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第22話 マリー、売られたケンカを買う。

 マイア司祭は、六の鐘の馬車でスターリーに帰るらしい。あと一時間ほどだ。


「わたくしは十八の年に助祭になり、二十歳で司祭となったわ。それから十年、高司祭への道はまだまだね」


 何と、マイア司祭はわたしと小学校もかぶらなかったよ! 意外に若かった、同じくアラフォーと思っていたのに!


 それから時間ギリギリまで、司祭はシンシアの質問に答えていた。私はといえば、司祭になる方法について考えていた。


 わたしは「回復の奇跡」も何も使えない。お祈りの言葉は知ってるのにね。シンシアが司祭になるのがベストなら、今の平穏な日々を続けたい以上、頑張ってもらうしかない。娘みたいな年齢の子に頼るのは申し訳ないけど、今のわたしは三歳。さすがに司祭にはなれないでしょう?


「ではわたくしは帰ります。みなさん、勉学に励むのですよ」


 マイア司祭が荷物を持ち、まさに出かけようとしたそのとき、ベルのような音がした。何だろうと思っていると、司祭は荷物の中から、水晶玉のようなものを取り出した。ソフトボールぐらいの大きさだ。


「はい、こちらマイアです。ええ、今から馬車に乗って帰るわ」


 携帯のようなものかしら? マイア司祭が誰かと話している。


「ああ、これはクリスティアーノ高司祭様。ご無沙汰しております」


 通信の相手が代わったのだろう、マイア司祭が居住まいを正した。


「はい、今はまだ孤児院におります。え、高司祭様みずからおいでになるのですか? カレンディアには冒険者向けの宿泊施設しか……」


「そうはいっても、もう来てしまったからな」


 入口の方から声がし、みんながパッとそちらを見た。そこには、黒髪の少年が立っていた。後ろには五十代ぐらいの女性と、十代前半くらいの女の子がいた。


「く、クリスティアーノ高司祭様!」


「おう、マイア司祭。久しぶりだな」


 この十代半ばくらいの少年が高司祭様? 長い黒髪を複雑に編み込んでおり、濃い顔立ちの美少年だ。マイア司祭の祭服をもっと立派にしたような格好をしている。


「ふむ、これが孤児院の者たちか………一人も司祭がいないとは情けないな。おれは八歳の頃には司祭になれたぞ」


 テオが何か言いたそうにしたが、ぐっとこらえているのが見えた。シンシアとエミリアは、急に現れた高司祭様に驚き、呆然と立ち尽くしている。


「ん、何だお前は?」


 高司祭様はわたしを見つけると、近寄ってきた。お付きの女性たちも、後ろからついてくる。


「ここらでは見ない顔立ちだな。お前、どこの蛮族の者か? なぜ神聖なる教会にお前のような者がいる?」


 同じような黒髪だが、わたしと高司祭とでは顔立ちがあきらかに違う。高司祭は、言うならラテン系の顔立ちだ。


「高司祭様、彼女はマリーといいます。……少し前に育ての母親を亡くし、天涯孤独の身となりました。そして……」


「名前などどうでもよい。なぜここに、このような者を入れたと問うておる」


 ……そうよそうよと、後ろで取り巻き連中がうるさい。マイア司祭は、自分より位の高い相手に対し、少し引き気味だ。しかし、わたしのために反論してくれた。司祭、頑張って!


「……彼女の母親もマール教徒でした。そしてマリーも三歳までそのように育てられております。先日、洗礼の儀を終えました。マリエラさまもお認めに……」


「ふん、おおかた本国の連中は、信者を獲得したくて聖印を乱発しておるのだ。くだらない。マリエラさまが異民族を認めるものか」


「お言葉ですが、クリスティアーノ高司祭様」


 げ、わたしは平和主義者のハズなのに、つい口から何かが出てしまったわ。でもしょうがない、もうひけないわ!


「マリエラさまが海の女神さまなら、海のはるか向こうのわたしの故郷まで、そのご威光が届くはずでしょう。それともマリエラさまのお力は、異民族の暮らす地までは届かないとでも?」


 淡々と伝え、じっと高司祭の目を見る。向こうも向こうで、わたしの目をじっと見てきた。いわゆるガンの飛ばし合いだ。こちとら元アラフォー、自分の半分も生きていないような若僧には負けないわよ!


「ふん、気に食わん。おいお前たち、今日はもう宿に戻るぞ」


 ふん、青二才めが! わたしの勝ちである……お、大人気(おとなげ)ないとか言わないで!


「マイア司祭よ、また明日も来る。明日、今後のことを話し合おうぞ」


 そして高司祭たちは帰っていった。もちろんマイア司祭の馬車はとっくに出発しているし、それどころではなくなってしまった。


「……とりあえず、マルタのところでお夕食にしましょうか」


 そして孤児院の面々も、ご飯を食べに外へと向かうことにした。腹が減っては……ってね!

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