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作者も忘れていた設定

時刻は1時過ぎ。冬夜達は少し遅めの昼食を取りにフードコートに来ていた。

ちなみに服は試着した中から3着ほど購入し、その内の1着は制服から着替えて現在着用している。しかしこれらは全て春乃に選んでもらったものなので、冬夜はオシャレの勉強をしようと決心した。


フードコートの良さと言えばやはりそのバリエーションの多さだろう。

うどんにラーメン、海鮮丼、ペッパーランチ、オムライス、ケンタッキーなどなど。

どれも美味しそうでついつい目移りしてしまいがちだが、冬夜はこういったところに来ると何故だか無性にオムライスが食べたくなる。

そして今日も例に漏れずオムライスである。春乃も冬夜と味覚が似ているのかいつも大体同じものを頼む。


そして今は注文した料理が出来たら音が鳴るブザーを持って空いていた席に座っている。


「それにしてもアンタといると色々楽だね」


「……さいですか」


何でも春乃曰く、「アンタと連れてると勝手に人が避けていくから歩きやすいし、店入っても店員に話しかけられないからゆっくり服とか見れる」との事らしい。

そんなのたまたまだろと言ってみたものの、自覚ないのかよとでも言いたげな顔で引かれた。

そういえば涼介や寧々花にも同じような事を言われたことがあった際、二人にも似たような事を言ったら春乃と同じ驚き方をされた。

言われた本人としては全く自覚は無いので首を傾げるしかない。


それぞれ適当にスマホをいじっているとブザーから呼出音が鳴った。どうやら料理が出来たらしい。

冬夜が料理を取りに行こうと立ち上がると春乃が「よろー」とスマホをいじりながら言ってくる。どうやら自分の分も取ってこいという意味なのだろう。

冬夜としては別にいつもの事なので慣れているし、荷物番も必要なので構わないのだが、たまには自分で行ってくれてもいいのになと思う。


取りに来たものの、持ってみた感じ、あ、これ二つ一気に持って行こうとしたら絶対途中で落とすな、という予感がしたので店員さんに声を掛けてから一人分ずつ持っていくことにした。

少しずれているとはいえまだお昼なので空いていた席がお店から少し遠い。

この距離をもう一往復するのは面倒くさいなと思いながら席まで戻ると春乃が知らない男の人たちに絡まれていた。


男の人は全部で三人。そのうち一人はさっきまで冬夜が座っていた席、つまり春乃の正面に座っていた。


あのぅ……そこ僕の席なんですが……


今の気分的に、学校の休み時間にトイレで席を離れて戻ってきたら陽キャの人達に自分の席を占領されていた時のような感覚だ。

本当にああいうのやめて欲しい。それで声掛けられなくて休み時間を廊下とかで過ごさなくてはいけなくなるんだよ。ほんと誰だよいっつもそうやって過ごしてるのは。


いや、俺の事やないかーい! 学校での俺やないかーい! そしてまさかプライベートでもこんな事起きるのかよ。どうなってんだこの世界。厳しすぎだろ、(陰キャ)に。


というかこれは止めた方が良いやつなのだろうか。このままだとあのナンパ男達が危な……ゲフンゲフン、お姉様が危ないからな。やっぱり行った方がいいよね。

第一、こういうシチュエーションで主人公がナンパ野郎達からヒロインを守るってなんだかラブコメっぽくない?

……いやいやいやいや、ナンパされてるの姉貴だし。おもっくそ身内だし。どこにそんな姉と弟の禁断のラブコメの需要があるんだよ。アウトだろ。それはただの近親相か……って違う。それはまた別だわ。別の意味でアウトだわ。


ってかそもそもナンパじゃない可能性だってあるじゃないか。だって見てみ? 姉貴の正面に座ってる人、あんなに楽しそうに喋ってるんだぜ? ナンパなわけないじゃないか。きっと大学の知り合いとかだろう。……まぁ姉貴ずっとスマホいじってるけど。


