第66話 作戦会議 (ヒューゴ視点)
今回はヒューゴの視点です。え、誰かって? 冒険者ギルドのマスターです。襲撃の次の日のお昼、場所はマルタの宿屋1階の食堂です。マリーもちょうど起きたぐらいでしょうか?
「で、いったいあの時、何が起こったんだ?」
オレはできる限り優しく尋ねたつもりだ、それこそ猫をかわいがるときのような。だってのに、アンソニーの野郎ときたら、縮み上がっちまってまったく話にならねえ。
「……マリーが、人体の中に魔力の塊があるって言い出したのさ。それこそ魔物でいうところの魔石のことさね」
シーナがぽつりぽつりと話し出した。柄にもなく、神妙な顔をしている。
「まあ、ほんと言い訳にしかならないんだが、ついロンドーのことを思い出しちまってね……。なんというか動揺しちまって、魔力の供給が疎かになったって話さ……。あの子には悪いことをしたよ……」
「ああ、ロンドーのジャックリーンか。あれは……やな事件だったな……」
コートランドの南にあるエングラード。そこの首都ロンドーに、とある錬金術師がいた。ずいぶんと真面目で研究熱心だったそうだが……研究熱心すぎたんだろうな……。
「ああ、確かに『人体の魔石』の話をされると、我々もかなり動揺してしまうな……」
「ええ、あれからしばらく、魔法使いを見る目が厳しくなりましたからね……」
エルフの兄妹がため息交じりに言った。マイアも、真っ青だった顔がさらに青くなってやがる。
「オレはあの時冒険者で、ジャックリーンの研究施設に乗り込んだ一人だったんだが……」
「ストップ! ヒューゴ、やめとくれよ!」
「あ、ああ、すまない」
周りの圧に負けて、オレは言うのをやめた。もっとも、オレもあまり思い出したくはなかったんだが。人の体から魔石を取り出そうとして、何人ものやつが犠牲になった。体をバラバラにされて。中には、親や旦那、自分の産んだ子どもさえいたっていうだから、まったくイカレちまっている。そこまでしておきながら、魔石はなかったんだからなぁ……。それに、「人体の魔石」という話だけが独り歩きしちまって……。結果、治安が乱れに乱れた。
人間以外ではエルフも相当数犠牲になり、ついにはイースタニアのエルフ王が、魔石を持つのは高位の魔物だけであるという声明を発表した。人工魔石が少しずつ普及しだし、天然物は貴重品のままだ。
「そうですか。あの子がそんなことを……」
マイアが肩を落とす。
「い、いやでも! 動揺して結界を維持できなかったのは、ぼくのせいだ!」
「いいえ、わたしたちももっと効率の良い結界をつくれていれば……」
皆が次々に問題点を口にする。確かに反省は必要だが、それより大切なのは。
「ちびっ子がさらわれて確かに悲しいわよ! でも、マリーがどこに連れて行かれたかも分からないし、アンデッドもいつまた来るか分からないわ! せっかくみんなが起き出してきたんだもの、実りのある会議をするべきだわ!」
と、これはアイリーンだ。確かにそのとおりだな。
アンデッドは、結局朝日が昇るまで延々と湧き続けた。それこそ「湧いた」という感じだな。アンデッドが新たに湧かなくなった後、今いる奴らを一掃した。そして、みんな泥のように眠ったって訳だな。で、今は昼過ぎだ。何人かが集まって、作戦会議を開いている。
「南門の周りを見回ってきたんだが、激しい戦いだったようだねえ。地面に跡があったよ」
見ると、マルタとジェイムズだ。元気な奴らは、見回りに行ってたようだな。
「ああ、地面が焦げてたな。ただ、骸骨の残骸はなかったぜ?」
ジェイムズの言葉に、オレはブチ切れちまった。
「何だと!? オレたちがどんだけあの骨どもを倒したと思ってるんだ!!」
思わず出た大声に、その場の全員がなぜか少し浮いた。それに窓ガラスが何枚か割れちまった。マルタのやつも大盛りとかやる前に、もっといいガラスを入れるべきだな!
「わたしも見てきましたが、骸骨らしきものは残っていませんでした。それこそ、魔法を使った形跡があったくらいですね……」
昨日その場で一緒に戦ったエドワードもやって来てそう言った。顔は真っ青だ。
「ええっ!? 骨の一本もですかぁ?」
いつものんびりした口調のフーリアが、珍しく大きな声を出した。
「アンデッドではなく魔導人形の線も考えたが……それでも元となった材料は残るしな……」
「ええ、周りの土の量も、特に増えた様子はありませんでした」
思案顔のフェルナンドに、エドワードが報告する。ん、土?
「エドワードよ、土ってのは?」
「ああ、あれだけの数の魔導人形を作るなら、調達しやすい土がいちばん可能性が高いかと」
「ふむ、魔導人形ではないという可能性は? そんなんカビの生えたシロモノだろ? 本物のアンデッドかもしれんぞ?」
そう言いつつも、あれだけの数のアンデッドどもをどうやって集めたのか疑問ではあるんだが。それこそ、コートランドの住人よりも多いくらいだからな。
「魔導人形でもアンデッドでも、あれだけの数を使役するとなると、魔力がいくらあっても足りないぞ。一流の魔法使いが何十人も必要だ。それなのに……」
「そう、それだけの手間をかけておきながら、目的が分からないんですよね~。まさか、マリーちゃんを誘拐するだけのために、あんな大がかりなことしないでしょうし」
「思考能力があるかも疑問でしたね。まるで何かに向かって進んでいるだけのような」
マリー。あの不思議なちっこい嬢ちゃん。身体能力はそれこそ年相応なんだが、頭の作りがオカシイ……っていうと語弊があるな。とにかく普通のやつでは考えつかないような、ありえねえことも平気でやってのける。とは言ったものの、幼女一人をさらうのに、あんな戦力をそろえる必要は無いし、大体……。
「一連の黒幕は……やはり我が師なのでしょうか……」
エドワードが、沈うつな様子で言った。
「え〜、でもそもそもこの事件ってオカシイですよね〜。仮にマリーちゃんの誘拐が目的なら、誰にもばれずにもっと上手くできたはずでは〜?」
「ああ、エドワードへの匂わせから襲撃まで、しばらく猶予があったよな?」
「そういえば……。まさか、準備期間を用意してくれた?」
その通りだ。変な話だが、マイアの言うように「準備期間を用意した」というのがしっくりくるんだよな……。
「ああ、君の師が黒幕という話なのだが」
フェルナンドが、少し青ざめた様子で言った。まぁ、こいつはもともと顔色が悪い気もするんだがな。
「この事件には、精霊や……ひょっとすると神が関わっているのかもしれん」
……なんなんだ、一体? いきなり突拍子もないことを言い始めたな。
会話多めは難しいですね……。誰が話したのか、分かりづらくてすみません。