第3話 マリー、異世界生活をする。
聖女様とわたしの穏やかな日々が続いていた。季節はめぐり、わたしはどんどん成長していった。
「おかあさん、神さまのお話してー」
聖女様は実際に聖女様だったのかもしれないが、神さまのお話が得意だった。というか、それしかお話してくれなかった。それでも娯楽に飢えていたわたしは、きゃっきゃと言いながらちょこんとお膝の上にお座りして、聖女様の話を聞いていた。
「昔々あるところに、マリエラさまという神さまがいらっしゃいました……」
何度も何度も、飽きるくらいに聞かされたのでもう暗記してしまった。マリエラさまというのは海の女神で、太陽の神と大地の神と一緒にこの世界を守っているらしい。
聖女様の話から考えると、この世界は基本的には多神教のようだ。それぞれの神さまをあがめる宗教もあるにはあるが、けっこうゆるい感じがする。
ちなみにマリエラさまはマール教の神さまで、聖女様もマール教っぽい。いつもつけているペンダントは、マール教のシンボルらしい。
「太陽の神さまサンタンさまは……」
太陽の神はサンタンで、大地の神はアーサーという。この三柱の神さまたちが三大神で、ほかには例えば知識の神とか、豊穣の神、戦いの神などいろいろな神さまがいるらしい。
元日本人のわたしとしては、多神教というのはありがたい。高校は仏教高校だったので、宗教には特に忌避感とかはない。
さらに時が経った。わたしは三歳になった。
マール教信者の聖女様は、太陽神サンタンをあがめるソーレ教にもくわしい。なんなら、魔法にもくわしいし、薬草にもくわしい。それに運動神経は抜群で、なんとロングソードを巧みに使いこなす。軽くチートキャラだと思う。
あえて欠点を言えば、それをわたしにも求めてくることだろうか。わたしはまだ三歳になったばかりだというのに、火・風・水・土、それに光と闇の精霊と契約を結ばされ、マール教の洗礼も受けさせられ、小さなナイフではあるが、剣の練習もさせられている。まじでしんどい、幼児虐待反対!
まぁ、そうは言っても魔法や神聖魔法の練習というのは、できないなりに楽しいんだけどね。インドア派というか、まだ三歳のわたしには剣の練習はきついけど。
そうそう、この世界の魔法は、自分の中にある魔力を代償に、誰かの力を借りて使うものらしい。その相手が精霊だったり、神さまだったりするのだ。
「マリー、魔法を使うときはイメージが大切よ。イメージを精霊に正確に伝えることによって、魔法を行使できるの」
魔法自体は、契約さえすればけっこう誰でもできるみたい。例えばかまどに火をつけたりとか。ランプに灯りをともしたりとか。そういうわけで、火の精霊は大人気だとか。
一般人は魔法で火をつけ、お金持ちになるとばか高い魔道具というアイテムを使うらしい。これも魔力を使うけど、魔力の消費量が魔法の十分の一くらいと少なく、たくさん使ってもそこまで疲れないらしい。
聖女様が付けてくれたこのピアスも魔道具かしら? 魔力は時間の経過とともに回復するけど、普通の人はそもそもの最大値が低いので、すぐガス欠になる。……料理するのも大変ね……。
そしてもちろん、わたしの最大魔力値も低い。この世界には、RPGでいうところの「ステータス」がないので、実験による予想でしかないけどね。
「おかあさん、眠いよう……」
「マリー、頑張って!」
魔力が少なくなると眠くなってくる。そして聖女様は厳しい。三歳児が眠りこけそうでも、容赦はしてくれない。優しい顔で、優しい声で、厳しいのだ。何だろう、チートキャラだから普通の人の限界が分からないのだろうか。それとも普通レベルが聖女様なのだろうか? けっこう厳しい世の中である。
「マリー、あなたは早く強く大きくならないといけないの。なぜなら……」
聖女様が何か言っていたが、どうやら寝落ちしてしまったようである。わたしは夢の中へと落ちていった。