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第41話 マリー、エミリアに嫉妬する。 下

「……これが『炎の(ジュディーチオ)裁きよ』(・ディ・フォコ)よ。それからこれが……」


「わぁ、すごいね!」


 わたしの自動相づちシステムが作動していた。前世の会社生活のたまものね! まぁ、話自体はちゃんと聞いてるんだけどね。だってちゃんと聞いてないと問題になるもの。それにしても、ソーレ教ってマール教に比べて攻撃魔法が多いわねえ。マール教は回復魔法や支援魔法が多いから、宗教ごとの特色があって興味深いわ。


 エミリアの話を聞きながら、わたしは他のことを考えていた。宿屋ではあれから、ギルドマスターがエドワード神官と一緒にご飯を食べに来たりとか、フーリアさんが魔法使いっぽい人とやって来たりとか、いつものメンバー以外の人も多く見かけた。で、マイア司祭はそのまま残り、わたしたち子どもは夜が遅いので先に帰った。知り合いのお店が繁盛しているとうれしいわね。


「……『神託』(オラーコロ)という神聖魔法があるのだけれど、これは自分からは使えないの。サンタンさまが神託を授けてくださるのよ。わたくしもいつか受けたいわ」


「エミリア姉ちゃんならできるよ!」


 ……何だろう。さっきからおかしな気分だ。イライラするというか、ソワソワするというか。変な焦燥感みたいなものに駆られている感じだ。ああ、これは経験があるぞ。あれはわたしがアラサーのころ、結こ……いや、何でもない。ただ、こんな状況下でも、ニコニコ笑顔で相づちをうつのは忘れない。


 うれしそうに話すエミリアを見ながら、わたしは会社の先輩のことを思い出していた。わたしより一回りは年上だったんだけど、いつもご主人やお子さんのことを自慢ばかりしていた。自分の功績でもないのに、何でこんなに誇らしげなんだろうってモヤモヤしてたわ。でもそれと同時に不安も感じていた。わたしは自分の功績以外も、ちゃんと喜べる人間なんだろうかって。まぁ、杞憂だったんだけどね。大好きな友だちが玉の輿に乗ったときは、心から喜べたしね。じゃあ、このエミリアのことは? わたしはなんで今、素直に喜べていないんだろう?


「? マリー、どうしたの? 何だか顔色が悪くってよ?」


「え、ああ。大丈夫だよ。何でもない……」


「うそおっしゃい。ほら、こんなに汗が……」


 そう言うと、エミリアはわたしの汗をぬぐってくれた。なんと、わたしかなり汗かいてたみたい。気がつかなかったわ……。


「……ごめんなさいね、マリー。あなたにしかこんなこと言えないのよ……」


「え? どうして?」


「ほら、マイア司祭もシンシア姉様も聖職者でしょう? 宗派が違うとはいえ、やはり……その、面白くないかなって。わたくしが、その……」


 エミリアが言いよどんでいる。でも、彼女の言いたいことは伝わってきた。そして、それはその通りな気がする。現にわたしも同じように感じているのだから。


「姉ちゃんはきっと……『恩寵持ち』なんだろうね。ほら、シーナさんが前言ってたでしょ? たぶんわたしのお母さんもだったんだけど……きっと成長速度が他の人と全然違うんじゃないかなぁ?」


 「恩寵持ち」、一言で言うならチートキャラである。明らかに基礎能力や成長速度が違う人たち。わたしの周りではこれで二人目だけど、実はけっこういたりするのかしらね?


「だから同じ『恩寵持ち』のあなたにしか相談できないのよ」


「え!!? わたしは『恩寵持ち』じゃないよ!!??」


 いきなりのエミリアの発言に、とまどうわたし。でも、エミリアもまた、わたしの言葉に驚いたようだった。


「え!!?? マリーもどう考えても『恩寵持ち』でしょう?? あなたの言動は幼い子どもだとは思えないもの。わたくしの理解を越えた発想をしてくるし」


「そ、それは……」


 それはたぶん、前世の記憶がそうさせるのよと言いたかったけど、話がさらにややこしくなるので口をつぐむ。顔が熱いのも、心が乱れるのもまだ治っていないのに……。


「そうだ、あなた汗をたくさんかいたから、お水を飲んだ方がいいわ。ちょっとお待ちになって。わたくしが汲んできて差し上げるわ」


 そう言うと、エミリアは部屋を出て行った。優しいエミリア。最初はぶっきらぼうかと思っていたけど、ただ単に極度の人見知りだったようね。まぁ、無理もないか。ああいう育てられ方をされるとね……。


 エミリアが出て行ったあとの部屋の中で、わたしの気持ちは少し落ち着いていた。そして、冷静になった頭の中に、ある疑問がわいてきた。いや、わたしエミリアに嫉妬しすぎじゃない?? 前世も含めたわたしの人生の中で、自分より優れた人なんて掃いて捨てるほどいたじゃない。そんな人たちにいちいち嫉妬なんかしていたら、時間がいくらあっても足りないわよ。その中にはもちろん自分よりずいぶんと若い子もたくさんいたし、何なら自分より遙かに年上の方でも、晩年になって才能を開花させる方もいたわ。それなのに……何でいまさらエミリアに対して、こんなに嫉妬したのかしら?


「マリー、お待たせ。はいお水」


 そうこうしているうちに、エミリアが帰ってきた。ぐっとふくれ上がる変な感情。でも、今度のやつは()()()()()()わ。そしてわたしは、本心からエミリアに対してお礼が言えたのだった。



マリーの身に起こる変な現象。一体何なんでしょうね? そして、マリーは「恩寵持ち」ではありません。彼女はただ前世の記憶がある一般人です……まぁ前世の記憶がある時点で、一般人じゃない気もしますが……。

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