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第67話 マリー誘拐に関する、魔法使いとしての考察 (フェルナンド視点)

今回はエルフのフェルナンド視点です。……フェルナンドと呼ばれる人が3人もいるため、ややこしくてすみません。サークレットのフェルナンドは、ただ今エヴィーナによって封印中。エルフ王のフェルナンドは、名前だけの出演です。

「おうおう、フェルナンドよ。なんでそう思ったんだ?」


 案の定、その場にいた皆は困惑し、ギルマスがわたしにそう尋ねてきた。


「シーナやアンソニーの話を聞く限り、マリーは幽霊(ゴースト)に包まれ、そのまま消えてしまったということだが」


「ああ、そうだよ。あたしとテオが、マリーを捕まえた幽霊(ゴースト)を二人がかりで押さえつけたんだが……そのときは、中にはマリーの感触はもう……」


 シーナはそう言いながら、ボロボロと涙を流した。マイアや妹ももらい泣きしている。あのドワーフにしては珍しいな……。


「布で包んだ人が一瞬で消えるというのは、基本的にはあり得ないことだ、基本的にはな」


 いくら高名な魔法使いでも、一瞬で痕跡を残さずというのは無理な話だ。もちろん、わたしの名前と同じエルフ王だったら……と思わなくはない。ただ、魔法が精霊や神の力を借りて行使するものである以上、やはり出来ないことはある。それこそ空を飛ぶとか、人が消えるとか。


「き、基本的にはってことは……例外もあるってことですか?」


「ああ、マイア。魔法の力の源である精霊や神なら、あるいは」


 しゃくり上げながらマイアが聞いてきた。自分のところの娘がいなくなったのだから、彼女の心痛もいかばかりか。


 神や精霊が相手だとすると、われわれ人には分が悪い。魔力で敵わないし、相手次第では、魔法がまったく使えなくなる。


「なあ、フェルナンド。オレらは魔法使いじゃねえ。神や精霊と言われても、あんましピンと来ねえんだ。もうちょっと説明してくれねえか?」


「……わかった」


 皆の視線が集まってきた……どうもこういうのは慣れないな。


 エルフは他の種族に比べて、確かに魔法を使うのに長けている。しかしエルフの中にも、もちろん技術や能力の差はある。イースタニアにある魔法大学校で学べるエルフと、それ以外。イースタニアの大森林で生まれたエルフと、それ以外。そしてわたしは、「学べなかった」エルフで、「町で生まれた」エルフだ。


 そうは言ったものの、あの娘とは我々も交流があった。あの三歳児は人間で、エルフですらないのに、我々兄妹よりも魔法の造詣があるのではと思わせる節もあった。……また一緒に魔法談義がしたいものである。


「まず神と精霊の違いだが、まあ自我があるか、思考能力があるかだろうか。火、風、水、土それに光と闇の精霊、いわゆる一般の精霊と契約する際、彼らにはほぼ思考能力はない。生まれたての赤ん坊のようなものだ。そして、大量の魔力さえあれば、何だってする。理論上はな」


「……ああ、そう言われてみればそうだねえ」


「そして我々が魔力を捧げて魔法を使うたび、彼らは成長していく。長命な我々エルフだと、精霊王クラスまで育て上げられる者もいる……まあ、長老たちぐらいだが」


「一方、神にはもちろん自我がある。神聖魔法には、魔力をいくら捧げたとしても、神自らの考えに反する魔法はないだろう」


 エドワードやマイアといった、聖職者たちがうなずいた。


「……で、お前はどの神だか精霊だかが怪しいと思ってるんだ?」


 ヒューゴが尋ねてきた……せっかちだな、神と精霊談義をまだ続けたいのだが。


「結論から言うと、精霊だろう。それも一般的な精霊ではなく、感情をつかさどる精霊の可能性がある」


「感情をつかさどるだって? 噂には聞いていたが、ほんとにいるのかい?」


 シーナが首をかしげた。まあ、これは魔法使いでもなければ知らないことだろう。


「人にはいろいろな感情があるわけだが、それは自分の中にそれぞれ『感情の精霊』を宿しているからだ。人が喜んだり、怒ったりなどするときにその喜怒哀楽の精霊は成長する。……まあたまに成長がうまくいかないこともあり、何らかのトラブルが発生することもあるが」


