校内一の美少女がいるらしい
雨の日の一週間後です。
「なあ、一ノ瀬さんのことどう思う?」
昼休み、クラスメイト兼幼なじみである黒崎涼介が購買で買ってきた菓子パンを食べながらそんなことを聞いてきた。
しかし、冬夜の知人の中には“一ノ瀬”という人はいない。実際、冬夜自身、交友関係は狭い方だと自覚しているし、涼介もそれを知っている。なのでアニメか何かの話だろうと思い、冬夜は話を合わせることにした。
「あ、あー、あの一ノ瀬さんねー。えーっと、あれだね、なんかこう……キラキラしてるよね。画面越しだけど目が潰れそう」
「いや、3組の一ノ瀬さんの事だよ。誰だよ、画面越しの一ノ瀬さんって。有名人にもお前の知ってるアニメのキャラにもいねーよ」
違ったみたいです。なんかごめんね? 3組の一ノ瀬さん。
となると、本当に知らない。
「じゃあ誰、一ノ瀬さんって」
「え、知らねえの? 流石のお前でも一ノ瀬さんくらいは知ってると思ってたわ」
「え、そんなに有名なん?」
「そりゃそうだろ。だってめちゃくちゃ美少女なんだぜ? もしかしたらこの学校一の美少女なんじゃないかって噂だぞ。一ノ瀬さんのこと知らないのお前だけなんじゃないか」
まじかよ、そんなにすごい人がこの学校にいるのかよ。誰かもっと早く教えてくれよ……
あ、そもそも俺にそんなこと教えてくれる友達いなかったわ。
「それに可愛いだけじゃないらしい。友達に聞いたんだがめちゃくちゃ優しいらしい。マジで心が浄化されるってさ。まぁ実際に見た訳じゃないからわからないけどな」
浄化て……アンデットかよ。ってか、優しいのか……クール系かと思ってたわ。勝手な想像だけど。……けどなんかあれだな、裏では天使とか言われて崇拝されてそうだな。あとマンションの隣の部屋の同級生の男の子をお世話してそう。
「しかもその容姿と優しさから“女神”って言われてるらしいぞ。あとファンクラブもあるとかないとか」
「ファンクラブ」
「まあ、ファンクラブはあくまで噂だけどな」
「ふーん」
ファンクラブか……なんだろう、その一ノ瀬さんって人と会話しただけで拉致監禁されそう。怖い。
あと、コイツどんだけ情報網広いんだよ。これだからイケメンは。
冬夜は世界の理不尽さに嘆いた。
「……で、その一ノ瀬さんがどうかしたのか?ただの一ノ瀬さん自慢じゃないんだろ? それにお前、別に一ノ瀬さん興味無いだろ」
「そうだな。普段なら気にしなかっただろう。だけど今回はちょっと面白そうなネタだったからな。一人で寂しい思いをしている冬夜に話してあげようと思ってね」
「余計なお世話だ」
性格悪すぎだろ。幼なじみである事を後悔しそうだ。
しかしなぜそんなことをわざわざ俺に話そうとするんだろう。
「何故俺にそんな話を?嫌がらせ?」
「さあ、何となく? 毎日話してるし、話のネタが特に無かったから、かな。他意はある」
「あるんかい」
あるのかよ……ただでさえいつも俺にマウント取ってくるのにさらに追加で来る? 普通。まあ、慣れてるけどさ。
「まあいいや。それで? ネタってなんだよ」
「ああ、それがな、今日一ノ瀬さんが傘を持ってきているらしくてだな……」
「……? 別に普通なんじゃないのか?」
まあ、たしかに今日は雨降らないって朝のお天気コーナーのお姉さんが言ってたけどな⋯⋯そんなにおかしな事だろうか。
「傘を持ってることは別にいい。問題なのはその傘が“男物”という点だ」
「……お父さんにでも借りたんじゃないのか?」
「これは俺の推測だが、それは無い。なぜなら今日は晴れの予報だから借りる必要がない」
だよなぁ……じゃあなぜ傘を……?
……ん? 傘? ……なんだか嫌な予感がする……
「これは俺の予想なんだが恐らく一ノ瀬さんは誰かに傘を借りたんじゃないかと思う。最近だと雨が降ったのは……一週間くらい前か。あと情報によれば傘は黒くて割と大きめの――」
バァァァン!!!
涼介が話している途中、いきなり教室前方のドアが勢いよく開けられた。
「ん? ……あ、そうそうあんな感じの――え?」
そして勢いよく開けられたドアの前には今まさしく涼介が話していた黒くて大きめの傘を持った一人の少女が立っていた。
「……見つけた」
その少女は辺りを見渡して、目当ての人物がいたのかこちらに、正確には俺と涼介が座っている席に向かってくる。
……こっち向かってきてね?
……っていうかここで止まったんですけど。めっちゃこっち見てくるんですけど。
いきなりのことで呆然としている二人をよそに少女は口を開く。
やばい、カツアゲされる――!
「星成冬夜さん、ですよね。ようやく見つけました」
はい、ご指名入りましたー!
見つかっちゃった☆