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第77話 サークレットの独り言

 今度はサークレットのフェルナンド視点で、事件の顛末を語ります。

 ソーレ教の男が出て行ったあと、部屋はマリーとわたしの二人となった。あの男も、最初会ったときとは違い、憑きものが落ちたかのようだ。もっとも、自分の信仰と良心の狭間とで悩んでいるようだったが。


「わたしが眠ってるとき、フェルナンドさんは何してたの? わたしから魔力は供給されてたんだよね?」


「ああ。魔力弾を撃って対抗しようとしたが、逆に無力化された。だからわたしもお前と同じく眠っていたのだ」


「そっか……。でも、フェルナンドさんが無事で良かった。そうだ、何だか魔石が付けられてたけど、あれってサンタンさまがくれたの?」


「……そうだ」


 わたしは何とか絞り出すように、そう答えた。あれは、あの魔石は今は亡きグレイツィアのものだ。もとは大人の拳ほどの大きさだったが、そのままでは目立つため、サンタンが小さく圧縮し、サークレット(わたし)の内側に埋め込んでくれた。入っていた魔力はほぼ消費されており、見た目は魔力が少しだけ溜められる小さな魔石である。


 一般的に魔石の大きさと、容量は比例する。長く生きたドラゴンの魔石などは最高峰であるが、持ち運ぶにはちと大きすぎる。そして魔石が元は体の器官の一つである以上、体の大きさ以上には大きくはならない。つまり、人間ではあるが魔力が古代竜(エンシェントドラゴン)並に膨大だったグレイツィアの魔石は、常識ではあり得ないほど小さかったのだ。魔石の中で魔力が圧縮されるため、そのようなことが起こりうる。そのうえ神が目立たないようにと、さらに指でつまめるくらいに圧縮してしまった。ゆえに、わたしに付けられた魔石の価値は計り知れないものとなっている。


(もっとも、わたしの持ち主がこの娘である今は、宝の持ち腐れも良いところだが……)


 わたしは嘆息した。魔石には魔力を込めなければ意味は無いが、この娘の魔力量は少なすぎる。娘を経由してわたしが魔力を流し込むことも出来るが、コップで大海を一杯にするほどの手間がかかり、現実的ではない。


(グレイツィアの愛娘ではあるのだが……)


 自分の死期を悟ったグレイツィアは、マリーに自分のすべてを教えようとした。すべての精霊と契約させ、組み手もおこなっていた。自分の知識をまとめた知識のサークレット(わたし)や、ソーレ教の宝剣も遺した。しかし、いかんせん時間がなさ過ぎた。まだ幼児であるマリーには、グレイツィアの相手は荷が重すぎた。グレイツィアは自分が何でも出来る分、人にも同じことを求めてしまうのだ。それは彼女の悪い癖だった。わたしは少し、しんみりとした気分になった。


 サンタンやマリエラは、マリーのことを何かと気にかけてくれ、あの魔石を託してくれた。しかし、あの娘の記憶を封じ、自分たちとの交流を「無かったこと」にしてしまった。マール教徒の見習いでしかないあの娘が、三大神のうち二柱にあのような感じで会うなど、まったくもってありえないことなのだ。


(グレイツィア(まなむすめ)養女(まなむすめ)であって、愛孫ではないからな……)


 わたしがそのように考えているあいだ、マリーは無言であった。目は閉じられており、眠っているかのように見える。まあ、まだ幼いから疲れていて眠いのだろう。そう考えていると、マリーがぱちりと目を開いた。


「ねぇ、『オヤシロ』ってなんだと思う?」


 いきなり声をかけられたわたしは、少なからず驚いた。この娘はいったい何を言い出すのだ?


「オヤシロとは神を祀った場所のことだ。三大神以外のな」


「神さまごとにオヤシロがあるんなら、カレンディアの近くにもあるのかなぁ?」


「いや、自らオヤシロを作れるのは、三大神につぐ力を持った神々だけだ。そしてそういった神々は、魔力値が高い者の多い地にオヤシロを建てるだろう。ここの近くには、ひとつもないのではないか?」


「? じゃあ、わたしたちはオヤシロにお詣りできないの?」


「いや、あのドワーフの薬師のやり方を真似するといい。たとえば薬の神の加護が欲しいのなら、魔力を込めながら調剤するのだ。するといずれ、かの神の目に留まる。もしくは、その神にゆかりのありそうなもの、薬の神なら薬研(やげん)や乳鉢などを御神体として魔力を注ぎ込む。つまりオヤシロの代わりだな」