「ええっと~、兄さん。感情をつかさどるのは精霊ではなくて神なんじゃ~?」


 妹のフーリアだ。ふむ、まだまだ妹は勉強が足りないな。


「人が死んだとき、その者が宿す精霊はどうなると思う? どんな精霊も精霊界に還っていくのだ。そしてそこにいるそれぞれの精霊王、これがまあイコール神なのだが、彼らに仕えることになる。もともとは……精霊王たちは物質界にあまり干渉しなかったのだが、どうも『感情の味』を覚えた王もいるらしく、ちょっかいを出してくる王もいる。それにより、昔に比べて狂戦士(バーサーカー)などが生まれやすくなってきているようだ。……っと、ずいぶん脱線してしまったが」


 ……つい、語ってしまった。ヒューゴの視線に負け、話を本筋に戻そうと思う。


「六元素の精霊たちは、育てるのが大変だ。しっかりとした自我が出てくるまで育てようと思ったら、人間の寿命では無理だろう。その一方で、感情の精霊は『何かのきっかけ』で急激に成長する。もともとつかさどるものが『感情』なだけに、自我は育ちやすいのだ。……もっとも自分のつかさどる感情をかなり反映したかたちにはなるが」


「では、我が師の感情の精霊の暴走というわけでしょうか? それとも感情の精霊王が?」


「いや今回は、どちらかといえば、野良の精霊だろう。それが君の師をたぶらかしたというほうが、可能性がある。精霊王の可能性は低い、彼らは自らのつかさどる感情を増幅させるが、アンデッドの召喚など回りくどいことはしないだろうからな」


「野良!? 感情の精霊に野良があるっていうの!?」


「ああ、感情の精霊は、野良がいちばん危険だ。ごくまれに感情の欠落した者がいるだろう? その欠落した感情が野良となる。大体は、生きていく力が無く消えていくものだが、たまに生き残る精霊がいるのだ。それがやっかいだな」


 目の前の娘は、怒りの精霊が優位なようだ。まあ、本人に言えるわけないが……。一般的に見て、人間は感情表現が豊かだ……そして、バランスを崩す者が多い。


「……で、まとめるとどういうことだ?」


 せっかちだな。まだまだ検証すべきことが多いのだが……。


「わたしは今の時点では、野良の感情の精霊が、エドワードの師をたぶらかしたと考えている。マリーを狙う理由だが……恐らくその精霊の元の持ち主が、マリーの関係者なのではないだろうか?」


「というと、クレアさんってことかい!?」


「あのクレアさんに欠落した感情……何かしら?」


 クレアに会ったことのある者たちが考え込む。わたしは残念ながら会ったことがない。


「ただ、これだと説明できないことが多いのだ……。アンデッドを召喚した魔力はどこから来たのかや、なぜ猶予を持たせるなど中途半端なことをするのかなどだ」


「ん、魔力は精霊自身(てめえ)の魔力を使ったんじゃねえのか?」


「精霊は自身の魔力を使っては、自分の思い通りに魔法を使えないのだ。たとえ野良であっても。あくまでも、誰かからの依頼であり、その依頼者の魔力を使わないと魔法が使えないのだ。それは世の(ことわり)となっているからな。感情を高ぶらせるなど、自身の関係することはできるが」


「はああ、感情の精霊ねぇ……。お次はマリーがどこに連れ去られちまったのかと、その精霊を倒す方法を考えなきゃだねぇ……。ああ、アンデッドがまたやって来るかもだね」


 ふむ。相手の源泉となる魔力次第だが、理論上は何だってできることになる。……しかしあれだけの魔力を使ってアンデッドを召喚したなら、魔力が残っていない可能性もある。問題は山積みだが、また他の可能性も考えて、議論していく必要があるな……。

基本無口なフェルナンドですが、自分の好きな魔法のこととなると饒舌です。ただ状況証拠ばかりなので、まだ確信はない模様。次回はマリー視点に戻ります。

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