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チワワ系の女学生

 あれは僕が高校2年の時の冬だった。

放課後の部活を終えて、僕は電車で帰路についていた。


藤乃澄乃さん主催『バレンタイン恋彩企画』参加作品です。

挿絵(By みてみん)

画・黒森 冬炎様


 ガトンゴトンと音を立てて、暗くなった景色の中を電車が進む。


 少し混み始めてきた電車内は、暖房が効いている。

前の席に座ったおばさんは、こっくりこっくり居眠りをしている。

いや、おばさんだけじゃないな。席に座っているほとんどが寝ているようだ。

揺れる振動とほのかな暖かさが、車内に睡魔をもたらしているようだ。


 吊革をもって立っている僕自身も、眠気と戦っている。

油断していると意識が飛びそうだ。まじで眠い。


 僕の左隣にセーラー服の女子生徒が立っており、同じように吊革をもっている。

小柄な女の子で、やっと吊革に手が届く感じだ。

彼女も電車の揺れに合わせてフラフラ揺れている。


 その子の小さな手が、吊革から外れそうになっている。

あ、ギュッっと握りなおした。目が覚めたかな。

いやいや、またフラフラしだしたぞ。大丈夫かなぁ、この子。

よっぽど疲れているみたいだぞ。


 彼女の手を見ていたおかげか、こっちは目が覚めた。

いよいよ倒れそうになったら、声をかけてあげるかな?

でも、僕のことを変な人だと思われないかが心配だ。


 しばらく彼女の手を見てると、ほんとに吊革から外れかけている。

かろうじて指先だけ引っかかってる感じ。

うーむ、声をかけるべきか……迷うな。


『この先カーブとなります。揺れにご注意ください』


 車内放送があり、しばらくすると電車がガクンと大きく揺れた、

女の子がふらついて、その手が吊革から離れた。倒れるっ!


挿絵(By みてみん)


 僕はとっさに、左手で彼女の細い手首をつかんでいた。


「えっ……」


 彼女が驚いたように僕を見上げた。可愛い大きな瞳だ。

僕は彼女の手をそっと、吊革のところまでもっていく。

吊革を掴みなおしたのを見て、僕は手を離した。


「いきなり手を握ってごめんね。だいじょうぶ?」


 聞いてみると彼女はコクコクと2回とうなずいた。

そして、顔を真っ赤にしてうつむいた。

転ばなくてよかった。ついでに、僕が痴漢と思われなくてよかった。


 僕は視線を外に向ける。可愛い子だったな。

知り合いになったら多分楽しいだろう。

でも、しょせんは別の学校の他人だ。

とっさに身体が動いたけど、ナンパ目的でやったわけじゃない。


 だけどさっき見たこの子の顔、なんか以前見たような気がする。

どこかで会ったことがあるかな?

なんとなく子犬みたいなイメージだった。


 やがて電車は自宅の最寄り駅に着いた。

網棚の通学カバンを下ろし、肩にかつぐ。

電車を降りて改札を出ると、駅前のロータリーに自宅方面へのバスが入ってくるのが見えた。

バス停に向かおうとすると、後ろから「あのっ」と声がした。


 振り返るとさっきの女の子だ。

同じ駅だったの? 降りたの気づかなかった。


「須藤先輩、さっきはありがとうございましたっ」


 そういってペコリと頭を下げた。なぜ僕の名前を知ってる?

あ、そうか。思い出した。この子、同じ中学にいたチワワちゃんだ。


「どういたしまして。気をつけて帰りなよ。それじゃ」


 僕はそう言うと、軽く右手をあげてクールに立ち去る。

そしてバスに乗り込んだ。

本音を言うと、バスを1本遅らせて少し話をしたいところだ。

可愛い子だしね。


 でも、向こうは僕の名前を知ってて、こっちが知らないって気まずくない?

たしか『ち』で始まって『わ』で終わる3文字の苗字だったはず。

ちかわ…… ちざわ…… ちがわ…… なんだっけ? 思い出せない。


 彼女は1コ下の学年だった。中学の何かの委員会で顔を合わせたことがある。

僕の意見にコクコク頷いていた可愛いチビッ子がいたんだ。


 中学時代のチワワちゃんは小学生くらいに見えていたが、今はなんとか中学生ぐらいに見えるかな。

当時も名前を覚えてなくて、心の中でチワワちゃんって呼んでたんだ。


 僕の乗ったバスが動き出す。あ、隣のバス停にチワワちゃんがいた。

窓際に座った僕に気付いたのか、手を振ってきた。

こちらも手を振り返すとニコッと笑う。

やっぱり可愛い子だね。話をしなかったのは、ちょっと惜しかったかな。


 だけど、人に親切にした後は自分も気分がいいもんだ。

この時、僕はそんなふうに思っていた。


 その時の僕は全然予想してなかったんだ。次の日もチワワちゃんに会うなんて。

次の日の帰り道、最寄り駅に着いたところでチワラちゃんに声をかけられた。


「須藤先輩、逢えてよかったです。昨日はありがとうございました。これ、もらってください」


 綺麗にラッピングされた包みを渡された。ほのかにチョコレートの香りがする。

そうか、今日はバレンタインデーだったか。

僕は男子高だから、高校生になって初めて女の子にチョコもらったよ。


 この時の僕は全然予想してなかったんだ。

彼女の名前を覚えてないのがバレて、ちょっぴり怖い思いをするだなんて。


 これが今付き合ってるマナちゃん、池和田(ちわだ)真菜実(まなみ)ちゃんとの出会い…… 

じゃなかった。再会の話だ。


ジャンル『恋愛』では初めての投稿です。

っていうかお話の中ではまだ恋愛は始まってないんですけどね。


お時間のある方は、下の方でリンクしている別のバレンタインネタもお読みいただければ幸いです。

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藤乃澄乃さまのバレンタイン恋彩企画はこちら:
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― 新着の感想 ―
[良い点] 私も電車内でよく寝てしまうので、読んでいて共感する事しきりでした。 聞いた話ですが、走行中の電車の低周波の適度な振動とモーター音は、羊水に包まれていた胎児の頃に体感していた物に近いそうです…
[一言] バレンタイン恋彩企画から伺いました。 冬の電車は睡魔に襲われますよね。うんうん分かると思って読ませていただきました。いいですね〜、咄嗟に手首を握ってお互いを認識する感じ。ボーイミーツガール…
[良い点] 身長の小さい女の子、いいですよね……。 委員会でコクコク頷いてたのかわいい。
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