「ああ、神さまにいっぱいアピールして、自分の存在を知ってもらえばいいってこと?」


「……まあそういうことだ」


「でもそんなこと、マイア司祭たちは言ってなかったよね? わたしがまだ小さいから、あえて言わなかったのかとも思ったけど。フェルナンドさんはわたしとずっと一緒にいたと思うけど、いつその情報を手に入れたの? オヤシロ自体、今回の()()()で導入された新システムだもんね?」


 わたしは沈黙した。記憶が消去される前の話と、そのあと()()()()神々と会話したこと、これを知られたら、神々の意図を台無しにしてしまう。あと、「あぷで」とは何だ?


「あと、オヤシロってさ、『日本語』だよね? わたしが前世で使っていた言葉。言葉が統一される前はもちろん日本語もあったと思うんだけど、統一されたあとは消えてしまった言葉。それが今さらこのタイミングで復活って、出来過ぎじゃない? まるでサンタンさまが、誰か『日本人』と話したみたいよね?」


「……」


 見た目が幼いからか、あと、わたしがいつもグレイツィアと一緒にいたからか、この娘はただの幼女にしか見えないのだが……。思ったよりは賢いのかもしれない。


「わたしがサンタンさまとお話したという事実があったとして、それを覚えていないって、記憶の改ざんがあったってことだよね。きっとそれはわたしが特別な力も無いただの三歳児だからだろうけど。サンタンさまたちは、わたしを運命の渦みたいなのに巻き込みたくなかったんじゃないかなと思うよ……。神さまたちはわたしのこと、大切にしてくれているんだね」


「……わたしはただのサークレットだからな。そういった機微は分からぬ」


「あはは、そうだね。でもきっと、神さまたちはわたしがお母さんの娘だから、特別に目をかけてくれてるんだと思う。すごく強かったお母さん。でもまるで隠者みたいに歴史の表舞台に立つことが無かったお母さん……。何があったかは分からないんだけど、これって人類の喪失だと思うんだ……」


「人類の喪失……言い得て妙だな」


 そう、グレイツィアさえ活躍できれば、人類はもっと発展できていただろう。魔物の脅威も、それこそここリテアン島くらいで抑えられていたと思われる。しかし、エヴィーナの暗躍により、その機会は失われてしまった。もっとも、たとえエヴィーナがいなかったとしても、グレイツィアは活躍できなかったかもしれない。それほど彼女の能力は突出していて、人の嫉妬心というのは際限が無いものだから……。


「わたしね、フェルナンドさんの中に収められた知識を放出したいんだ。でもまだ幼いわたしがそんなことしても、うまくはいかないだろうし、伝える相手を選ぶものも多いと思うんだ。人類には早すぎるものも多いだろうしね」


「そうだな、わたしもこの知識を朽ちさせたくはない」


「でね、思ったんだけど。わたし『レベル上げ』を頑張ろうと思うの!」


 この娘の話はまとまりに欠け、すぐ飛躍するので着いていけぬな。


「わたし前世でゲームするのが大好きだったの。自分のキャラを育てるのが好きで、レベル上げのための狩りも全然苦じゃなかった。……まぁ()()のレベル上げは苦手だったんだけど」


 そう言うとマリーは苦笑した。


「でねでね? わたしから見ればまるでゲームのようなこの世界で、わたし自身を主人公に育成すればわたしも成長できるんじゃないかって! ね、やる気が出てくるでしょ? そしてそれから、フェルナンドさんの知識を放出するの! ね、いい考えでしょ?」


 わたしはため息をついた。とりあえずこの娘は、前世では向上心に欠けていたらしい。マリーとして生まれ変わり、自分を磨きたくなったということか。いつまで続くか分からぬが、これでもわたしのマスターであるから、あまり無下にもできぬ。


「あー、何だか楽しみになってきちゃった! でも自分磨きは明日からね!」


 わたしはまた、息を吐いた。前途多難である。

 フェルナンドはああ言っていますが、前世のマリエが怠惰な人間だったというよりは、比べる人たちが悪すぎた感じです。ごくごくフツー(?)のアラフォーでした。

 

 根っからのゲーマーであったマリエの考え方はゲーム脳そのもので、アプデや新システムなどの単語を連発していますが、この世界は別に前世のゲームの世界というわけではありません。

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