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第83話 マリー、大神官の真実を知る。

 まだまだソーレ教神殿でのお話は続きます。今回は長めかも?

 デザートが運ばれてきた。混沌支配する会場の中、何か新しい風を入れないとという思惑は、果たして成功したようだった。


「ああ、これこれ。わたくしは甘い物には目が無くてですな」


 嬉しそうに、小さなケーキをほおばる大神官。小さいといっても種類の違うものが三つも載っているお皿に、わたしは目を丸くした。味は……個人的な好みからいえば少し甘すぎたけど、おいしいのは確かだ。


「ああ、これもすばらしいですな。いやはや、本日はご歓待いただきありがとう存じます」


 普段、これは燃料補給だとばかりに食事に無頓着な高司祭様も、ずいぶんと満足したようだった。そして、前世のご飯が恋しいわたしはいうまでもない……願わくば、もっと楽しい話題で食べたかったけどね!


「ところでクリスティアーノ殿。応接室でコーヒーでもいかがですかな? マリー殿もご一緒に」


「それはいいですな! ではいただくとしましょう」


 大神官の誘いに高司祭様はうなずくと、連れだって応接室へと向かった。


 向かった応接室は、こぢんまりとはしていたが、居心地の良さそうなソファが置いてあった。わたしたちがソファに座ると、エドワード神官がコーヒーとお菓子を持ってきてくれた。そしてそのまま退出する。部屋の中には、高司祭様とわたし、それに大神官の三人となった。


「さて……()()()()はもうおしまいだ。単刀直入に訊くが、そちらではこれからのコートランドに対してどのような対策を練っているのだ?」


 いきなりざっくばらんに話し始めた大神官。それは高司祭様も予想していたようで、いつもの調子で話し始めた。


「……とりあえず、本国から何人か司祭クラスを呼び寄せましたね。一つの町につき、最低でも司祭を二人おけるよう手配中ですよ。教会が無いところには仮の教会をつくってね」


「ふむ。そちらに戦える者はおるのか?」


 それに対し、高司祭様は渋い顔をする。


「ああ、実際に戦える者は少数ですね。サポートがメインになりそうです」


「数ヶ月前から、何かしらの異変はあったのだ。それこそ魔物の被害が増えるといったような……。ただ、それを訴えてみても、コートランド王も本国(ローマリア)もまったく相手にしなくてな。……こう言っては何だが、こたびのカレンディアでの出来事は、本国の連中を動かすのに役に立ったよ。いくらコートランドでわれわれの信者が多いからといっても、実際に使()()()者は少ないからな」


「そうですね。奇跡的にも人的被害は出なかったようですし。思えば、今までがおかしかったのでしょうね。大陸に渡れば、魔物の脅威はこんなものではないのですから。なぜ海を隔てただけでこの島はこんなにも平和なのかと、赴任当時は不思議でしたよ」


 それはお母さんがいたからですよと、わたしは心の中でつぶやいた。そして、カレンディアだけで見ればおおごとだった今回の事件も、コートランド全体で見ればこれくらいですんだと言えなくもない。少しずつなくなっていくお菓子を見ながら、わたしはそんなことを考えていた。少しの犠牲で、国中の意識を変えられたんだからね。実際に体験したものとしては少々複雑な気持ちだけど……。


 そして、意外に大神官もちゃんと物事を考えていたんだなと感心する。実はできる人なのかしらね? わたしはかなり最悪な印象だった彼のことを、少し見直した。


「……そして、われわれソーレ教徒にとっては、探していた宝剣を見つけることが出来たのだからな。マリー殿、あの『切り裂く者』(タリアンテ)はどこで手に入れたのだ?」


 ! いきなり話がこちらを向いて、わたしは驚いてしまった。大神官様の真剣な表情……ただ、右手のマフィンがシリアスさを台無しにしているが。


「ええっと、あれは母の形見なのです。あ、母といっても、生みの母ではなくて育ての母なのですが……」


「ああ、おぬしにクレアという老齢の母親がいることは、エドワードから聞いておる。では、彼女が持っていたのか? どういった経緯で手にしたかとかは知らぬのか?」


「ソーレ教の宝剣、『切り裂く者』(タリアンテ)ですか。たしかに、もうずいぶんと昔に紛失したと聞いておりますね。それこそ百年は経っているのでは? そんなに昔の話なら、マリーの母親のクレア殿も知らない可能性もありますな」


「それに、そのクレア殿はグレイツィアという、われわれにとっては特別な名前の持ち主と知り合いだったと聞いておる……グレイツィアの娘がクレア殿なのか?」


 グレイツィアと母クレアは同一人物ですと言いたいけれど、話がややこしくなるので黙っておいた。それを良いように解釈してくれたのか、大神官様はわたしへの追及をやめてくれた。


「ふむ、まあその年齢ではまだ知らぬことも多いだろう。われわれとしても、『切り裂く者』(タリアンテ)が戻ってくればそれで良い。あの宝剣のおかげで今回の被害も少なかったと思えば、われわれとしても鼻が高い。マリー殿、礼を言う」


「いえいえ。どちらにしても、わたしには使いこなせませんし。あるべきところへ戻ったのは、わたしとしても良かったと思っています。あの宝剣はエドワード神官へ差し上げましたから。そこから先は、大事に使ってくれさえすれば、特に何を言うこともありません」


「……さて、わしが言うものなんだが、あれほどの剣をただで受け取るわけにもいかぬ。大事にしていてくれたようだしな。そうは言ったものの、見合うだけの報酬が思いつかぬのだ。何か欲しいものはあるのか?」


