仲間が必要だと思った自分に驚いたんだよね
おいらがこの世界に来てから一週間経った。
その間はずっと魔法の練習で、魔力切れが起こったら休憩してまた再開という具合に、一週間一日中続けた。
サマーナさんには国で一番と呼ばれるくらいの実力になった。ぐへへ。
なぜ一日中魔法の訓練しかしなかったかというと、最初は剣の訓練も同時並行で行おうとしたのだが、剣の才能がほんっっっとうになくて魔法だけにしたためっていうね。はい。わかってましたよー。
こんな感じで物凄い速度でおいらが強くなってるもんだから、もうすぐ駆り出される気がする。
それと、国の状況や魔族についても新たに色々分かった。
まずこの国は、格差が結構ある。
文明レベルが中世ヨーロッパ並だし、貴族とか国王とかそこら辺がジャンジャン金使いまくって豪勢な暮らしをして、下の階級の人達が路上とか路地裏で恵んでもらうのを待ってるみたいな状況。
まあこういう時代だから、職にあぶれた人を救済する仕組みがないんだろうな。
生活保護とか、ベーシックインカムとか。
あと個人的に気になったのが、なんで魔族を嫌ってんの?ってこと。
名前がそれらしいし、なんか悪そうだから!っていう理由で流石に国は動かんと思うのよ。
それで調べてみたら、この世界にはカツマル教という宗教があって、カツマル教には魔族は排除しましょうーというルールがあるらしいのね。
で、この宗教を三カ国とも国教にしちゃってるから魔族はダメですよと。
いやーやっぱり宗教は怖いねー。
何の根拠も無しにそういう事言っちゃうからね。
ただ、もしかするとこの世界には神様はいるのかもしれない。
異世界転移とか魔法とか魔王とか勇者とかある世界だからね。ワンチャンいてもおかしくはない。
カツマル教はどーなのか分かんないけど。
あと、一回おいらが城を抜け出して街の人々に魔族のことを聞いてみたんだけど、そんなに悪いイメージは持ってなかったし、むしろカツマル教はどうなのか的な意見も多かった。
実際問題魔王軍って言ったって人間の軍に対抗するためのものであって、魔族から何か迷惑をかけられている訳ではないので、嫌う理由がないということ。
やっぱりこうなったら魔族側についたほうが良いと思うんだよな。
このまま王の命令に従い続けても、魔王を倒した後でもずっと汚れ仕事をさせられたり、一生雑用係なのは目に見えている。
いや、でもどうだろう。
魔王を倒すほどの力を持っている奴がいては、もし反抗された時に困る。
そうなったら多分暗殺か、もしくは逆らった瞬間に三カ国の軍隊全員で殺しに来るかどっちかかなあ。
これは逃げるしかなさそうっすね。
でもおいら一人だと限界があるし、勘違いされて魔族に殺されるかもしれない。
あー。これ仲間が必要なのかぁ。
ただ、今から魔王倒しに行きますってグループのリーダーがいきなり、ここらの国にいるとヤバいから魔族と手を結ぼうぜーって言い出したら普通、は?ってなるよね。
どーしたもんかなー。
するとサマーナさんが部屋にやって来た。
「ひろゆく様。今日はこれから行動を共にして一緒に戦ってもらうパーティメンバーに会いに行きます。」
おっ。
今日会えるのね。
しかし、パーティメンバーはどうやって選んだのだろう。
採用基準が、カツマル教への信仰心が非常に厚く、親や周りの人が軍隊として魔族国家シャゾーに出ているなか、戦争で殺されて魔族に強い憎悪を持っている方とかじゃなきゃいいんだけど。
「メンバーはどうやって選んだのか教えて貰ってもいいですか?」
「やはり戦闘に行くので、純粋な強さですね。パーティは勇者であるひろゆく様と、戦士、僧侶、魔法使いの計四人で、それぞれ国でトップの実力者を選んでいます。」
「へえー。凄いっすね。」
「それでもひろゆく様の方が強いと思いますよ。」
嘘をついていないようなので本当にトップの者を選んだらしい。
勇者、戦士、僧侶、魔法使いってRPGの定番だな。
この組み合わせが浸透したのってドラ〇エからだっけ。
それにしてもこの三人より強いなんて、おいら様ホント強い。
「この部屋で三名がお待ちです。」
応接間の様なその部屋に入ると、三人が椅子に座っていた。
一人はガタイのいいスポーツ刈りの男性。長身で顔も普通にカッコ良く、ラグビー部に居そう。年齢は同じくらいだろう。
二人目はロングヘアーでスタイルの良い女性。ヨーロッパ系の顔立ちで、顔がすごく小さい。そして今おいらの顔を見て、フンッとそっぽを向いた。こーゆー人いるんすよねー。おいら関わったことないからどういうタイプか分かりませんけども。
三人目はショートヘアで、二人目の女性より少し背が低いだろうという感じの女性。いかにも静かそう。
「それでは四人揃ったところで、各々自己紹介をしましょうか。」
