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第78話 マリー、高司祭に気に入られる。

 今回は少し短めです。

 わたしが目覚めてから数日経った。フェルナンドさんにわたしのレベルアップ宣言をしたとき、彼が何だかビミョーな顔をしていたのが印象的だった。フェルナンドさんって、いわゆる「意識高い系」っぽいから、宣言をしてまで自分を磨こうとするわたしのような人間の気持ちが分からなかったんだと思う。自己鍛錬とか好きそうだしね、あの(サークレット)


 わたしはというと、特に能力が高いわけでもなく、ものすごく努力家というわけでもなかったから、何かモチベがないとエンジンがかからないタイプだった。


 もちろん、わたしよりもやる気のない人もいる。ただ、下を見てもキリがないし、ましてや上を見てもただ落ち込むだけだ。自分の出来ることをやろうと思い、仰々(ぎょうぎょう)しく宣言した次第である。


 そもそもわたしが死んでしまった日、()()()()()()()としてデパートに行ったのだ……まぁ、本当に「生まれ変わって」しまったんだけど。


 それで思ったのは、ただ体が物理的に生まれ変わったとしても、精神が前のままだとそれは生まれ変わったことにならないんじゃないかってこと。


 そんなことを考えながら過ごした日々だった。みんながわたしの体を心配してベッドに押し込めていたから、考える時間がたくさんあったんだけどね。


 ああ、ついフェルナンドさんのグチを言っちゃったけど、彼は基本的に人の良いサークレットなので、何だかんだとわたしの世話を焼いてくれるんだけどね。



◆◆◆◆◆



「久しいな、みんな。息災だったか?」


 クリスティアーノ高司祭様たちがやってきた。教会の改善の期限まではまだ猶予があったんだけど、神さま方がカレンディアに降臨されるという大事件が起こったため、急きょ首都エディーナからやってきたわけだ。同じように、ソーレ教の大神官も近々やってくるらしい。


「ご無沙汰しております、クリスティアーノ高司祭様、アリスィ司祭」


「ご無沙汰しております、マイア司祭」


 にこやかに挨拶をするアリスィ司祭。気が強く、少々強引な高司祭とは良いコンビである。


「さて、さっそくではあるが、マリエラさまから(たまわ)った石版を見せてもらえるか?」


「はい、かしこまりました」


 石版は、礼拝堂に安置されているマリエラ像の隣に置いてあった。石版というより、石碑と言ったほうが近いかしら。わたしと同じくらい大きいそれには、何やら文字が刻まれている。


「ううむ、これは何と書いてあるのだ?」


「はい、こちらに訳されたものが」


 マイア司祭が、マリエラさまから賜った羊皮紙をクリスティアーノ高司祭に差し出した。こちらはわたしたちにも分かる言葉、英語で書かれてある。そしてまだしっかりと石碑を見ていなかったわたしは、この機会に近づいてみた。


 文字の書かれたというか、彫られた部分はすべらかで、それ以外は石そのまま、ごつごつしている。素人目には、青みがかった感じの大理石かしらね。肝心の文字はというと、ぱっと見、筆記体でつづられた文章のようだ。見知ったアルファベットが、見知らぬ順番に並んでいる……って、これ英語じゃない外国語ってだけじゃない? それこそヨーロッパのどこかの言語。


 まぁどちらにしてもわたしには読めないし、訳文があるので気にしないことにする。そして、真剣な顔で羊皮紙を読む高司祭たちを、ぼんやりと眺めていた。ほかの子どもたちも、石碑も羊皮紙も見飽きたのか、同じように眺めている。


「ふむ……。聖典にある話と合致するな。これはすばらしい!」


 何度も読み返す高司祭たち。そう言われるとわたしも気になって、一緒に羊皮紙を覗き込んだ。


「ん? お前は読んでも分からないだろう?」


「いえ、高司祭様。マリーは子どもたちの中で、いちばん読み書きができます」


「何と! そこのシスターはアリスィと同じくらいだろう? それよりも上だと?」


「は、はい、その通りです……。それにマリーはわたしより、聖典の言葉をよく知ってます……」


 高司祭に詰め寄られ、消え入るような声で答えるシンシア。あと正確に言うなら、シンシアは高司祭と同い年くらいだと思う。


「申し訳ございません、高司祭様。わたくしの教育が不足しておりまして……」


「もうよい! その年になっても読み書きも十分にできないとは、努力が足りないのではないか? しかもこんな幼女に負けるとはな!」


 うつむくシンシア。シンシアってすごく優しくて面倒見がいいんだけど、その分打たれ弱いところがある。いつぞやもいじけ虫が顔を出して、わたしがなぐさめてあげたこともあるくらいだ。


「……ここの人間は()()()()ばかりだな……。して、マリーよ。お前とは話が合いそうだな。ちょっと話さないか?」


 そう言うと、高司祭はわたしを連れて二階の司祭室へと向かった。慌ててアリスィ司祭がみんなのフォローにまわっているのが、目の端っこに映った。


 クリスティアーノ高司祭に気に入られたマリー。神聖魔法はともかくとして、高司祭にはまだ「若さ」が目立つようです。シンシアと同い年の十五歳です。妹のアリスィは三歳ほど年下ですが、兄の尻拭いに奔走し、少し大人びています。

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