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第90話 マリー、ラースゴウの叡智と対面する。 下

「やっほー、アイヴィー! 遅れてごめんね~? あ、エドワード君じゃない、おっひさ~」


「ご無沙汰しております、レイラ司祭。ケント司祭も」


 軽い感じで入っていったレイラ司祭について、わたしたちも部屋の中に入った。アイヴィー「神官」という時点で察していたんだけど、部屋の中にはアイヴィー神官の他に、エドワード神官やアイリーン、エミリアもいた。そして、がたいのいい男性神官。格好からして、恐らく神官戦士かしら? 中は応接室のようで、ソファーが置いてあった。


「……レイラ司祭、あなたはもう少しラースゴウの教会トップだということを自覚したほうがいいと思うわ」


「アイヴィー神官、それにエドワード神官、申し訳ないっす。いつも言ってんすけどね~。おっ、アーチー神官、おひさっす!」


 アイヴィー神官は、恐らくアラフィフくらい。きりりとしたバリキャリ風の女性だ。焦げ茶色の髪を肩で切りそろえ、ソーレ教徒らしい、パリッとした法衣を身につけている。頭には同じく真っ白な帽子をかぶっており、大神官以外で帽子をかぶっている人を見たのは初めてなので、ついしげしげと見てしまう。


 それからお互いに、初対面の人間を紹介する。ソーレ教側は、アイヴィー神官にアーチー神官、それにエミリアたち三人である。アーチー神官はラグビーでもしてそうな体格の良いアラサーの男性で、とても寡黙であるようだ。さっきから一言も発していない。


「……ところで、あなた。マリーさんといったかしら?」


 紹介のあと、アイヴィー神官に話しかけられ、わたしはちょっとドギマギしてしまった。


「あ、はい……あの、マリーでけっこうです」


「あらそう、じゃあマリー。あなたその頭にかぶっているものは何かしら? それはそのマール教の巡礼用法衣には合わないわよね?」


「ええと、その……」


「ああ、そのスカーフのこと? いいじゃんいいじゃん、かわいいんだし」


「もう、レイラ司祭。あなたは黙ってて。……いいこと、マリー。服装の乱れは心の乱れよ! それに……」


「いいじゃんいいじゃん、あたしなんて法衣改造しまくりよ~」


「レイラ司祭! ……そうね、あなたは法衣のスカートに切れ込みを入れすぎだわ、……って、ウエストのところまで切っているじゃない!」


「ちゃんと下にズボンはいてるから問題なあい!」


「そういう問題じゃない!!」


 言い争いをする二人を、他のメンバーは生暖かい目で見ていた。責任者のおじさんは汗をふきふき、もっともな提案をしてきた。


「あのー、お二人とも。今は施設がこういう状況ですし……早く本題に入りたいのですが……」


「はっ! ジュード師、申し訳ありません! ……あなたたちも、ごめんなさいね」


「あっはっは、みんなごっめーん!」


 気まずそうにはしているけれど、びしっと謝るアイヴィー神官。それに引き換え、レイラ司祭は何だかお気楽だ。でもソファーに腰掛けると、司祭もキリリとした顔になった。


「はい、では。初めての人もいらっしゃるから、簡単に説明しましょうかね。私はここの責任者で、ジュードと申します。まぁ、普段はあの丘の上の学校で研究をしております。さて、この施設なのですが、ここラースゴウで出た生ゴミや排泄物といったものを処理するための施設です。まぁ言ってみれば、巨大なゴミ処理魔道具ですね。建造に学校が関わっているため、管理もうちの者たちがしておるのです」


「そうそ。で、ラースゴウの住人たちは、敬意を込めてこの建物を『ラースゴウの叡智』って呼んでるのよ~」


 レイラ司祭が補足を入れる。それを聞いて、ジュード師はちょっと恥ずかしそうに頭をかいた。


「すっげー、すっげー! むちゃくちゃでっかいよな!」


「はい、ずいぶん大きいですね。ラースゴウは大都市ですので、これくらいないと処理しこなさないのです。ただ、魔道具もこれだけ大きくなると、使う魔力も膨大で……」


 丁寧とは言えないテオの言葉にも、にこにこと笑顔で答えてくれる。ジュード師ってくらいだからかなり偉い人だと思うけど、ずいぶんと腰が低い。


「普段は学校の教師や生徒、それに多くの町の方々が魔力を提供してくれていたのですが……。『オヤシロ』ができたため、どうしても魔力がそちらの方に流れていってしまいまして……。それで今、動かす魔力が不足していて、汚物を処理し切れていない状態なのです」


