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第81話 マリー、法衣を手に入れる。

 浮かない顔のエドワード神官……いつも浮かない顔のような気がします! 今度はどうしたのでしょうか?

「あらご機嫌よう、エドワード神官。どうしたのですか、そんな顔をして」


 マイア司祭の問いかけに、エドワード神官は眉尻を下げたまま、高司祭様がいらっしゃるかどうかを尋ねた。


「お初にお目にかかる、エドワード神官殿。わたしがエディーナで大神官を務めているクリスティアーノだ。以後よろしく頼む」


 応対に出たマイア司祭の後ろから、それを聞きつけた高司祭様が顔を出した。そしてエドワード神官の手に手紙を見つけると、続けて言う。


「その手のものは、わたし宛てでよろしいかな?」


 普段とは違うよそ行きの言葉で、にこやかに話す高司祭様。その様子があまりにもおかしくて、子どもたちは笑いをこらえるのに必死だ。


「はっ、失礼いたしました。クリスティアーノ高司祭様。わたくしは、ここカレンディアでソーレ教の神官を務めておりますエドワードと申します……高司祭様におかれましては、わたくしのことをご存じでいらっしゃいましたか」


「貴殿の師に当たるアーネスト殿とは親交があってな。彼から何度か名前を聞いたことがあったのだ」


「さようでございましたか」


「体を悪くされてからは、とんと音沙汰が無かったが……。まあ、今回元気なお姿を拝見できて良かった。これからはソーレ教の布教活動のため、在野の神官となられるとか」


 わたしと一緒に助けられたアーネスト神官は、神殿所属から、在野の神官になった。神官、司祭クラスになると通常神殿や教会に所属している。よって野に下ると放浪神官、野良神官とも揶揄(やゆ)されるが、神殿にいたときよりも多くの人々に関われるため、一般の人には人気がある。ラースゴウをまとめる神官にまでなった能力を活かし、「罪滅ぼし」をするのだと言って、女性信者と共に旅立つと言っていた。……罪滅ぼしって何かしら?


 ちなみに冒険者の聖職者は、ほとんどが聖職者としての「位」(くらい)を持っていない普通の信者たちだ。もっとも彼らは位がないだけで、実力が劣るわけではないらしい。


「ええ。前よりお元気そうで。……と、申し訳ございません。わたくしは今回、こちらをクリスティアーノ高司祭様にお持ちいたしました。大神官のハリーからでございます。お読みになりましたら、お返事をいただきたいのですが」


 エドワード神官はそう言うと、うやうやしく手紙を高司祭様に手渡した。高司祭様はさっそく開封し、熱心に読んでいる。それは上質な紙を使っていると一目で分かる封筒で、中から出てきた便せんも輝くばかりの白い色が美しい。


「ハリー大神官様からか。エディーナではお互い忙しく、なかなかお会いすることが叶わなかったが……」


 高司祭様は読み終わると、ふうと一息はいた。そして真顔で尋ねた。


「して、エドワード殿。晩餐会の日程は()()ということでよろしいのかな?」


 マイア司祭の眉がピクリと上がった。エドワード神官はそれはもう恐縮しており、また深々と頭を下げた。


「申し訳ございません。急なお誘い、大変失礼なこととは存じますが……」


 頭を下げつつ、視線は高司祭様から離れない。日本式の頭を下げる礼に慣れたわたしとしては、こういう異世界式の作法はちょっと違和感だ。


 マイア司祭も、アリスィ司祭も、何か言いたげな顔をした。しかし高司祭様がそれから何もおっしゃらないので、口は閉じたままだ。大神官と高司祭、宗教は違えど格は同じなので、昼も過ぎたようなときに明日の晩餐会の招待状を持ってくるのは、ちょっと、いやかなり失礼な行為である。ややあって、高司祭様がさらに困惑したように言う。


「それに、『マリー司祭もご一緒に』とあるが、名前を間違っているのではないだろうか。今現在カレンディアで司祭を務めておるのは『マイア』だが……」


「ええ、それもわたしたちで何度も訂正したのですが……。マリーはまだ幼児であり、シスター見習いですらないと……」


 同じ町に住むもの同士、ソーレ教神殿にも顔なじみは何人もいる。あの気の強いアイリーンは、いったいどんな顔をしただろうと考えた。いくら何でも、大神官様に盾突いたりしない、よね?


 それを考えると、つねに優しすぎるエドワード神官のこの行動もうなずけた。優しすぎるというよりは優柔不断な彼は、他者に対する礼儀と自分の上司命令との間にある矛盾の板挟みになっているようだった……いつかハゲるんじゃないかしら?


「ふうむ……。せっかくのお招きだ。マリーと共に伺おうと思う。そのように大神官様にお伝え願えるだろうか」


「ありがとうございます、クリスティアーノ高司祭様! ではさっそくそのように伝えますゆえ。明日は迎えの者をよこします。無理を言って申し訳ございませんが、受けてくださったこと心よりありがたく存じます」


 エドワード神官はさっきまでとは打って変わって、肩の荷が下りたというような感じだ。何度も頭を下げながら帰っていく彼を、高司祭様はそれはもう、いい笑顔で見送った。マイア司祭とアリスィ司祭はずいぶんと苦い顔をしているが。


「……兄様! いったい何をたくらんでいらっしゃるのですか!?」


「ははは、たくらんでいるなど人聞きが悪いな。いやなに、おれがエディーナに赴任してから半年以上経ったが、ご挨拶を試みようとしても一向になしのつぶてだったハリー大神官サマのご尊顔を拝見できるこの機会を逃したくないと思ったわけだ」

 

 そしていつもの悪い顔でニヤリと笑う大神官様を見て、マイア司祭もため息まじりに言った。


「……まあ、あちらがずいぶんと礼を失しているとはいえ、断るのも角が立ちそうですものね。……できる限り穏便にお願いいたしますよ……。それにしてもエドワード神官ときたら! あの事件で少しはしっかりしてきたかと思っていましたのに!」


「もう兄様ったら……。でも、そうと決まったら、準備をしなくてはなりませんね。マリーさん用の法衣はないのでしょう?」


 アリスィ司祭も、大きなため息をつくと、頭を切り替えたようだ。もっとも、まだ兄様呼びになっているけれど。


 それからあとは、いちばん小柄なアリスィ司祭の着替え用の法衣を裁断して、わたし用の法衣を作った。もちろんミシンなんてないから手縫いだ。成長を見越して少し大きめだけど、自分専用の法衣にウキウキする。これならハリー大神官様に感謝してもいいかもと、わたしは一人にんまりした。

 孤児院の子どもで法衣を持っているのは、シスターのシンシアだけでした。彼女は一着しか持っていなかったので、アリスィの着替えを使うことに。サイズでいえば、150サイズを100にお直し……は難しかったので、裁断した布を使って特急で縫うことに。いつも服のお直しをしているシンシアは、お裁縫が得意です。なお、マリーの実際の身長は90センチほどです。


 神官や司祭というのはあくまでも神殿、教会内の階級なので、冒険者たちには実際の神官や司祭というのは少ないです。ただ便宜上、そのように呼ばれているところはあります。

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