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第27話 マリー、みんなと家族になる。

またもや遅れました。すみません。

 エミリアの告白を聞いて、しんみりとなってしまった。もちろん、前世の日本でも、わたしの知らないところではそういうことは珍しくなかったのかもしれない。そう考えると、わたしって幸せな毎日を送っていたのね……。共通して言えることは、子どもは悪くないってことだ。


「わたくしは、洗礼は受けているの。聖印も持っているわ。ただ、聖典は持っていないのよ。……字が読めなかったから」


 こんなことなら、早くから字の勉強をすれば良かったわと、エミリアはつぶやいた。今のわたしよりもっと小さいころに洗礼を受け、それからは周りの神官たちに育てられたそうだ。とは言っても、大神官の不興を買わない程度、しかし未熟な赤ん坊が死なない程度の育てられ方だったという。


 お母さんは、最初のころは相手との結婚を夢見てエミリアのことをかわいがっていたそうだが、だんだん「現実」を理解し始め、精神を病んでいったらしい。そんなことを、エミリアは淡々と話してくれた。やばい、かわいそうな子どもの話は苦手だ。お腹がきゅーっとなって、顔が熱くなってくる。


「もう、マリー。泣かなくってもいいじゃない。わたくしは今、幸せですもの。……ソーレ教はお母様との思い出よ。大事な思い出。つらいときは、サンタンさまが見守ってくださっているの。だから大丈夫」


 エミリアはそう言いながら、首からかけているペンダントをきゅっと握った。あれがソーレ教の聖印だろうか、オレンジ色の丸く平たい石の周りに、四つの三角形がまるで十字架のように配置されている。


「聖典を手に入れられたら、読めるのだけど……」


 カレンディアは小さな町だ。信者用の聖典自体は、銀貨数枚で手に入るらしい。しかし、それを買いに行ける人がいない。みんな、それこそ神殿の人たちもわたしたちのこと知ってるしね。それに、聖典を手に入れたところで、独学するのは難しいのではないだろうか。そうは言ったものの。


「よし。エミリアのためにみんなでソーレ教の聖典を手に入れようぜ!」


「わたくし嬉しいわ。聖典を読むのは、わたくしの夢でしたの。それに、マリーのおかげで将来の目標ができたわ。神官になるのよ。神官になれたら、高司祭様もわたくしのこと認めてくださるかしら?」


「エミリアが神官を目指すなら、わたしも司祭になるわ。わたしは生まれてすぐに、ここの礼拝堂の中に捨てられていたそうよ。当時はここにも司祭様がいて、わたしはその方に育てられたの。高齢でもう亡くなられたけど。そのあとは前ここにいたお兄ちゃんやお姉ちゃんたちが面倒を見てくれたのよ。今はわたしがお姉ちゃんなの。そう、みんなのお姉ちゃんはわたしなんだわ!」


「わたくしはアンナ司祭のあとを引き継いで、こちらに関わるようになったのよ。この町には知り合いも多いですしね。シンシアの「兄」や「姉」たちは、成人して巣立っていきました。いつかはみんな巣立っていくもの。……わたくしは()にとらわれすぎていて、皆さんの将来のことを考えていなかったわ、まだまだ修行が足りないわね」


 何だか告白大会になってきたぞ? でもまぁ、自分の考えや気持ちを吐き出すことはいいことよね。


「おれは、スターリーの貧民街で生まれて……まあ浮浪児やってたんだ。マイア司祭に拾われて、最初はスターリーのマール教孤児院にいたんだけど、カミサマ信じろとか言われて嫌んなったんだ。カミサマがいるなら、おれたちみたいなのがいるわけないよな? で、頭もわりいし、親もいないようなおれが金持ちになるには、冒険者がいちばんだと考えたんだ。金持ちになって、うまいものみんなにいっぱい食べさせてやんよ」


 テオが、最後は照れながらそう言うと、わたしの方を向いた。え、この流れ、次はわたしってこと? 見ると、何だかみんなの視線を感じる、ような気がする。え、でもわたし三歳児よ?


「わたしは生まれたときから、クレアお母さんと一緒だった気がする。ずっと二人で暮らしてたの。森の中に小屋があって、そこに住んでたの。お母さんはわたしに、いろいろと教えてくれたわ。最初は厳しくて嫌だったけどね。ある日お母さんが、自分はもう長くないって言って……わたしはそれを聞いて、大泣きしちゃった。で、目が覚めると、この町にいたのよ」


 お母さんは、最初は若かったとか、本当の名前はグレイツィアとか、わたしは転生者だとか、そういったヤヤコシイことはもちろん省いて、何とか説明できた。それなのに。


「おお! ほんとにマリーもやるなんて思わなかったぜ。お前すげーな」


「さすが、マリーですわ!」


「ほんと、マリーはおりこうさんね!」


 孤児院のみんなにたいそう褒められた。え、これって一緒になってやらなくてもよかったの?


「ふう、あなたは三歳児とは到底思えないわね、マリー。……もっとも、クレアさんの教育のたまものという考え方もできますけどね」


 まぁ、某高校生探偵みたいに年齢をごまかすのって、けっこう難しいんだから。そもそもわたし、あんまり器用じゃないし。


 さらにマイア司祭は続けた。


「では、皆さん。わたくしたちの方針としては、それぞれ自分のなりたいものを目指して精進……頑張っていくことにしましょう。それから、わたくしは金策を考えます。生活費と、もしものときのための家代のために」


 もちろん問題はまだまだ山積みだ。というより、ほぼ何も進展がない。でもわたしは、みんなの結びつきの強さの理由が分かった気がした。彼らにとって、孤児院の仲間たちは家族である。だから、ぽっと出のわたしのことも、すぐに受け入れてくれたんだろう。みんな「家族」が欲しかったのだ。そして、何よりもその手に入れた「家族」を大切にしていた。


 わたしもみんなの告白大会を聞いて、家族の一員になれた気がした。みんなにとっては、わたしは妹みたいなものかもしれないけれど、わたしにとってはマイア司祭は姉妹で、シンシアたちは子どものようなものだ。まぁ、姉妹も子どももいたことないけどね! わたしを本当の家族にしてくれたことを、高司祭様に感謝しよう。

ようやくマリーも、孤児院のみんなと「家族」になれました。本人は母親のつもりになっていますが、どうなることやら。

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