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第37話 マリー、ソーレ教の地雷を踏む。

「……ってことがあったんだよー」


「そうなんですね~。花びらむしりお疲れ様です~」


 シーナさんと薬草摘みに行った四日後のことである。わたしはフーリアさんのところで本の書き写しをしていた。帰ってから三日間、延々と花びらむしりや薬草の処理をしたわぁ……まぁ、身から出たさびなんだけどね。


 私が採った量にみんなあきれていたけど、手分けして全部持って帰ることができたわ。中でもエドワード神官はかなり無理して持ってくれたんじゃないかな? 冒険者ギルドで最初に会ったときは、頼りない感じだって思ってたけど。仲良くなれたのは収穫かも。お母さんについても新たな情報が手に入ったしね。


◆◆◆◆◆


「ねえねえ、エドワード神官。ローマリアってどんなところなの? 行ったことある?」


「ああ、ローマリアは全国民がソーレ教徒の国でね、真っ白な建物が建ち並ぶさまは壮観だよ。それにね……」


 それからエドワード神官はローマリアの街並みについて延々と語り出した。……うん、すごく歴史のある素敵なところだってことは分かったわ。


「わたしのお母さんはローマリアの出身なんだよ」


「そうなんだ、お母さんのお名前は?」


「マリーの母ちゃんの名前はクレアだぜ」


 テオが、ご丁寧にお母さん(グレイツィア)の偽名を教えた。まぁね、そうなるよね……。


「クレアさんか。うーん、ちょっと分からないなぁ」


 だよね、そんな人いないもん。たぶん。


「お母さんの知り合いにグレイツィアさんって人がいるんだけど……」


 試しにグレイツィアの名前を出してみた……まぁすぐ後悔したんだけどね。それまでにこやかだったエドワード神官の表情が一気にこわばったのだ。


「グレイツィアか……。その人はローマリアの人?」


「うーん。よく分からない、かも……お母さんがちょっと名前を出しただけだし……」


 しどろもどろに答えるわたし。やば、地雷踏んじゃったかも? っていうか、ソーレ教地雷多過ぎじゃない?


「ローマリアでグレイツィアと言えば、『鋼鉄の処女(アイアン・メイデン)』グレイツィアかな? もう百年近く前の人になるんだけどね」


 え、何そのブッソウな名前。百年前だったら、お母さんは関係ないのかな? どうなんだろう?


「彼女は神聖騎士団の団長だった人だよ。そして『鋼鉄の処女(アイアン・メイデン)

と呼ばれていた……。魔法剣『切り裂くもの(タリアンテ)』の使い手で、歴代最強の団長だったんだ、もちろん今も含めてね」


「そっかぁ。そんなに強い人がいたんだね。でもずいぶん昔の人なんだね」


「うん、だからマリーちゃんのお母さんの知ってる人ではないかもね……グレイツィアは処刑されたし」


 ……え? またまた恐ろしげな話が出てきたわね。


「え? 騎士団の団長だったんだろ? 何で処刑されたんだ?」


「……うーん、ごめんね。処刑されたということしか分かってないんだ。もう百年も前のことだしね」


「文献も残ってないのかい?」


「ああ、文献は残ってないのですよ。何でも資料庫が火事になったとかで。それに、当時のいきさつを知る人ももういないですしね。かん口令もしかれたそうですし」


 そう言うと、エドワード神官はわたしの目を見ながら続けて言った。


「だからね、マリーちゃん……ソーレ教徒にグレイツィアの名前は禁句なんだ。子どもにその名前をつけることも禁じられているしね。わたし以外に話すことはやめてくれないかな、トラブルの原因になるから」


「うん、分かった。ありがとう、エドワード神官」


◆◆◆◆◆


「あれ、どうしたんですか~? 何か悩みでもあるんですか~?」


「ううん、何もないよ。ちょっと疲れただけ」


 ふぅ、エドワード神官との会話を思い出しちゃったわ。


「それにしても、話しながらでも手が止まらないなんて、マリーさんはすごいですね~。きっと書写の神さまに愛されているに違いないです~」


 きらきらした目で、わたしのことをほめてくれるフーリアさん。美人にきらきらお目々でみつめられると照れちゃうわね。


「書写の神さま?」


「はい、世の中のすべてのものには神さまが宿っているんですよ~。実際に名前が知られているのは、三大神だけなんですけどね~」


 外国、というか異世界で、やおよろずの神さまの話を聞けるとは思わなかったわ。フーリアさんによると、エルフ特有ではなくて一般的な考え方だそうだ。書写という行為自体にもそれをつかさどる神さまがいるし、ペンや紙にも神さまがいるんだとか。へぇ、何だか面白いわね。


「人の感情にも神さまがいるんですよ~。激しく感情が動いたときなんかは、注意が必要ですね~」


 感情をつかさどる神さまは、たとえば怒りの神さまは「怒り」という感情自体を自分の力にするらしく、激しい怒りに対してさらに燃え上がるよう神力(あぶら)を注いでくるんだとか。感情は激しければ激しいほど、上質な「力」となるらしいから、神さまたちも必死ね。もっとも、ちょっとムカッとしたくらいの小さな怒りに対しては、何もしてこないらしいけど。で、怒りに飲み込まれた人なんかが、狂戦士(バーサーカー)になるらしいわ。……狂戦士(バーサーカー)怖いわね。遭いたくないわぁ。


 わたしもお母さんが死んじゃったとき、悲しみの神さまに飲み込まれそうになってたらしいのよ。それを聞くと、無事に立ち直れて良かったわね、わたし。まぁ、感情の神さまたちは、「感情の上質さ」にこだわるらしいから、むやみやたらには神力を使わないらしいけどね。ちょっと安心したわ。


 それから、もう何ページか書き写して、今日のお仕事は終わりになった。

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