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第56話 マリー、自業自得の目にあう。

 フェルナンドさんってば何言ってるんだろうと思い、走りながら天井を見上げると、幽霊たちはわたしの動きに合わせて右に左に移動しているのが分かった……分かりたくなかったけどね!


(わたしが狙われる理由って……わたしってば、ただの三歳児だよ!?)


(そうだな。もっとも、このわたしを狙っているという可能性もあるが、わたしはそこら辺の魔道具屋に転がっているような魔道具に完璧に擬態しておるため、その真の価値が分かっている者などおらぬだろう)


 さすが、フェルナンドさん。いつも自信満々である。


(マリーよ、お前の両親は何者だ? お前はただの三歳児には見えぬ。グレイツィアに育てられたとはいえ、それだけでは説明できないことが多すぎる)


 唐突な質問にとまどうわたし。……って、それより、こんだけフェルナンドさんとおしゃべりしているけれど、アンソニーさんはまだ保つのかしら?


(今世の両親は分からないわ……前世の両親ならいくらでも説明できるんだけど)


(前世? お前は輪廻転生をしたということか!!?)


 いつも冷静沈着なフェルナンドさんが大声を出した。心の中の大声も頭に響くものね。


(うんそうだよ。わたしは元々地球の日本というところで、三十九歳まで生きていたの。えーっと何だったかな、神さまっぽい人が言うには、わたしのいたのが『ワールド15』で、ここは『ワールド9』らしいよ)


(神さま……、『ワールド9』……それで、お前はわたしでも知らぬような単語を口にするのだな)


 フェルナンドさんは考え込んでしまった。沈黙したフェルナンドさんのことは、ひとまず置いとくことにして、わたしはセントラル・オーブの前に立った。


 この結界は四隅のキューブ状の魔道具と、中央のオーブで構成されているんだけど、操作自体はこの中央の球体でするみたい。素人目には、バレーボールくらいの大きさの水晶玉に見える。水晶の内部には文字が浮かんでいるけれど、あれってどうやって書いたのかしら?


 そのセントラル・オーブに手をかざし、魔力を送り続けているアンソニーさんと目が合った。知り合ったのはギルマス主催の特訓からで、ほんの最近なんだけど、なぜか気に入られている。いわく、自分では考えつかないような発想を持っているわたしのことが珍しいんだとか……って、ほめられてるのかなぁ?


「ふふふ……まだもう少しいけるよ……大丈夫。もうすぐエドワードさんがやって来るからね、マリーちゃん。安心するんだ……」


 見る感じ、あまり大丈夫そうではない。体はよろよろしているし、一生懸命に目を見開こうとしているけど、ときおりガクンガクンと頭が落ちる。そのたびにまた頭を上げて、魔力を送り込むのを再開する。魔力が無くなってくると眠気で気を失っちゃうからね、まるで徹夜でゲームをしている人のようだわぁ。


「マリーちゃん、今はこんなに辛いけど、ぼくはすごく嬉しいんだよ……」


 アンソニーさんが途切れ途切れに言葉を紡ぐ。ええっと、何だか死亡フラグが立ちそうで不吉なので、やめて欲しいところではある。


「ぼくはね、バネスっていう村で育ったんだ。ほんとに何もないところでね……生活魔法ですらおぼつかないような人が多かったんだ……」


 アンソニーさんが語り出してから、シーナさんもオーブに魔力供給をし始めた。限界を超えそうなことを察したんだろうな。残りの幽霊(ゴースト)が少なくなったっていうのもあるんだろうけど。


「そんな中でぼくは魔法が得意だったんだ……魔力量もずば抜けていたしね。でも村の中じゃ勉強できることは限られていて……カレンディアに出てきて、ギルマスや他の魔法使いたちと知り合って、たくさん学ぶことができた……これって本当に幸せなことなんだよ……。こうやって実践もできたしね、ははは……」


