第40話 マリー、エミリアに嫉妬する。 上
「ねえ、マリー見てくださらない? わたくしいくつか神聖魔法ができるようになったのよ」
エミリアがわたしの部屋に訪ねてきた。時間は夜、もう寝ようといった時間だ。
「え、『聖なる水よ』の他に?」
「ええ! マリーが見せてくださった聖典に載っていましたの。まずはね……」
……。ちょっと長くなりそうだわ。わたしは眠いのに……。嬉しそうに話すエミリアを見ながら、わたしは夕食の時のことを思い出していた。
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「エミリアはすげえなぁ! あんなに神聖魔法使えるなんて!」
「ほんとよね。わたしももっと頑張らなくっちゃ!」
「なんだいなんだい? 今日はいいことがあったのかい?」
興奮してはしゃぐ子どもたち。それを見てマルタさんが料理をサービスしてくれた。息子さんの料理はやっぱりおいしい。いつものようにマルタさんの宿屋である。
「エミリアには、ソーレ教徒としての才能があるようですね」
マイア司祭はそう言うと、エールのジョッキをおかわりした。……ええっと、最近よくお酒飲んでるよね? キャラ変わった?
「おやおや、マイア。また酒かい?」
宿屋でご飯を食べていると、だいたいいつものメンバーに会う。薬師のシーナさんもやって来た。手にはもちろんジョッキを持っている。私の知り合いって、飲んべえばかりね! わたしも前世は人のこと言えなかったんだけど。
「ああ、シーナさん……今日は二杯でやめておきますよ」
「そうかい。……そういえば、フーリアがサムに酒だるをいくつも頼んだらしいじゃないか?」
「フーリアがですか?」
マイア司祭が怪訝そうな顔をする。わたしは、ちょっと前にフーリアさんと話した内容を思い出して言った。
「酒だる? ああ、フーリアさんは酒だるにポーションを保管するんだよ」
「「酒だるにポーション!?」」
シーナさんとマイア司祭の声がハモった。わたしはちょっとたじろぎながら、
「う、うん。ポーションのびんが高いって言ってたから、なら酒だるに在庫を入れたらいいよって……」
「嬢ちゃん、あんた突拍子もないことを思いつくね……」
「ははは。わしは注文が入ってほくほくだがね」
ドワーフの職人のサムさんも、近くのテーブルにいたらしいわ。
「たるにコックをつけろとか、いろいろアドバイスしてくれての。勉強になったわい」
「コックってなんだい?」
「ああ、たるからポーションを出すのに便利な代物での。レバーを引くと、たるに付けた金属の筒から中身が出てくるんじゃ」
「へぇえ! ってことは、たるのふたを開けて汲み出さなくてもいいってことかい?」
マルタさんが、シーナさんとサムさんにエールのおかわりを持ってきた。こんだけエールが出るなら、マルタさんも欲しいだろうなぁ。そして大人たちは酒だるについて熱く語り出した。わたしもそっち側に参加したかったけど、今三歳だしね……。おとなしく子どもチームの話に戻った。
子どもたちはまだ、今日のエミリアの活躍について話していた。熱く語るテオに、にこにこと話すシンシア。当のエミリア本人は少し顔を赤らめて、でもまんざらでもなさそうだ。
「このままだったら、エミリアがいちばん先に神官になれるんじゃないかしら?」
「おお、神官とかすげーなぁ! 神官ってことは、エドワードの兄ちゃんと一緒だろ? 神殿の連中を見返してやろうぜ!!」
「姉様も兄様も……ありがとうございます。まさかわたくしが聖典を手にすることができて、神聖魔法を使えるようになるなんて……!!」
「エミリア姉ちゃんすごいよ! 手から水の玉が飛んでいったもんね!」
わたしも一緒になって、エミリアのことを褒めた。
「マリーも、ありがとう。あなたのおかげよ。あなたのおかげで聖典が読めたのですもの」
「そうよ、マリー。マール教の聖典もよ。あんなに分かりやすい聖典は読んだことがなかったもの。ありがとう!」
「良かったな、マリー!」
「えへへへへ……」
わたしも褒められた。でも何だろう、この釈然としない気持ちは。ちょっと疲れがたまってるのかしらね?