君と図書館の思い出
君と図書館にやって来た。
名目は、課題の本を借りに。
でも……。
ドキドキして、
本の話をしてるのに上の空。
静かな空間に、
自分の鼓動の音がやけに聞こえる。
君は、どうなのだろう?
君の鼓動もドキドキしているのかな?
高い書架と書架の間に入った時、君がふと真剣な顔をした。
胸が高鳴った。
君は、何を考えているの……?
手を伸ばされて……。
思わず目を瞑った私。
「見つけた、この本」
君は笑顔で一冊の本を手にしていた。
なーんだ、本だったのか。
と私は思わずときめいた想像を追い払う。
だって、だって、少女漫画みたいにそのまま顔を近付けられてキスかなぁって!
思わずそう思っちゃったんだもん。
落胆して、不貞腐れていた私の耳に君の言葉が届く。
「この本、お前がよく読んでた本だよな」
「え?」
君が手にしていた本は、確かに私のお気に入りで、よく借りていた本だ。
「何でそれを知ってるの?」
不思議そうな顔をしていたのだろう。
そんな私を、君はまた真剣な顔をして真っ直ぐ見てくる。
その手にはもう乗らないぞ。
と私は思った。
またどーせ、君の事だから適当な理由を言うのだろう。
すると君は明後日の方向を向いた。
「……ずっと、見てたからだよ」
「え?」
その小さな声に、思わず聞き返す。
「見てたからだよ」
今度は、はっきり聞こえた。
「お前のこと、ずっと見てたからだよ!」
三度も言った君の顔は真っ赤だった。
しーっ!
と慌てて口元に手を持っていった私も、多分、顔は真っ赤だろう。
「…………悪りぃ、つい」
「中庭、行こ」
私は、窓から見える中庭を指さす。
図書館の中庭は、明るくてベンチが一つポツンと置いてあった。
そこに、君と二人自然と並んで座る。
今日は、いい天気だった。
風も穏やかに吹いている。
私の長い、結ってない髪も風に吹かれて揺れている。
君は、まだ赤い顔でそんな私をぽけーっと見ていた。
そしてハッとした様に顔の前で手を振る。
「ち、違う! 見惚れていたわけじゃないからな……」
「……さっきの続き」
私の心臓はもうバクバクして言うことを聞かなかった。
それだけを言うのが精一杯。
「お、おう。お前のことをずっと見ていたって、ゆーのは、そのあれだ。最初は、お前の読んでいた本の背表紙のイラストに興味をもってだな!」
君が語るには、こうだ。
学校の休み時間に、私はよく本を読んでいたのだ。
カバーを付けるのが苦手な私は、カバーもせずに本を読んでいた。
偶々、横を通った君が私の本の背表紙のイラストに目を留めた。
相当気になっていたそうだが、本屋に行って探してみても当てもなく見つからない。
当然だ、と私はここで思った。
その本は図書館にしかない、もう絶版物だった。
「……だから、話しかけてだなー。その、本について聞きたかっただけだったんだが」
「だが?」
私は聞く。
君はもう観念したように言った。
「その内に、お前の事の方が、すっごく気になっちまって」
「え」
「つまり、好きなんだよ! お前のことが」
大爆発。
もう私の心臓は持ちませんこれ以上はってくらい跳ねている。
「好き」
「は!?」
気付いたら、私の口から漏れたのもこの一言。
「私だって、今日すっごくドキドキしていたんだから!」
君の目が見開かれる。
そして、ぐだ~とベンチの背にもたれた。
「……やべー、隕石が落ちてきたってくらい衝撃で嬉しい」
「その例え、無茶苦茶なんですけど?」
私と君は、同時に吹き出した。
君とのきっかけになった本を借りて、今日は帰ろう。課題の本は勿論。
手を繋いで帰ろう。
君と私の図書館の思い出は、こんな物語である。
お読み下さり、ありがとうございました。