サマーナさんがそう言うと、「まずは俺からかな」と男性が立ち上がった。
「俺の名前はオリバー・メンダシウム、年齢は二十歳で、戦士だ。武器は剣と盾で、いつも最前線で戦ってる。今回はお前らを守る立場だから、全力で頼ってくれ。これからよろしく。」
典型的なオレオレ系かと思ったらそうでもなかった。
この感じだと、コイツがチームの輪を乱して滅茶苦茶にするって感じではなさそうなので、ちょっと安心。
お次は所謂ツンツン系の女性。
「私は魔法使いのソフィア・メンティーラ。十八歳よ。そこの勇者も魔法使いらしいけど、私の魔法の邪魔になったり、足でまといになるのだけはやめてよね。」
うぇすうぇーす。気をつけたいと思いますー。
まあ、こういう人が足引っ張ってたらすっげぇ面白いんだけどね。
「ルナ・プセマ。十八歳。僧侶だから攻撃は出来ないけど、よろしく。」
やっぱり静かな感じだった。
おいらの予想と第一印象って高確率で当たるんだよね。
そして、多分今後もこの評価が変わることはないだろう。
遂においらの番だ。
「あ、どーもどーも。私、東村ひろゆくと申します。二十歳で、剣が全く出来ないので一応魔法使い的なやつです。特に何か出来るわけでもないですけれども、今後とも宜しくお願いしますー。」
いつも通りの自己紹介、おいら様上手ー。
「自己紹介も終わったので、パーティの皆さんで一度、戦闘や今後のことなど話されてはいかがでしょう。私は別の仕事があるのでこれで失礼致します。」
と言って、サマーナさんは部屋から退出した。
ここでいきなり「僕魔族サイド行こうと思ってるんすけど、ついてきてもらっていいすかー?」とか聞いたら頭のおかしな奴だと思われるので流石にやめようかな。
ただ、ここで何も切り出さなかったらどんどん魔王を倒す会議的なやつが進んじゃって、明日にでも行こうとかなっちゃいそうなので、話題はこちらが出さなければ。
「一つ聞きたいんですけど、皆さん魔族とか魔王についてどう思ってます?僕最近ここに来たんでよく分かんないんですけど、そんなに悪いようには見えなかったんで、、、」
部屋に沈黙が生まれる。
あれ?おいら逆鱗に触れちゃった?
ここで怒り狂った三人にぶち殺されるか、後でチクられて処刑ルートかとか、そんな感じだろうか。
おいら様可哀想ーとか考えていたら、オリバーさんが口を開いた。
「正直、俺もそう思ってる。だから魔族殲滅のためにここに呼ばれた時、良い気はしなかった。魔族は何も悪くないからな。ただ、人間対魔族の戦争を終わらせるにはこれしか方法はないんだろうと思ってさ。」
「大体、悪いのは各国のお偉方なのよね。自分達の言うことを聞かない奴らは消して、領土を拡大したいだけ。国民も騎士団の存在があるから、反対運動が出来ないのよ。」
危ない危ない。
てっきりカツマル教狂信者かと思ってたけど、おいらと同意見なのね。
しかし、今ソフィアさんが言っていた騎士団があるんだったら、各国の軍隊にプラスして騎士団投入すれば良くね?
おいら達いらなくね?
「騎士団があるんだったら、魔族国家に騎士団も投入すれば良くないすか?」
「王とか皇帝とか貴族ってのは、自分が一番大事だからな。信頼出来て一番強い者達は、自分の身の周りに置いておくんだよ。」
言われてみれば確かにそうか。
てことは、おいら達は信頼されてないってことね。
まあ分かってたんだけどね。
ん?
でも確かクラーワって国、共和国じゃなかったっけ。
おいらの疑問に答えるように、ルナさんがボソッと呟く。
「クラーワには騎士団ないけど。」
へー。じゃあ魔族擁護派は動かないのかね。
「クラーワ共和国はいいのよ。あれはカツマル教の狂信者が集まってできた国だから。国民全員が信者だから取り締まる必要も無いし、王も皇帝もいないしね。その代わり、皆が魔族を倒そうと思っているから、軍隊への志願率は異常に高いらしいわ。」
一番怖そうな国じゃん。
そこの人々とは関わっちゃいけない感じがする。
「それにしてもひろゆく、お前が魔族のことを言い出した時はヒヤヒヤしたぜ。その後気配で誰も居なかったのを確認したから良かったけど、誰か居たらヤバかったぞ。」
周りに誰かいること考えてなかったなぁ。
それにしても気配で誰かいるか分かるって、オリバーさんのスキルかなんかかな。
それとも野生の勘か。
おいらの予想では後者である。
ここでルナさんが、おいらの方を向いて言う。
「それで、これからどうするの?」
周りに誰もいないらしいし、御三方もおいらと同意見だったし、これは言っても大丈夫なんじゃないか。
まあ遅かれ早かれ提案するんだし、いっか。
「あの、僕から一つ提案があるんすけど、魔族サイド行くのってどうすか?」