「エルフでも無いかぎり、魔法使いっていうのは貴重だからねぇ。あたしも仕事でいくらかは魔力を使うんだが、あんまり長くは保たないよ」


 シーナさんが魔力を供給しだしたのを見て、テオが代わりにマジック・ポーション係になった。テオ自身も供給チームに参加したいようだけど、わたしと同じくらいしか魔力が無いからね。早々にあきらめたようだった。オーブもそんなに大きくないしね。


 供給チームは無言で魔力供給をしている。いよいよ余裕がないのかしら? そんな中、わたしは体の小ささを活かしてオーブの前にすべり込み、オーブに手を伸ばしてみた。見よう見まねで魔力を供給……って、無理無理、魔力を送り込むことさえできないわ。


(何をやっているのだ、マリー? お前には無理だと言っただろう!)


 黙っていたフェルナンドさんが声を荒らげた。えーっと、心配してくれたのかな?


(もうすぐエドワードさんたちが来るでしょ? それまで短時間だから行けるかと思ったのよ……魔力供給ができなかったのは、誤算だったけど……)


(お前たちは、無駄に魔力を垂れ流しているのだ。その空気中に霧散している魔力も、オーブに送り込んだらいいのではないか?)


 いや、そんなの一朝一夕にできるわけないでしょ!? それにわたしはフェルナンドさんやクリスティアーノ高司祭とかと違って、魔力を見ることができないのだ。


(……そんなに言うなら、コツを教えてよ)


 仏頂面になるわたし。その顔に気がついたテオがびっくりしながら、わたしにもポーションのカップを渡してくれた。ごめん、テオ。テオに怒ってるわけじゃないんだ。


(ふむ。まず体の中にある魔力の塊を感じてみよ。それを手のひらに集めて……)


 何でも、魔力を生成し貯蔵する臓器というか核みたいなのがあって、魔法を使うときはそこから魔力を取り出すらしいわ。で、理論上は体のどこからでも魔力を放出できるらしいけど、大多数の人が手に集めるみたいね。


(自分の魔力の流れをしっかりと意識しろ。魔道具に流し込む魔力の主導権を握れ。コントロールするのだ)


 普段わたしが魔法を使うときは、精霊やマリエラさまのお力を借りて行っている。そのときは、先方が勝手に魔力を持ってってくれるから良かったんだけどね。自ら魔力を使うのは、今回が初めてだ。


(うーんと、ええっと……あれ? 魔力入れられたっぽい?)


(ふむ、わずかばかりだが魔力を流し込めたようだな。しかし、お前は魔力を温存しておかねばならない。そうしないと私の活動が……)


 ああ、別にわたしのこと心配しているわけじゃないみたい。わたしは思わず苦笑した。


「マリーちゃん、ありがとう。君も手伝ってくれて嬉しいよ……」


「わたしがどれくらい送り込めているか見える?」


「いや……魔力を見るなんて、ぼくにはできないなぁ……」


「魔力が見えるなんて、それこそ一流の証みたいなものだからねぇ」


 ふむ、そんなものなのか。


「じゃあさ、体の中にある魔力の塊のことは分かる? そこから魔力を取り出して使っているらしいけど」


 目の前の二人が驚愕の顔をした。そして口々に言う。


「魔力の塊……ってことは、魔物がたまに持つ『魔石』ってことかい?」


「いや、人には『魔石』は無いはずだよ! 現に、ロンドーのジャックリーンが……」


 ……何ともデリケートな話題だったのかしら? ものすごくビミョーな雰囲気になり、心底困ったような感じで二人が話し始めた。よって、魔力供給がおろそかになったのは、ある意味しょうがないのかもね。そして、二人に話を振ったわたしに幽霊(ゴースト)が襲いかかってくるのも!


「あ、な、結界が!!?」


 魔力の供給の途絶えた結界はその力を弱め、その隙を狙った幽霊(ゴースト)が一匹急降下してきた。そしてそのまま、わたしに覆いかぶさった。


 ぼろ布のような幽霊(ゴースト)に包まれて薄れゆく意識の中、わたしの名前を呼ぶエミリアの声がしたような気がした。

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