曇りなきまなこ
「いっっっっっっってぇ!」
思わず大声をあげ、右手を抑える。爆発したガラス玉が弾け飛んだ勢いで、俺の右手は大惨事になっている。ポタポタと血を垂れ流し、地面には俺の血が滴り落ちている。
久しぶりの激痛。ここまで大怪我を追うことはほとんどなかったから、マジで痛い。涙目になりつつも、俺は痛みを我慢するため自分の右腕を左手で強く握りしめる。
俺がうずくまっている様子を見た看守さんは、慌てて医療道具を持ってきた。
「お、おい大丈夫か? あの魔道具はよほど心拍を上げない限り、爆発なんて起こらないはずなんだ。せいぜいひびが入るぐらいのもので……。わ、悪い。俺が急かしたせいだ。
俺は回復呪文を使えないから応急手当てしかできないんだが、今はこれで我慢してくれ」
そういって俺の右手に消毒をした後、傷口に傷薬のようなものを塗ってくれた。手当は終わり、先ほどよりかは痛みが和らぐが、まだジンジンとした痛みが右手を蝕んでいる。
俺の様子に看守さんは罪悪感を抱いたのか。
「その……悪かった。普段はこんなこと起こらないんだが、完全に俺の落ち度だ。あんたは何も悪いことをしていないのに牢屋に入れられた挙句、こんな怪我まで負わせてしまった……。
本当に申し訳ない」
さっと頭を下げ、俺に謝罪をしてくる看守さん。別に言うほど怒ってないので、早いとこ頭を上げて欲しい。俺はまあまあといった様子で看守さんに話しかける。
「別に、少し痛む程度なので平気ですよ。俺は怒ってないので頭を上げてください」
「おお……。なんて寛大な心の持ち主なんだ……。悪かった。あんたは良い奴だ。俺の曇りなき眼があんたは善人だと見抜いた。だからこれ以上ここにはいさせない。さあ、ついてきてくれ」
そう言われ、俺は看守さんの後をついていく。薄暗かった視界が一気に明るくなり、目を細める。ここが異世界……。目の前の光景を見て、ようやく異世界に来たと言う実感が湧いてきて、テンションが上がる。
「それじゃあ悪かったな。ぜひこの街を堪能してくれ。もうすぐ闘技大会も開催されるから、是非とも見てってくれ」
そうして看守さんは刑務所の中へと戻っていった。さて、これからどうしよう。そういえば俺が目を覚ました時アイラはいなかった。
あんだけ俺をおだてておいて、先に消えるなんてどう言うことだ……。
アイラに不満を抱きつつ、俺はとりあえずどこかの店に入ろうと適当に歩き始めると……。
「遅かったですね。なんだか右手を怪我されてるようですが、一体何をやらかしたんですか?」
右斜め後ろらへんからいきなり声をかけられ、ビクッと背筋が立つ。そこにはねずみ色のフードを被った、俺の肩ぐらいまでの背丈の女の子が立っていた。もしかしなくても俺のことを待っていてくれたのか!?
なんだか嬉しい。初めて人の優しさに触れた気がする。感涙しそうになっていると、アイラはサッと紙を取り出し。
「では和敏様。早速ですが、あなた様の実力を見せてもらうため、闘技大会に向かいましょう」
出所仕立てなのに、いきなりそんなことを言われなんて返せば良いかわからなくなる。