第30話 マリー、ギルマスにびびる。
最近少し忙しくなっており、定期的にアップできなくなっています。よってしばらくの間、不定期に連載します。申し訳ありません。
「あなたにお渡しする聖典はないわ!」
いきなりソーレ教徒にケンカを売られるわたしたち。年はシンシアと同じくらいかな? でも雰囲気とか正反対だ。
「こら、アイリーン。そういう言いかたは良くないよ」
「でも、エドワード様!」
「君たち、うちのアイリーンが失礼したね。ではわたしたちはこれで」
連れの女の子を叱ると、何事もなかったかのように去ろうとする長身の男。二十代半ばくらいかな? まぁ謝ってはくれたけど、エミリアの要求スルーしたよね?
「あのぉ、おじちゃあん」
「何このちびっ子! エドワード様に対して失礼よ!」
「何だい、お嬢ちゃん?」
わたしの軽いイヤミをさらりと流すエドワード神官。ふむ、わざわざしゃがみ込んで、わたしに目線を合わせてくるあたり、悪い人ではないのかもね。そうは言ったものの。
「あのね、エミリア姉ちゃんはソーレ教徒なのよ? 聖典を読んでお勉強するのー」
「そっか、お姉ちゃんはえらいねー。でもねお嬢ちゃん、聖典は誰にでも渡せるものじゃあないんだ」
「金払ってもダメなのかよ!?」
「! 今度は野蛮なちびっ子がいるわ! あなたの連れはろくなのがいないわね!」
「兄様たちのことを悪くいうのはやめてくださらないかしら!?」
何よ、この準神官! 蝉だからうるさいのかしら!
「アイリーン、言葉がさすがに過ぎるぞ」
ほぼ子どもたちとはいえ、ギルドの入り口で騒ぎ立てるわたしたち。エドワード神官も、積極的には止める気がないみたい。みんなの注目を集めだしたわ。
「お前ら、何騒いでるんだ!?」
心臓が縮み上がるくらい大きな声がした。見ると、二メートル近くはあるだろうか、スキンヘッドの強面の男がやって来た。うん、海外旅行とかで出会ったら、死を覚悟しそうな面構えね。海外行ったことないけど。
「ああ、ギルドマスター。お騒がせして申し訳ありません」
「ふむ、まあこのメンツを見ると、何が原因かは分かったが……。お前たちも大人げないぞ」
「ははは、そうも思うのですがね。なかなか難しいものなのですよ。ラースゴウでのこともあるし」
「ああ、あの町の神官も災難だったな……まったくあの爺さんときたら!」
ひとしきりエドワード神官と話したギルマスさんは、わたしたちのほうを向いて言った。うん、このギルマスに武器を持って立ち向かいたくないわぁ……何かがもれちゃいそう。
「よう、嬢ちゃんたち。おれぁ最初から見てたんだが、そっちのアイリーンも、言い方ってものがあるわなぁ。ただ、嬢ちゃんの立場も分からなくもない。こっちの嬢ちゃんたちも、正当な権利を主張しただけだもんなぁ。だがよ、いろいろな大人の事情で、それは今はまだ手に入れられねえんだが。おれも役に立てず、すまねえなぁ」
こっちの嬢ちゃんたちは、三人ともギルマスさんにビビっている。や、悪い人じゃないんだろうけど、見た目の威圧感がね、もうね……。
「お詫びと言っちゃあなんだが、いいものを見せてやろう。ジェーン、空のビンを持ってきてくれ!」
「はーい」
さっきまで話していた受付のお姉さんが、ビンを持ってきてくれた。大きさはコーラのビンぐらいで、ガラスのフタもついてる。
「エドワードよ、ここで聖水を一本つくってくれ。おれが買い取って、嬢ちゃんたちにやろう。それで手打ちにしようや?」
このギルマスさんに、ノーと言える人っているのかしら? あの生意気な女の子もこくこくとうなずいてるわ。それにしても、手打ちって……カタギじゃないでしょ、この人?
「分かりました。『聖なる水よ』」
空のビンを受け取ったエドワード神官が言葉を発すると、ビンが光に包まれた。次の瞬間、光る水でビンが満たされているのが見えた。光る水、言葉にすると変な感じね。でもそうとしか言えないわね、もしくは水の中に蛍がいる感じ?
「これはソーレ教の『聖水』だ。魔物避けになるし、アンデッドなら滅することもできる。飲むと、体力回復もできるが、まぁマール教の神聖魔法の方が効くがな。力を持つ言葉は『アクア・サンタ』どうだ、勉強になっただろう?」
ソーレ教の神聖魔法を解説してくれるギルマスさん。けっこう親切ね。でも力を持つ言葉という言葉が面白過ぎて、途中から笑いをこらえるのに必死だったけど。……シリアスな場面で、どうもマジメに徹することができないわね、わたし。
「はい、これを」
エドワード神官が、エミリアに聖水を手渡した。そのとき、小さな声でごめんと言っていたが、聞こえたのはわたしたちだけだったかもしれない。ソーレ教内部にもいろいろあるのよね……。
ちょっとの寄り道のつもりが、かなり時間をくってしまった。怒られないようにと、わたしたちは急いで孤児院へ帰った。
マリー、ついつい出る親父ギャグ。元の彼女はおばちゃんでしたが。