そっか、姉貴友達いたんだな……服屋ではあんなこと言ってたけどやっぱりその人たちのこと友達って思って――


『――あんなハエども』


……思って……


『――ハエども』


……うん、無いな。


冬夜の頭に大学の知り合いなのでは、という可能性が服屋で春乃がマジな顔で放った言葉で消える。


となるとやはり可能性は一つ。

行くしかないのかなぁと渋っているとズボンのポケットに入れてあるスマホが震える。

画面を開くと春乃からのメッセージだった。


『めんどいのに絡まれた。早く来い』


どうやら本当にナンパのようだ。


嫌だなぁ、と内心今すぐ逃げ出したい気持ちで席に向かう。


戦闘になったら負けるよ? 普通に。


「おまたせ、姉貴」


「遅い」


「ごめんって。それよりこの人たち誰? 知り合い?」


可能性は限りなく低いが念の為知り合いなのかを確認する。


「知らねぇ。なんかいきなり話しかけてきた」


「ふーん」


春乃の返答を受け、冬夜は男達を睨む。


「な、なんだよ……」


「……どっか行ってくれません?」


「な、なんでだよ……」


「そこ、俺の席なんで」


「ひっ、す、すみません……」


「お、お前は一体なんなんだよ!」


「……き……る……へる……だ……い」


「……きる?」


「……へる?」


「……だい?」


男たちは何言ってんだこいつといった顔をするが、途端に顔を青くし、


「「「ひぃぃぃぃ、す、すみませんでしたー!!!」」」


と言いながら逃げるように去っていった。


一見、周りでこのやり取りを見ていた人達には、男たち三人よりも身長が高く、目つきの鋭い男がナンパ達を脅して追っ払ったように見える。


だが実際は違った。



〜冬夜視点〜


「知らねぇ、なんかいきなり話しかけてきた」


「ふーん」 (や、やっぱりナンパだったんだ……)


ちらりとナンパたちを見る。


「な、なんだよ……」


(ひっ、睨まれた……怖い……どうしよう、何か言わないと……)


「……(今からオムライス食べるので)どっか行ってくれません?」


「な、なんでだよ……」


(ひぃぃぃぃ、この人なんで突っかかってくるの!?)


「あとそこ、俺の席なんで(どいてください)」


「ひっ、す、すみません」


(あ、よかった、この人はいい人だ)


「お、お前は一体なんなんだよ!」


(ひぃぃぃぃぃぃ、この人めっちゃ怖いよぉ……もうやだよぉ……助けてよ姉貴、オムライス食べてないでさぁ……)


「(姉)貴(のオムライスを見て)る(と僕もお腹が)減る(ので早くどっか行ってください。ナンパなら食べ終わったからにしてく)だ(さ)い」


(い、言っちゃった……これで伝わったらいいんだけど……)


「……kill?」


「……hell?」


「……die?」


(……へ? 今この人たちなんて? キル? ヘル? ダイ? ……えーっと、きるは殺す? へるは地獄? だいは死ぬ? だっけ。……あ、やべぇ、死んだわこれ)


そう思った矢先、男たちの顔がみるみる青くなっていく。


(ああ……俺の殺し方を想像してこの人たちの顔が青くなっていく……どんな酷い殺し方をするんだろう……)


「「「ひぃぃぃぃ、す、すみませんでしたー!!!」」」


(……へ? あ、どっか去っていった……た、助かったー……)



そうした誤解がありながらもナンパを追い払った冬夜はフラフラと席に座る。


「よかったー、殺されなくて……」


テーブルに突っ伏しながらそう呟くと春乃が「アンタやばいね」と言ってくる。

しかし今の冬夜にそれをツッコむ精神的余裕はないので受け流す。


「……ところで冬夜」


「何……」


「アンタ自分の分取ってこないの?」


「あー、そっか……」


やりきった感が強くて自分の分のオムライスを取ってくるのを忘れていた。

冬夜は取りに行くために立ち上がろうとするが、全身に力が入らない。


「……あれ?」


「どうしたの」


「……腰、抜けちゃった……」


「馬鹿じゃないの」


結局すでに食べ終わっていた春乃に食器を戻すついでに取ってきてもらったのだが、オムライスはすっかり冷めてしまっていた。

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