 渡りに船だ! わたしはそう思った。大神官様とエミリアとの仲が戻るのなら、これに越したことはない。


「では大神官様、お願いがございます。わたくしの孤児院の姉、エミリアとの和解を……」


「! それだけはならん!」


 言い終える前に、思いっきり否定されてしまったわ……。


「差し出がましいようですが、理由をお聞きしても?」


 高司祭様が割って入った。それに対しても大神官様は無言で、さらに高司祭様は続けた。


「あのエミリアが『恩寵持ち』なのはご存知でしょう? おそらくは、生まれるときに『神託』(オラーコロ)を受けたはず。そんな貴重な娘を、ただ遊ばせておくのはもったいないかと。彼女は自らソーレ教を選んでいるのですよ」


「あれは……アレはわしの大事な宝物を奪ったのでな……。どうにもならんのだよ、気持ちというものは……。代わりにおぬしらの孤児院の建て替えとかはどうだ? ああ、コートランドすべての町に、教会を代わりに建ててやるのでもいいぞ。いや、望むだけの金貨でも……」


「ちょっと待ってよ! ソーレ教の大神官がマール教の教会を建てるなんてどうにかしてるわよ……! ……ますよ」


「……そうですね。われわれも、今は仮ですが将来的にはちゃんとした教会を建設するだけの力はありますよ?」


 高司祭様も大人になったのか、苦笑ですませた。それにしてもあの剣、どれだけの価値があるの? それに……?


「……では『大事な宝物』について、話していただけますか?」


 自分が失言したと悟った大神官様は、少し迷いをみせたものの、ぽつりぽつりと話し始めた。


「わしには娘がおってな……連れ合いが早くに亡くなったため、わしにとっては大事な宝物だった」


「それってエミリアのお母様ですよね? お母様はお産で亡くなったとは聞いておりませんが……」


「娘は……エリシアはコートランドの聖女と呼ばれておったよ。そしていつの間にか懐妊した。わしもエミリアが生まれる直前までは楽しみで仕方が無かったよ。父親なんておらずとも、わしが父親代わりになればよいとな。ただ……わしは『神託』(オラーコロ)を受けてしまったのだ。生まれてくる孫はサンタンさまの恩寵を受けていると、知ってしまったのだよ……」


 頭を抱える大神官様。


「ソーレ教の聖女の娘なら、サンタンさまの恩寵を受けていてもよいのでは? 箔がつくというか、孫も()()()()ではないですか」


 高司祭様の言葉に、わたしもうなずいた。サンタンさまの恩寵なら、まったく問題がないじゃない?


「……ああ、君らはまだわしの気持ちが分からないかもしれんな。娘エリシアは確かに聖女とは呼ばれておったが、普通の神官から頭一つか二つ飛び出ていたくらいだ。大神官の地位には行けるだろうが、それより上には行けまい。だのにエミリアは……」


「……エミリアがいつかご息女の地位を脅かす、と……」


「そうだ。ああ、これは本当にバカな親のエゴでしかない。それは分かっているのだが、耐えられなかったのだよ。わしには……耐えられなかった……」


 高司祭様の言葉に、大神官様は顔を覆ってしまった。しばらくの間、応接室は沈黙した。聞こえるのは大神官様のすすり泣く声のみ。ややあって、高司祭様が口を開いた。


「……では、エミリアの身柄はわたくしの良いようにしてもいいんですかね?」


「……」


 それに対し、大神官様は無言で応えた。


「ちょうど知り合いの枢機卿(カルディナーレ)から、見所のある子どもを紹介してくれと頼まれていましてね。彼女に預けることにしようかと思うのですがよろしいですかね?」


「……そうだな。お願いしよう……って、今枢機卿(カルディナーレ)と言ったか!? 枢機卿(ケルディアル)ではなく!?」


 慌てふためく大神官さまに対し、高司祭様はいつものように笑った。


「ええ。枢機卿(カルディナーレ)ですよ。わたくしのいちばん上の姉が、ローマリアで枢機卿(カルディナーレ)をしておりましてね。自分に仕える者をさがしていたんですよ、優秀なね。上の方になると味方も増えますが、敵も増えるとのこと。一人でも信頼できる者を多く手元に置いておきたいのでしょう」


「何と、高司祭殿の姉君は枢機卿(カルディナーレ)でもあったか……その年でそこまで出世できるとは……いやはや若い者には敵いませんな……。もっとも、君らには分からない感情かもしれんが……」


「ははは、ご冗談を。大神官殿の四分の一も生きていないようなこのわたくしでさえも、自分より若い者の台頭は怖いですよ」


「……! ははは、違いないですな」


 そして二人は、ここで心から打ち解けたみたいで、穏やかに笑っていた。ま、まあ、何か視線を感じるけれど、気にしないことにするわ。

 ぶっちゃけトークをする三人組。最終的に母エリシアの自殺の原因は何だったのかは分かりません。娘大好きなところは、ハリー大神官もサンタンも同じかも。そして、意外に仕事もしている大神官でした。人の上に立つ能力としては、クリスティアーノよりも上です。


 また、グレイツィアとクレアを同一人物とみていないですが、それは彼女が人間としてはまれに見る長生きだったからです。そして、最晩年でも無双ぶりを見せつけたため、彼女が実は100歳過ぎだったとは誰も思いませんでした。そんな彼女も、若返りの禁呪を使ってしまったため、寿命が縮んでしまいました……。最後は老衰です。

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