事故
「出してください! これは不当逮捕です!」
鉄格子をガンガンと鳴らし、俺は悲痛な叫びをする。
「俺は勇者なんだ! 必ずこの世界を悪の手から解放してみせるから、ここから出してください!」
そう叫んでいると、ツカツカと誰かが歩いてくる。多分この牢屋の看守さんだ。看守さんはウザそうなものを見る目で俺のことを見て。
「おい、さっきからうるさいぞお前。一体どうしたんだよ」
「だからここから出してくださいって。いきなりこの街に来た異邦人をとっ捕まえるなんて、この街はイかれてるんですか?」
「いや、確かにお前さんの言いたいことはわかる。カバンの中身を確認させてもらったが、これといって危険なものも入ってなかったしな」
「なら出してくださいよ」
「そうしてやりたいのは山々なんだが、これでも規則でな。あとで事情聴取を行うから、おとなしく待ってろ」
「そ、そんな。俺は何も隠してない。だから出してください!」
ガンガンとなんども鉄格子を揺らす俺の袖を、アイラちょいちょいと引っ張ってきた。
「あ、あの……。恥ずかしいので静かにしていただけませんか……」
うつむきながらそんなことを言われ、俺は冷静になる。まあ少し取り乱したかもしれない。俺は鉄格子に寄りかかると、そこからズルズルと地面に座り込む。
まあ急ぐことでもないし、慌てることでもないか。落ち着いたら眠くなってきた。見慣れぬ土地でいきなり牢屋に入れられ、心身ともに疲れ切っていたのだろう。
俺はうとうとと頭を揺さぶり、目を閉じた。
「……ぃ。……おい。 起きろ」
そう呼ばれ、目を覚ます。なんだ一体? 俺は眠い目をこすりながら声の方を向くと、そこには先ほどの看守さんがいた。一体何の用だろ?
「あの、何か用ですか? できればあと5時間ほど睡眠をとってから出直してもらいたいのですが……」
「なんなんだこいつ。お前が急かすから、今から事情聴取をしてやろうってんだよ。それで問題がないと分かれば、釈放してやるから」
「あ、なるほど。ありがとうございます」
ぺこりとお辞儀する。そうして俺は、看守さんの後をついていく。これから取調室みたいなところに連れていかれるのかな……?
でも別にやましいことは特にないし、何を聞かれても大丈夫なはずだ。息を整え、俺は看守さんが入っていった部屋に入る。
その中には、中央に机が置いてあり、その机の上下に椅子が置かれている。まんま想像していた取調室みたいな内装の部屋が出てきてびっくりする。
だが一つだけ違うことがあるとすれば、その机の上に謎のガラス玉が置いてあること。
「よし、じゃあ早速取り調べを行う。お前はそっちに座れ」
そう指示され、俺は椅子に座る。椅子に座った俺はじーっと机に置かれているガラス玉を注視する。
「それが気になるか?」
「は、はい。見慣れないもので……」
「そうか……。これはな、人の心拍を測る道具だ。人ってやましいことをした時とか、嘘をついたりした時に心拍が上がるだろ。だからお前が嘘をついたりしても、この魔道具でお見通しってわけだ」
「な、なるほど」
「ちなみにこれは、規定以上の心拍を感知すると爆発する仕様になってるから。それじゃあ早速それに手を乗せな」
「え?」
そんなことを言われ、俺は自分で聞こえるぐらい鼓動が激しくなる。爆発ってなんだ? 下手したら死ぬんじゃ。嘘ってどこまでが嘘? どこまで心拍を上げたらアウト?
そんな不安が募りに募った状態で俺は目の前のガラス玉に手をのせる。すると俺が手を乗せた瞬間、勢いよくガラス玉が弾け飛んだ。