4 宿敵あらわる(2)
学園の正門から寮へと通じる道は一本しかない。
私が五年前に学園長に命令をして、他の道を立入禁止にさせたからだ。
よって、ヒーローが寮に入るためにその道を通るしかなく、学園外部からやってきたヒーローを始末するための絶好の殺害ポイントとなっている。
その道から少し外れた場所にある小庭の東屋に行ってみると、アンソニーが起爆スイッチを手に持ちながら、目標の馬車が来るのをじっと見つめて待っていた。
「目標はまだのようね?」
「はい。斥候の報告では、もうまもなくやって来るかと」
アンソニーは目標ポイントをにらんだまま、呟くように言った。
私はアンソニーの後ろに立って腕を組むと、彼の視線の先を望遠鏡で見た。
薄暗い道。
そのうえに、かすかに動く黒い影が見えた。
「来ましたな」
私が口を開くよりも早く、裸眼で見ていたアンソニーは言った。
そして、その黒い影はだんだんと大きくなり、やがて私でも裸眼で確認できるほどのサイズになった。
「三人。間違いないです。爆破します」
「ええ。お願い」
爆破ポイントの真上に達する馬車。
瞬間、
ドーーーン、と強烈な爆音が鳴り、
建物の四階か五階くらいの高さまで火柱があがった。
馬車は跡形もなく木っ端微塵。
吹き飛んだ残骸が、周囲の草地へからんからんと音を立てながら転がっていく。
「殺れた?」
立ち昇り続ける爆炎を見ながら、私は言った。
「……いえ。失敗です」
アンソニーは答えた。
彼の言葉は正しかった。
爆炎の中にうっすらと見える青い光の玉。
その中にいるのは三人の男。……三人とも無傷だった。
一人は馬車の運転手。もう一人はスーツを着た初老の学園関係者。
……そしてもう一人、若い爽やかな顔立ちをした、貴族の服を着た青年、――手を前にかざして光の玉を維持しているその青年こそが、私の敵であるスーパーヒーローのようだった。
「……魔法系、のようですな」
アンソニーはつぶやいた。
魔法系、相手にするには一番厄介なタイプのスーパーヒーローだ。
異能を使うのに得物が必要なタイプなら得物を持っていない時を狙えばいい。ゴム人間や電気人間などの人体構造が特殊なタイプは弱点が多い。しかし、魔法系は万能であり、得物がなくてもノーモーションで反撃をしてくる。そのうえ、どんな魔法を使うか外見から判断できない分、相手の底も見えにくい。
私とアンソニーが相手の出方をうかがうようにじっと身を潜めていると、
その時、ヒーローが私達の方へと視線を向けた。
「――撤収」
「アイマム」
私達はすぐさまその場を離れた。
アンソニーは私を優先して逃がすため、私とは別方向の敵から目に付きやすい逃走経路を選択した。
彼の好意を無碍にすることは出来ないため、私はそのまま全速力で逃げた。
相手の近くは爆炎で非常に明るかった。対して、こちらは暗がりだった。私達の位置には気付かれていたものの、顔が判別できるほどはっきり見えたということは考えにくかった。
……まだ殺すチャンスはあるはずだ。
ヒーローは見つけ次第、すぐに抹殺するのが私の主義だ。
しかし、今回ばかりはその主義を曲げて、セージョの心にフラグを刺されるリスクを背負ってでも、しばらく様子を見なければならないようだった。