。



ある人は言った。



「それが現実を見る、ということだよ」



と。



確かにそうなのかも知れない。

私の中でのヒーローは描いたことで完結してしまい、終わりを迎えてしまったのだと。



現実()知っていた私は、その事を受け入れた。



私は沢山の感謝を込めて、生み出したヒーロー達を大切に保管しながらも、ソッとしまった。



私の中の、ヒーローである時間は終わったのだと、そう考えた。



それから少しの月日が流れた。



新しいヒーローが生み出されることはなく、どこか喪失感にも似た感覚を覚えた私は、そこで運命的な出会いを果たす。



ある日、書店に日用品となる文房具を買いに行った時だった。



その日、私はふと、久々に漫画コーナーに立ち寄った。



そこにはやはり、私では描くことのできなかったヒーロー達が沢山いた。



恋焦がれ、私が一種の目標にしていたヒーロー達が、ズラリと並んでいたのだ。



無論、買う宛などない私は、それらを眺めただけで満足し、その場を後にしようとした。



その時ふと、私の目に、通常の漫画コミックスより一回り小さな本に目が行った。



表紙は間違いなく漫画と同じ。けれどそれとは違うシンプルさがあった。



「これはなんだろう…」



好奇心に駆られ、私はソッと本をめくった。



そこに羅列されていたのは、文字。

ページを埋めつくさんばかりの文字だった。



見たことがないわけでは無い。

例えば学校の教科書だって、開けば文字ばかりだ。



しかしこの一冊の本が、今の私を創り出した、運命の出会いだった。



驚いたことに、その小説()のなかに、私が思い描いていたようなヒーローが生き、そして行動していたのだ。



その瞬間、これまでそっと仕舞われていた私のヒーロー達が、頭の中にブワッ!と雪崩れ込んできた。



私の中のヒーロー達が、一斉に蘇ったのだ。



私はこの時、物語(ライトノベル)というものに出会ったのである。



私が知るよりも以前から生み出されていたであろうこの文章形式の物語は、まさに私が求めていたものであった。



物語に求められるのは、私の中で根気とアイディアであると思っていた。



文章能力は、根気で続けていけば磨かれると思っていたからだ。



そしてアイディアならば、私は無限に思い浮かんでくる。



変身して戦う戦士、超能力を身につけたヒーロー。



ありきたりであろうがなんだろうが、私の中でのアイディアは無限に湧いて出てきた。



あとはそれを物語にして書くだけ。



今にして思えば、その頃は小説を書くことの大変さと苦悩さを理解していなかっただろう。



それでも、当時の私は胸が躍る思いだった。



また、私の中のヒーローが蘇る!



それだけで十分な出会いだった。



その日から私は、これまで描いてきたヒーロー達を蘇らせ、そして物語として綴っていった。



「それが現実を見る、ということだよ」



確かにそうかも知れない。

けれど、私にとってはこれも現実だ。



それから私は、夢中になって物語を書き続けた。



その運命の出会いを果たしてから云十年。

ヒーローに憧れた私の物語は、今も続いている。



今もなお、私の頭の中では、新しいヒーローが生み出され続けているのだから。



だから、私の筆は止まらない。



私の頭の中は、スーパーヒーローでいっぱいなのだから。

※後書きです






ども、琥珀です。


別作品、【Eclat Etoile-星に輝く光の物語】をご愛読頂いている皆様、いつもありがとうございます。


このエッセイでお初の方は、初めまして。目に留めていただき光栄です。


私は普段はエッセイは書きません。というよりも書けませんでした。

自由に自分のことを書いても良い、と言われても、書くほど自分に中身が無いと思っていたからです。


ですが、ある日私は突如入院することになりました。

結果として命に別状は無かったものの、自然と自分について考える時間が出来たのです。


そこで思い至ったのが、何故、自分が小説を書こうと思ったのか、どうして小説だったのか、という原点回帰でした。


思い返す時間は沢山ありました。

家から昔の設定とかを掘り出して、思わずニヤニヤすることもありました。


そこでふと、それを書いてみようと思ったのです。

深い意味は何もありません。

本当にただ、自分の小説家としての生い立ちを、描いてみたくなっただけなのです。


でも書いてみて、スッキリしました。

自分がどうして小説を書いているのかを、改めて認識することが出来たからです。


このエッセイをお読みになられた読者様の中にも、同じ小説家の方がいらっしゃるのではないでしょうか?


小説家の方でなくとも、例えば今の仕事、学校、部活などでも構いません。


自分がどうしていま、こういう事をしているのか。

それをふと、思い返してみる良い機会になるかも知れません。


後書きが長くなってしまいました。

私の個人的なエッセイにお付き合い頂き、ありがとうございました。


全く作風は異なりますが、初めに述べさせていただきました作品は、今も更新中です。

宜しければ、そちらもご一読下さい。


それでは、この辺りで。


琥珀

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― 新着の感想 ―
[一言] 私はいつ、どうして書き始めたのか覚えていません。 ただ幼い頃、買っていた月刊誌のマンガの続きはどうなるのか、あれこれ予想して妄想して、楽しんでいました。 書かない時代もありましたが、なんだ…
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