あなたへの質問
「この後何するー?」
一ノ瀬さんにフォローし終えた寧々花が他の3人にそう聞いてくる。
「俺は何でもいいぞー」
「一ノ瀬さんはー? どっか行きたい所とかある?」
「わ、私も特には……」
「おっけー。トーヤは?」
「家」
「却下」
聞かれたから答えたのにすごく低い声で食い気味に返された。すごく悲しい。俺は帰宅部だぞ……?
「うーん、私も今月お金あんまり無いし……どーしよっかなー」
「このまま帰るという選択肢は」
「だから却下だって。折角一ノ瀬さんと居るんだし何かしたいじゃん」
どうやら4人で、と言うより一ノ瀬さんと一緒に何かしたいらしい。
俺いらないじゃん。お家に帰らせてよぅ……
「あ、そーいえば何で一ノ瀬さんがトーヤの傘を持ってたの?」
寧々花が今思い出したかのように、当事者でない人が当然気になるであろう質問を一ノ瀬さんにする。
「え、あ、いや、その……」
だが一ノ瀬さんは居心地悪そうに言葉を濁しながらチラチラとこちらを見てくる。
雨の中公園のベンチに座ってましたって言えばいいのに。そう冬夜は思ったが一ノ瀬さんの様子からしてどうやら隠しておきたいようだ。
「あー、あれだ。一ノ瀬さんが傘を持ってきてなかったみたいだったから貸したんだよ」
「そ、そうなんですよ! あの時はありがとうございました!」
「いえいえ! 困った時はお互い様だよ! あ、あはははは」
「あ、あはははは」
な、何とかごまかせただろうか……?
「「いや、ごまかすの下手すぎでしょ(だろ)」」
嘘だろ……俺の完璧な演技を見抜いた、だと……!?
「まぁこれ以上の詮索はやめとくけど……いつかは話してね?」
「き、気が向いたらな」
「ぜ、善処します……」
「じゃあ……その代わりに~……」
「「?」」
「一ノ瀬さんのこと、もっと教えてよ!」
「……へ?」
「いやー、これを機に一ノ瀬さんとも仲良くなりたいなーと思って。……だめ、かな?」
「い、いえ! そんなことは……ど、どんどん聞いてください!」
「それじゃあ遠慮なく……」
そこまで言うと寧々花は深く息を吸い込み――
「趣味は? 年齢は? 誕生日は? 血液型は? 兄弟いるの? 好きな教科は? 逆に嫌いな教科は? 好きな食べ物は? 嫌いな食べ物は? 運動は得意? 普段家でどんなことしてるの? 料理は出来る? 好きな動物は? テレビ何見るの? 好きな俳優は? アニメ観たりするの? 好きなキャラは? どうしてそんなに肌が綺麗なの? メイクしてるの? シャンプーは何使ってるの? リンスは? 柔軟剤は? 身体はどこから洗う? ところで彼氏はいるの? 好きな人は? どんな人がタイプ? 初デートはどこがいい? 初キスはどこ? シチュエーションは? 初めてはどんな体――」
「「ストップストップ!!」」
質問がどんどん危ない方向に向かったので幼なじみ2人がストップをかけた。
最後の方やべぇおっさんみたいな質問じゃねぇーか。っていうかお前らまだそこまでイってねーだろうが。
……あれ、イッテナイヨネ?
いやイってない、大丈夫だ。コイツらは俺が知っている限りまだ俺と同じ……いや、1つ上の階段しか登っていないはず。だから、大丈夫。
「一旦落ち着こうね? 一ノ瀬さん困ってるから」
そう言って涼介が寧々花を落ち着かせる。
「え、あっ、ごめんなさい……」
「い、いえ、少しびっくりしただけなので……」
「えっと、じゃあ……」
「……ご趣味は……何ですか?」
お見合いかよ。
冬夜は内心ツッコんだ。
さっきの空気は何処へやら。これでは完全に初めてのお見合いである。
「えっと、す、スポーツ観戦……とかですかね」
「へ、へー!そうなんだ!例えば?」
寧々花が一ノ瀬さんの趣味を聞いて調子が戻った。だが――
「バスケットボール……ですかね」
「「「……」」」
今の一ノ瀬さんの回答でこの場が少しなんとも言えない空気になる。しかしそれは一瞬のことだったので一ノ瀬さんは気付いていない。
「そ、そうなんだね! 私も結構バスケは見るかなー」
「そうなんですか!?」
「うん、私中学の時バスケ部のマネージャーだったからそれの影響でねー」
「え、マネージャーだったんですか!? 私はてっきり選手の方かと……」
「確かにやる方も楽しいけどね」
「そうですね! お二人も観たりするんですか?」
「俺はあんまり観ないかな」
「そうなんですか? でも黒崎さんって確かバスケ部ではなかったですか?」
「そうなんだけど……なんて言うか……俺はどっちかって言うとやる専だから」
「? ……なるほど……? ……では、星成さんは?」
「俺? 俺は……今は観てないかな」
「今は……?」
「うん。ほら、2人とも観てるって言ってるし、昔それにつられて俺も観てみようかなって」
「……そうなんですね」
……まぁ、理由は嘘だけど。
心の中でなんと言えばいいかわからない気持ちが溢れてくる。それを俺はぎゅっと無理やり仕舞い込む。
俺にはもう、無くていい。
そう思いながら。