運命の少女
「ファイヤーボール!」
そう叫んで手のひらを相手に向ける。すると目の前には焼死体が……。
「おいなんだこいつ? ちょっとビビったじゃねぇか」
一瞬だけ狼狽えた様子を見せるが、俺が何もできないことを察した門番は剣を鞘に収め。
「おいトーマス。この痛い奴を牢屋に連行するぞ。お前も手伝え」
「は、はい」
二人の門番が俺の腕をがっしりとつかんで牢屋に連行しようとする。それに必死で抗おうとするが、相手は仮にもこの街を守る門番。
腕を動かそうとするが、ビクともしない。だから俺は必死に叫んだ。
「だ、誰か! 助けてください! 暴漢に拉致されてます。誰かこのホモおじを止めてください!」
必死に街の人間に助けを求めるが、街の人間たちは助けるどころか離れていった。
「おいトーマス。こいつの口を塞げ。さっきから変なことばかり口にしやがって」
そう言われ、トーマスと呼ばれている門番が俺の口を手で押さえる。
「んん! んーん!」
そして牢屋に着くと、トーマスが鍵を開けその中に俺は放り投げられる。
「それじゃあな。くれぐれも迷惑かけるなよ」
そう言い残し、門番たちは持ち場に戻ってしまった。なんて奴らだ。この世界を救いに来たであろう勇者にこんな扱いをするなんて、この世界の連中は礼儀を知らないのか。
心の中で愚痴をこぼすと、牢屋の壁あたりから物音がした。
がさりと何か動くような音がしたので、俺は音のする方を見てみる。するとそこには、完全に壁と同化している、鼠色のフードを被った人がいた。
「うわぁ!」
思わず驚きの声を上げる。するとその壁と同化していた人は立ち上がると。
「うわぁとはいきなり失礼な方ですね」
そういって俺を見下ろしてきた。女性の声だ。いや、女性というよりかは女の子か? 背丈も高くないし、多分そうだ。どうしてこんなところに……?
とりあえず自己紹介をするべき場面なのか? 俺は鼠色のフードを目元まで被っている女の子であろう人物の顔を見て。
「あ、あの。須田和敏と言います」
名乗った。俺の発言に自分も同じように返すべきだと思った女の子は、同じように自己紹介をしてくれた。
「わたくしはアイラと申します。ここには無銭飲食で捕まってしまいました」
「あ、そうなんですか……」
……会話終了。俺がコミュ障なばかりに、気の利いた返しができなくてごめんなさい……。そんなことを思い、数秒の静寂が流れると、気まずくなったのかアイラが話しかけてくる。
「その……あなた様はどうしてこんなところに?」
「えーと。いきなり門番の人にひどい因縁をふっかけられてさ。それで言い争いになって、その結果ここに入れられたってわけ」
「まああなた様の格好はみるからに常軌を逸してますから……」
「え?」
初対面のはずなのにいきなり辛辣な物言いをされて、若干傷つく。そんなに変な格好かな? こっちには制服という概念がないのだろうか?
「みるからにこの街の人ではないようですが、あなた様はどこからきたのですか?」
このままじゃまた沈黙が生まれると思ったのか、アイラは続けて俺に話しかけてくれる。もしかしたらすごくいい子なのかもしれない。でもどこから来たか……。
別に隠すようなことでもないのだが、本当のことをいった場合普通に変な奴と思われ引かれる可能性がある。
まあいっか。今更奇異の目で見られるのは慣れている。
「えーと、俺はその、日本っていうこことは違う世界から来たんですよ。それでその、いきなり謎の光に包まれて……」
言いながら何いってんだ俺って思った。人と普段話さないせいで、会話が下手くそすぎる。ちなみに俺の苦手科目は国語だ。
きっとこの子もそんな風に思ってるんだろうな……。
そう思ったのだが、アイラの反応は俺の予想していたものとは全く違うものだった。
「やっと……見つけました」
ぎゅっと俺の両手を握り、フード越しに俺の目を見つめてくるその仕草に、心臓が高鳴る。