定まった目標とヒロイン
「ええっと……とりあえず離してもらえますか?」
「ああ! すいません、つい……。やっと探していた人に出会えてもので、興奮してしまいました」
「そ、そうですか……」
いきなりのことに、かなり動揺する。いきなり見知らぬ子にずっと探していたなんて言われ、かなり焦っている。
しかしその反面、内心期待している。もしかしなくても、やはり俺は秘められし力を持っている勇者なのでは……!
わざとらしく咳払いをし、アイラに問いかける。
「そ、その。ずっと探していたってどうしてですか……?」
期待を込めた眼差しでアイラを見つめると、アイラは興奮気味に。
「それは、あなた様がこの世界を救ってくださるお方だからです!」
き、キター! 牢屋にいた謎の少女から勇者のお墨付をもらいました。やはり俺は只者ではなかったか。確かに昔っから孤高の存在だったし、他人とはどこか違うと思っていた。
ようやく俺の力が世界に認められたようだ。一人でふふふっと不気味な笑みを浮かべていると、アイラがドン引きしている。
一旦精神を落ち着かせると、アイラの方を向いて詳しい事情を聞くことにする。
「それでその……世界を救うっていうのはその、俺が魔王を討伐する勇者ってことですか?」
「いえ、魔王はもう討伐されました」
「え? でも世界を救うって……」
「はい。ですからこの世界を支配している、魔王を打ち滅ぼした張本人である異世界転移者のゆうき様からこの世界を救ってください!」
「???」
え? 頭の上に、次々と疑問符が浮かび上がる。え? 魔王はもう倒されたの? てか転移者ってなに? 俺よりもう少し前に、日本からこの世界に来た人間がいるの? 名前もゆうきって日本人っぽいし、そいつが魔王倒しちゃったの? しかも今はそいつが世界を支配してるって……え?
情報が多すぎて頭が混乱する。なんだそれ? 俺の知ってるファンタジー展開からは、かなり逸脱しているようだが……。
でもまあ、今そいつが世界を支配してるってことは、実質魔王みたいなもんじゃん。つまり何もおかしくないのか。
もしかしたら今ままでゲームとかに登場してきた魔王たちだって、元は勇者だったみたいな設定かもしれないし。
うん。別にいいじゃないか。魔王が日本人でも。うんうんと一人で勝手に納得してると、アイラが不安そうな声で。
「あの……それでその、ゆうき様からこの世界を救うため、私と協力してくれませんか?」
フードで目元は見えないが、上目遣いでそう言われる。つまりは俺の物語のヒロインがこの子になるということだろうか。まじかよ。もう少し年取ってから出直してきてくれないかな……。
そんな最低なことを考えつつ、俺は。
「別にいいですよ。行きたいところも目標も特にないので」
あっさりおっけーする。そりゃそうだ。そんな楽しそうなことを逃す手はない。もともと俺はそういう大冒険に憧れていた。男というのは常にロマンを追い求めるもの。
未知を既知にしていき、数々の謎を解き明かしていく。そんな大冒険に、俺は小さな頃からずっと憧れていた。
その結果ぼっちになったのだが、ようやくその夢も叶うことになったのだ。
断るなんてありえない。俺は勢いよく立ち上がると、
「それじゃあいきましょうか。妥当魔王の旅へ!」
そういって前に進み、鉄格子に頭をぶつける。
「えーと……頭大丈夫ですか? 主に中身……」
「ひ、ひどい!」
そういえばここは牢屋だった。俺はアイラに辛辣な言葉を投げかけられつつも、鉄格子に手をかけガンガンと音を鳴らす。