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第35話 マリー、町の外へ出かける。

 魔力切れで寝落ちした次の日の朝、わたしはベッドの中で考え事をしていた。神聖魔法の詠唱時のポーズの秘密や、頭につけてるサークレットの秘密、昨日はいろいろな秘密が明らかになった日だ。


「この秘密、みんなに伝えていいのかしら?」


 まぁポーズの件は、試しているうちに発見したとかでもいいだろう。問題はサークレットだ。こんなゲームで言えば伝説級のアイテムを何で持っているのかと聞かれれば、非常に困る。かと言って、せっかくのエミリアがソーレ教の聖典が読めるチャンスを、ふいにするのはもったいない。


「ええい、ままよ!」


◆◆◆◆◆


「……で、マイアとエミリアは今日は来ないのかい?」


 シーナさんがため息をつきつつ言った。


 ある早朝のことである。「ままよ!」とかかっこつけてみたけど、実際にみんなに伝えたのは、あれから数日経った日だった。……優柔不断とか意気地無しとか言わないで……反省してるからさ……。で、朝ご飯のときにみんなに言ったのはいいんだけど、ちょうどその日はシーナさんと約束があったみたい。でも読みたい本を目の前にしたマイア司祭とエミリアは夢中になって、てこでも動かなくなったのだ。


「え、う、うん。うんとね……」


「二人とも本を読んでるぜ」


「そうなの。わたしは帰ってから読むつもりなんです」


 しどろもどろに答えるわたし、その隣で、正直にテオが答えた。シンシアは本に後ろ髪を引かれつつも、わたしたちと一緒に来た。まぁ、わたしの魔力だと同時に二冊が限界だったんだけどね。


「はぁ、やれやれだね。せっかく機会をもうけてやったのにさ」


 はああと、さらに大きなため息をついた。その隣で、長身の若い男性が言った。


「では、このメンバーで出発というわけでいいですか?」


「……そうだね、エドワード。行くとするかね」


 メンバーは、孤児院から三名と、シーナさん。それにカレンディアのソーレ教神殿からエドワード神官だ。ソーレ教には回復のための神聖魔法がないため、怪我の治療は薬草やポーションに頼っているらしい。で、薬師のシーナさんとはよく一緒に薬草を採りに行っているとか。


 回復魔法は使えなくても、ソーレ教徒には戦える人が多い。そして、エドワード神官は剣の使い手だとか。よって今回の護衛である。外は危ないからね。


「ははは。そうは言っても、本国の神聖騎士団に入れるほどではないのですが」


 ソーレ教の本国とは、ローマリアだ。お母さんの出身国である。いつか行ってみたい国のひとつだ。


「おう、みんなで薬草採りかい? 気をつけて行くんだぜ」


 門番のおじさんにあいさつをして門を出ると、見渡す限り草原が広がっていた。木々はまばらにしかなく、緩やかな丘陵地帯のようだ。左と正面に道が延びている。どちらかがマイア司祭のいたスターリーに通じているのかしら?


「今回はラースゴウ方面に行くよ」


 シーナさんはそう言うと、正面の道を進み出した。南門から出たので、方角は南かしらね。


 天気も良く、みんなでピクニック気分で歩いていった。初対面では印象最悪だったエドワード神官も、話せば気さくで親しみやすい。あの口うるさい小娘(アイリーン)がいないからかな? それとも、エミリアがいないからなのかしら。何だか複雑だわ。


 現在テオとエミリアは、教会の建物に「店子」という感じで住んでいることにしている。家賃をもらって、それで教会の運営をするのだ。実際のところ、家賃は子どもたち四人で稼いでいるのだけれど。


 シンシアは、依然としてマルタさんの宿屋で食事を作っていることが多い。宿屋には冒険者もよく来るので、怪我をした人を格安で治してあげている。まだ身分的はシスターなので、見習いの練習をかねてという名目だ。重い怪我の人は、マイア司祭の担当だ。値段が安いからか、けっこう繁盛している。マール教のことも知ってもらえるしね。


 マイア司祭は、怪我人がいないときは、教会内で近所の子どもたちに読み書きを教えている。布教のためという名目のもと、こちらもソーレ教の半額の値段だ。見ていると、うちに来る子たちはまだアルファベットが書けない子が多い。ソーレ教の神殿に行く子たちは、読み書きがわりとできる子たちだ。感覚で言えば、小学校の高学年くらい? わたしのサークレットに入っていたマール教の子ども向け絵本を司祭は大絶賛し、今度からはそれを使って教えるとのこと。……サークレットに入っているって変な表現よね、でも本当だから仕方ないわね。


 テオは、日中はシーナさんについて薬草を採りに行ったり、冒険者ギルドに顔を出したりしている。薬草を多めに採って、冒険者ギルドに卸すのだ。何でも薬草の採取の仕方が丁寧だとかで重宝されているとか。まぁ、シーナさん仕込みだからね。で、ギルド内に顔見知りも増え、いろいろと教わっているらしい。早く十歳になって、見習い冒険者になりたいと毎日毎日言っている。テオはあと二年ね。


 エミリアは、マルタさんの宿屋で前のように皿洗いをしつつ、空き時間には聖水を作る神聖魔法の練習をしている。ギルドで見た光景をしっかりと目に焼き付けていたらしく、一度にできる量は少ないものの、毎回成功している。もしかして、才能あり? 洗い場の新入りの子ともけっこうすぐに打ち解けられた。もともとエミリアは人見知りなので、これにはみんな驚いていたわ。その子がソーレ教信者だからかしら? 二人で神さまの話とかをしている。まだ五歳くらいの女の子だけど、周りの大人たちに染まらずエミリアと仲良くして欲しいものだ。


 わたし? わたしはと言うと、本を書き写すバイトを始めた。印刷技術なんて無いから、本は一冊一冊、手書きで書き写すしかない。マルタさんのところで皿洗いがしたかったんだけど、新しい子が入ったため人手が足りているのだ。あ、その子の名前はエミリーね。エミリアと名前が似ているのも、仲良くなるきっかけになったのかも。で、わたしの年齢にそぐわない字のうまさに目を付けたマイア司祭が、フーリアさんに話を付けてくれた。そのつてで、いろいろな本を書き写す仕事にありつけたのだ。


 いろいろな本って言っても、字を読める人が少なく紙もあまり流通していないこの世界では、大衆小説みたいなのは全くない。もちろん子ども向けの本もない。本と言えば学術的なものだけだ。専門的なものでも、実は写すだけならそこまで難しくない。フェルナンドさんが解説を挟んでくれるしね。わたしが読んだ本はサークレットの中に記録されていくらしく、この仕事を受けるようになったときのフェルナンドさんの喜びようったら無かったわ。ところでこのサークレット、何ギガくらい記録できるのかしら? お母さんの蔵書だけでもそうとうあったんだけど。もしかしてテラ?


 そんなことを考えながら歩いていると、どうやら目的地に着いたようだった。

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