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第36話 マリー、エドワード神官の告白を聞く。

 考え事をしている間に、そうとう歩いていたようだ。もうお昼の時間で、一面に花が咲いているところでお昼をとることになった。ご飯のあと採取開始だ。


「ここをずーっと南に行くと、ラースゴウの町があるよ。コートランド最大の町さね」


 みんなにサンドイッチを配りながらシーナさんが言った。具は全部葉っぱっぽいけど、何の野菜かしら? もしかして薬草? でも意外においしいわね、サンドイッチって言ったら通じなかったけど!


 この国の首都はエディーナだけど、人口はラースゴウのほうが多いみたい。エディーナには王城とマール教の大教会とソーレ教の大神殿、ラースゴウにはいくつかの学校があるとか。


「ラースゴウかあ! いつか行ってみたいぜ」


「カレンディアより人がずーっと多いんでしょう? どんな町かしらね」


 まだ見ぬ町に思いをはせるテオとシンシア。みんなサンドイッチでお腹いっぱいだ。しかし、エドワード神官は何やら浮かない顔だ。


「ねぇねぇ、エドワード神官。体調でも悪いの?」


「! あ、いや……。何でも無いよ。心配してくれてありがとう、マリーちゃん」


 ……うわぁ、ぜったい何かあるでしょ、これ。


「……ラースゴウの神殿の神官が替わったんだってね。何でも病気だとか。あれからあんた、物思いにふけることが多いね。どうしたんだい?」


 シーナさんの問いかけに、エドワード神官は苦笑しながら言った。


「ははは。……ラースゴウの神官様は私の師匠だったのですよ。ゆくゆくはエディーナで大神官になるだろうお方でした。ものすごく真面目で潔癖な方で……」


 途切れ途切れに話すエドワード神官。そしてわたしたち三人の方を向くと、途切れながらではあったが、ゆっくり静かに話し出した。シンシアがお茶をついであげる。


「もとはと言えば、あの……エミリアちゃんに関わったからだと思う。あの方は、彼女に対する扱いをなげいていたからね……。それで……大神官様に進言したんだ、態度を改めるようにと。それから……何があったかは分からない、ただ病気を理由に引退されたんだ。まだ若くて四十過ぎくらいだったのに……」


 そしてしばしの沈黙。子どもたちも、シーナさんも一言も発しない。驚いた顔、悲しげな顔、そして無表情で、神官のお話を聞いていた。無表情なのはシーナさんとわたしだ。わたしは自分のお茶をくいっと飲み干して言った。


「エミリア姉ちゃんのお父さんって誰なの? コートランドのえらい人っていうの、うそだよね?」


 エミリアのお母さんはソーレ教の大神官の娘であり、コートランドの聖女と呼ばれていた人だ。この国はソーレ教徒が多いし、たとえ「コートランドのえらい人」が王族だったとしても、聖女に対して子どもをつくっておいて捨てたりなんかしたら、大変なことになるだろう。そもそも大神官(おとうさん)が黙っていないはずだ。


「それは……ごめん、本当に分からないんだ。彼女は決して言わなかったから……」


 それきりわたしもエドワード神官も黙ってしまった。シーナさんがパンッと手を叩いて言った。


「はいはい、この話はそこまでだ。あんたたち、今日の目的を忘れてないかい? 薬草をかごいっぱい集めるんだよ!」


 そこからは、無言で薬草を集め出した。わたしが集めるのは、エルダーの花とカレンデイラだ。エルダーの花は小さくてかわいらしい白い花で、いい匂いがする。カレンデイラは華やかなオレンジの花だ。ああ、ここが採取場所だったのね。薬草採りが初めてのわたしは分かりやすい花の担当で、ほかの人たちは何かの草を思い思いの場所で抜き出した。


 ぷちりぷちりと花を採取する。あとで花びらをバラバラにするそうだ。ぷちぷちやりながら、わたしはさっきの話について考えていた。


 エミリアに関しては、何らかの大人の事情があるらしい。エドワード神官も迷いがあるみたいだけど、ソーレ教も組織である以上、大神官(トップ)の言うことは絶対だ。大神官が白と言えば、黒いカラスも白くなるのだ。でもねー。あー、もやもやするー!


「マリー、順調?」


 シンシアが途中で見に来てくれた。つるで編んだ背負いカゴに、草が半分くらい入っている。


「うん、いっぱい花採れたよ」


 わたしは自分のカゴを見せた。わたしのカゴはシンシアのより、ふたまわりくらい小さい。大人たちのはけっこう大きなカゴだ。長身のエドワード神官で、ひと抱えくらいあるんじゃないかな?


「さっきのエドワード神官の話なんだけど……」


 シンシアが少し声を落として言った。


「大神官様もひどいわよね。もぅ、そんな人は法王様に怒ってもらえばいいんだわ! 法王様って、ソーレ教でいちばんえらい方なんでしょう?」


 シンシアも怒っているようだ。まぁ、そうだよね。わたしに話してすっきりしたのか、シンシアはまた薬草を採りに行った。一人のノルマは、カゴいっぱいだ。


「そっか、ソーレ教のトップは法王か……」


 ちなみにマール教のトップは、最高司祭様である。今はたしか、クレア最高司祭様だったかな? お母さんの偽名と、何か関係があるのかしらね?


 そんなことに考えが移りながら、わたしはさらに花を集めていった。ぷちぷち花を採るのは、けっこう面白い。あぁ、わたしこんな地道な単純作業好きなのよねー。


 無心になって花を集めていると、妙にシンシアの言葉が気になってきた。おとなげない大神官は、法王様に怒ってもらえばいい。コートランドの大神官がどれくらいの地位か分からない。でも、もしエミリアの父親が()()()()()()だった場合はどうなるだろう? そうなると、泣き寝入りになるのだろうか? だから余計にエミリアのことが憎くてたまらないのかも。あー、考えても情報が少なすぎて真相が分からないわぁ。もっとも、フェルナンドさんのおかげで、エミリアも聖典が読めるようになったから、真相なんて分からなくていいのかもだけどね。


 うんうんうなりながら花を集めるわたし。いきなり肩に手を置かれてびっくりして振り返る。


「なあんだ、シーナさんかぁ。何か用なの?」


「……マリー、これ全部集めたのかい?」


 見ると、わたしの周りには摘まれた花が散らばっていた。カゴにはこんもりと積まれ、あふれた分がカゴの周りに散乱しているのだ。もちろん、花畑はあとかたもない。……ち、ちょっとやらかした感するわぁ……。

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