第23話 マリー、作戦会議をする。 上
「あれ、どうしたんだいマイア? 今日帰るんじゃなかったのかい?」
「馬車に乗り遅れたのよ。今日も泊まるわ、部屋は空いているかしら?」
「ああ、いつもの部屋が空いているよ。先に食事にするかい? ……って、あんたたち、どうしたのさ? 何かあったのかい?」
マイア司祭の後ろでお通夜状態だったわたしたちを見て、マルタさんが驚きの声を上げた。そしてそのまま、一階の食堂の奥の方へと案内してくれた。
「さあ、皆さん。じゃんじゃん食べなさい。そう、じゃんじゃん。マルタ、わたくしはとりあえずエールをお願いね」
「あ、ああ。分かったよ……」
……ええっと、マイア司祭のキャラが変わってしまったわ……。わたしでさえそう思うんだもの、付き合いの長い他の人たちは、口をあんぐりと開けていたわ。
料理がそれこそじゃんじゃん運ばれてきた。正直食べる気分じゃない……と見えたわたしたちではあったが、ごちそうが並ぶと、ガツガツと食べ出した。……まぁ、成長期だからね。
「今日来た男性が、クリスティアーノ高司祭様よ。普段はエディーナの教会にいらっしゃるわ。若い女性が、アリスィ。同じくエディーナの司祭よ。年配の女性が、スターリーの教会の助祭、パウラね」
エディーナはコートランドの首都だとか。スターリーよりもさらに東にあり、海に面した大都会だそうだ。この世界の大都会の規模がよく分からないけどね。
「なぜ、高司祭様がカレンディアにいらしたのでしょう?」
シンシアが不安げに言った。
「……それは分からないわ。明日、話があるかもしれません。ここの配属が決まったのかもしれないけれど……それが誰だか、まったく予想がつかないわ」
「アリスィ司祭がこちらにいらっしゃるということはあるのかしら? エディーナに住んでいらっしゃるなら……その」
エミリアが、これまた心細そうに言った。
「そうね……。アリスィ司祭が来るのは、ちょっと考えにくいわ。あの方は都会がお好きだから。それに高司祭様が妹を手放すわけがないしね」
ほう、あの二人は兄妹なのか。では、パウラ助祭は? ただの案内だったのかな?
「パウラ助祭はどうなのかなぁ? もうすぐ司祭になれるとか?」
わたしの問いに、マイア司祭はかぶりを振った。
「パウラ助祭が司祭になるのは、まだ先のことでしょう。それに、あの方はルトーガから派遣された、わたくしの監視役みたいなものですしね」
マイア司祭も大変ね。宗教団体といえど、団体であるからには一枚岩というわけではない。ルトーガの総本山には、いくつかの派閥があるらしい。クリスティアーノ高司祭は原理主義で、パウラ助祭はその反対勢力の子飼いみたいな感じらしい。
「クリスティアーノ高司祭様も、聖職者としては立派な方ですよ。それこそ教団をお金儲けの道具としか見ていないような人たちに比べるとね。マリー、今日言われたことは気にしないようにね」
「いや、マリーはあんなおっかないのに言い返してたからな! お前勇気あんなぁ!」
テオがほめてくれた。いや、わたし本当は平和主義者よ?
「わたしは司祭になれるでしょうか? ……わたしは、その、頭も良くないし……。でも、みんなで今まで通りに暮らしていくなら、わたしが司祭になるのがいちばんだと思うのです……」
シンシアは、確かに頭は良くないかもしれない。しかしそれは、教育を受けていないからであって、実際のところは分からない。真面目で優しいシンシアは、マール教の理念に沿っているような気がするんだけどね。
「マイア司祭、研さんってなあに? どういうことなの?」
「ああ、研さんというのはね、そうねぇ、知識や魔法の技術を磨いて鍛えることよ……まあ、一生懸命頑張るってことね」
司祭がわたしに、語句の解説をしてくれる。三歳児は、「研さん」なんて言葉、知っててはいけない。
「一生懸命頑張るってことは、たくさんたくさん神聖魔法を使い続けたら、司祭になれるってことなのかなぁ?」
いわゆる「経験値」をためていき、レベルアップをする感じだ。どういった仕組みで神聖魔法が使えるようになるのか知りたい。
「そうね、それは正しいわ。でも、魔力には限りがあるから、何度も何度も使うというのは難しいのよ」
「クリスティアーノ高司祭様は八歳で司祭になったって言ってたけど、いちばん若いの?」
「司祭になった最年少記録は、現在の最高司祭様の六歳かしらね」
現在の最高司祭様は御年七十歳だとか。孤児だったため、ルトーガ総本山の孤児院で育てられたそうだ。そして六歳になる年には、司祭級の魔法が使えるようになった。
「だったら、おれたち孤児にもチャンスがあるってことか?」
真面目に頑張ればと、テオは小さな声で付け加えた。
コートランドの首都エディーナの位置を、スターリーの西から東に変えました(23年10月15日)