第65話 わたしの誤算 (エヴィーナ視点)
今回は謎の女、エヴィーナ視点。マリーは、彼女が人間ではないと疑っているようですが……? 今回は短めです。
「さあ、エヴィーナ。長椅子に横になるといい。昨日は大仕事をしたから疲れが出たのだろう」
アーネストはそう言うと、周りに並ぶ長椅子を動かして、わたしのために簡易ベッドをつくってくれた。
「ありがとう、アーネスト」
わたしは遠慮無く横になる。アーネストは眠る私に気を遣って、部屋から出て行った。そういうところは紳士的なのよね。
「はあ、他のところでもそんな風に振る舞ってくれたらいいのだけれど」
憎いあの女、グレイツィアを殺したくてたまらなかった。でも私ひとりでは、あの女を害することができない。それで協力者を募ったわけだけれど……。
「まさか、あの女が老衰で死んでしまうなんて……!」
「あの方」のお気に入りのあの女。寿命はまだあったはずだ、若返りの禁術さえ使わなければ。
「あの転生者に、お婆さんと呼ばれようがお母さんと呼ばれようがどうだっていいじゃない!」
はあ、まったく。人間の考えることは分からない。寿命を削ってまでやることかしら?
しかも、若返ったあの顔を久しぶりに見たからなのか、このわたしの顔にまで影響が出てきているわ! 忌々しいけれど、自分の顔を潰すわけにもいかないし……。
むしゃくしゃした気分のまま、協力者であるアーネストの負の感情をあおって、グレイツィアへの憎悪をたぎらせてあげた。もともと彼はソーレ教の神官だし、少しそこをつついてあげるだけの簡単なお仕事だ。こういうことはわたし得意ですものね。
「……でもまさか、あれだけの数をだす羽目になるとは思わなかったのだけど……」
グレイツィア亡き後、こうなったら彼女の娘で憂さ晴らしをしようと思ったのだけれど。アーネストの力では、あのエルフ王にはまったく歯が立たないでしょうしね。
あの転生者を害するために、彼の要望に従ってたくさんの配下を出してあげた。いや、おかしいでしょう、という数を。いくらグレイツィアの魔力を媒介にしたとしても、あれだけの数をとなると、一体あたりはどうしても弱くなる。数をしぼれば、古の竜でさえ使役できたというのに。
「ほんと、人間って何を考えているか分からないわ……」
取るに足りない存在である人間たちに振り回されるのは癪だけれど、「あの方」の寵愛を受けるためにはしょうがないわね。そしていずれわたしも、あの高みに上がりたいものだわ。
見た目とは裏腹に、考えが浅く幼稚なエヴィーナ。なぜ彼女はグレイツィアを憎んでいるのでしょうか? そして彼女自身は何者なのか? また、「あの方」とはいったい?