 神さまたちがつくった『オヤシロ』。自分の信奉する神さまのオヤシロに魔力を捧げれば、その加護を得られる。三大神以外の加護を進んで得ようと思ったら、オヤシロは大事だもんね。ただ、今回の()()()は良いことばかりではなかったみたい。魔力がオヤシロ、もしくはオヤシロに準ずるお仕事道具とかに流れていったことにより、今まで魔力を受け取っていたこういった魔道具たちに魔力が行き渡らなくなったなんてね。


「学校の者たちを説得して、何とか運搬のタル用の魔力は集められたのですが。汚物を集められても、処理できない状況なのです」


「なるほど、それで我々聖職者たちに話が来たのですね」


「そうね~。学校関係者をのぞけば、魔力が高い方だもんね、あたしたちって」


「はい。……ご協力いただけますか?」


「ええ、喜んでお受けしますわ」


「おっけ~! だってクサイのやあだもん」


「いやはや、ありがたい。ではさっそく魔力オーブを持ってこさせましょう」


 ジュード師はそう言うと、助手みたいな人を呼んで魔力オーブを持ってきてもらった。それはわたしの頭くらいの大きさの水晶玉だ。そして転がらないように、ちょこんと台座に載っている。


「お一人ずつ手を触れて、魔力を流してください」


「では、わたくしから」 


 アイヴィー神官はそう言うと、テーブルの上に置かれた魔力オーブに手をかざす。しばらくすると、ジュード師が合図をし、次の人へと代わる。人が代わっていくたび、周囲の臭いが明らかに薄れていくのが面白い。


(ふん、この魔道具は無駄が多すぎるな。グレイツィアなら、もっといいものを作れたのに)


 ぶつくさとフェルナンドさんが愚痴をこぼす。


(そぉお? ならジュードさんに作り方を教えてあげたら?)


(……魔道具というのは、助言を受けて作るものではない。自ら真理を探究し、理解してこそ作れるものなのだ)


(フェルナンドさんのけっちんぼ~)


 わたしが茶化すように言うと、


(マリー、君はわたしが狭量のように思っているのかも知れないが、これは大切なことなのだ。精霊の力を直接借りて使う魔法と違い、魔道具に使われる刻印魔法は、精霊から切り離された力を使う。つまり、普段よりも的確な指示が求められる。それに緻密な魔力回路もな)


(ああ、いつもはふんわりとしたイメージを伝えると、精霊のほうで勝手に魔法を使ってくれるもんね。なんか、なあなあでやってくれてるっていうか、おじちゃんいつもの! っていうか)


 わたしの言葉に、ちょっと呆れた感じでため息をつく。こういうとこ、フェルナンドさんは器用である。サークレットなのにね!


(なあなあ……。契約精霊との信頼関係の賜物と言ってくれたまえ。とにかく、確実な知識をもってしないと、刻印魔法は危険だ。それに、魔道具は魔力さえ流せば、誰でも使える。安全性の問題もあるしな。そもそも……)


「なあ、マリー。お前も魔力流してみるか? おれには難しすぎたぜ、まったくできんかった!」


 いきなりテオに声をかけられて、わたしはびっくりした。見ると順番はどんどん進んでいて、残るはわたしだけになっていたようだ。


「ほんと、難しかったわ。自分の外に流す感覚? っていうのが、なかなかつかめなくって……」


「そうよ~。普段魔道具に触れてないと、コツをつかむのに時間がかかるわよぉ」


 しょんぼりとするシンシアを、レイラ司祭がなぐさめる。ケント司祭がわたしのほうを向いて尋ねてきた。


「んで、マリーちゃんは試してみるっすか? まだ早いと思うんすけど……」


(そもそも、耐久性や魔力効率を上げるために、希少な素材を使わないとならないし……。とまあ、魔道具作りは奥が深いのだ)


 ちょっと、あっちこっちからしゃべりかけないで!

 元ゲーマーのマリーは、よくアプデとかのゲーム用語を使っていますが、舞台は前世のゲーム世界ではありません。サンタンたちよりさらに上位の神々たちの、ある意味ゲーム世界ではあるのですが。


 ラースゴウの叡智ですが、正確に言えば建物は建物です。その建物のあちらこちらに魔道具が設置してあり、それらに魔力オーブから魔力を注ぎます。工場内の機械類に燃料を入れると思ってもらったら分かりやすいかも。

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