自信の喪失
キョロキョロと辺りを見渡す。よくよく見れば、全く病院じゃない。どこかの安い宿屋といった感じの内装。
どこだろうここ? と言うか先ほどの美少女は一体誰なんだ? あんな美少女は初めて見た。俺史上、もっとも顔の整った人間だろう。
もはや芸術の域である。そんなことを思っていると、先ほどの美少女が扉を開けて戻ってきた。
「あの……食事を持ってきたので、よければどうですか?」
その謎の美少女は、生きた鳥を手に部屋の中に入ってきた。めちゃくちゃ野生的だな……。クエークエーと泣き叫ぶ鳥を見て、素直にそれを食べようとは思えなかった。俺は「どうぞ」と渡された鳥を、窓の外に逃がしてやる。
「あぁ、何するのですか? せっかく和敏様のために捕まえてきたのに!」
「え、いや、ごめんなさい……。とてもあのまま食べる気にはなれなくて」
「あのまま食べるわけないじゃないですか!? 私をなんだと思ってるのですか? そんな野蛮じゃありませんよ!」
ギャイギャイと美少女と言い争いをする。俺と美少女が一通り言い争いを終え、沈黙が流れるタイミングで気になっていることを訪ねる。
「そういえば誰ですか? なんだか世話になったみたいなんで、とりあえず自己紹介だけでも……」
「えぇ!」
そんなことを聞かれた美少女は、ひどくショックを受けている様子だ。
「た、確かに顔は隠してましたけど、それでも声とかでわかりませんか?」
そう言われ、ピンとくる。
「もしかしてアイラさん?」
「もしかしなくてもアイラです」
まじかよ。てっきりもっと年下かと思った。いや実際いくつかは知らないけど。ということは、アイラが倒れた俺を看病してくれたのか。なんだかんだ素行も野蛮で口も悪い彼女だが、優しい心の持ち主なのだろう。
俺はアイラの目をまっすぐと見つめると、
「ありが……」
「アイラ様。アイラ様はこちらの部屋にいらっしゃいますか? 王様が昨日の件でお呼びです。至急王城まできてください」
俺の言葉を遮り、ドンドンと壁を叩いてそんなことを言ってくる男の声。王様? 昨日の件? 嫌な予感しかしない。思えば、彼女と初めて会ったのは牢屋の中だ。無銭飲食をしたと、俺に堂々と言ってきた。
それに、生きた鳥を俺に食わせようともしてきた。口も丁寧なふりして、結構悪い。普通に犯罪を犯していても、なんらおかしくない。
俺は今までの感謝を伝える。
「アイラさん。短い間でしたが、今までありがとうございました」
俺はぺこりと頭を下げ、感謝を伝える。するとアイラは涙目で俺の肩を揺さぶってくる。
「なんでもうお別れみたいな言い方をしてるんですか!? あなたは私とともに世界を救う使命があるのですよ!
それに私は何もしていません。今呼び出しを受けたのも、もっと別の理由で……って、そんな目を向けないでください!」
ゆさゆさと肩を揺さぶられ、脳みそがシェイクされる。気持ち悪くなってきた。見かけによらず彼女は力が強いようで、俺の肩を思いっきし揺らしてくる。
「わ、わかりましたからもう揺らさないで……」
俺の言葉にハッとなり、アイラは手を離してくれた。
「ご、ごめんなさい。でもここでお別れなんてさせません。
あなたはゆうき様を倒すための、最後の希望なのですから」
そんなことを言われるが、俺はそれが本当にそうなのかわからなくなる。