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第18話 マリー、役場に行く。 上

 次の日、朝早くにマイア司祭がやって来た。今日もピシっとした祭服をまとっている。アイロンとかあるのかしら?


「今日は、マリーを連れて役場に行ってくるわ。あなたたちは、昨日の書き取りの続きをしなさい。分からないことはシンシアに聞くのよ」


 そう言うと、テキパキと用意をしだした。この世界にも紙はある。ただ前世と比べると、品質がかなり劣る。わら半紙をさらに劣化させた感じだ。一応品質の良い真っ白な紙もあるらしいが、一般人には手が出ないお値段だそうだ。……本が欲しいけど、無理そうね。


 役場が開く時間までまだあるということで、わたしもテオたちと一緒に書き取りをした。シンシアは別室に呼ばれたので、わたしが先生役だ。昨日に比べて二人の成長が見えるのは嬉しい。


「ちっこいマリーに負けるなんて、男がすたるからな!」


「淑女として字が書けないといけませんわ」


 頑張る二人の先生をしながら、昨日もらった聖典を読む。お母さんが話してくれたものばかりで懐かしい。本の虫というわけではないが、本を読むのは好きなので、人生初の本はたとえ薄くても嬉しい。もっとくれないかなぁ。図書館とかないのかしら?


 そうこうしているうちに、マイア司祭が降りてきた。後からシンシアも来る。……少し顔色が悪いようだけど、大丈夫かしら?


「さあ、マリー行きますよ。あなたたちはお勉強頑張りなさい」


 マイア司祭はすぐ出かけようとしたが、テオやエミリアも、シンシアの様子がおかしいことに気がついたようだ。


「!!? シンシア姉ちゃん、どうしたんだ? 顔色悪いぜ?」


「シンシア姉様……、マイア司祭、姉様に何かなさったの!?」


「あ、いえ……何もないわよ? 二人とも心配してくれてありがとう……さ、さあ早くお勉強の続きをしましょう」


 一応シンシアもごまかそうとはしているが、元が素直な子なので何かあったのはバレバレだ。


「……ふう。シンシアにはルトーガの総本山からの意向を伝えました。ここをマール教の教会として整備し、孤児院はその付属になります」


「整備ってことは、新しくなるのか?」


「雨漏りも直してくださるのかしら?」


 新しい教会という言葉にウキウキする二人組。でも、待って? そうなると……。


「新しい司祭様が来るのかな? それに()()()マール教の教会になると……なあなあにできなくなるね」


「なあなあって何だ?」


「孤児院の子どもたちは、マール教の教えに従って、育てられることになるわ」


 テオの問いに、司祭は言葉を区切りながらゆっくりと答えた。


「何てこと!? わたくしはマール教徒ではなくってよ!!!」


 先に反応したのはエミリアだ。熱心なソーレ教徒である彼女にとっては、耐えられないことなのだろう。それにテオだって神さまを信じていない……それを考えると、わたしって節操なしね。


「マイア司祭、ソーレ教には孤児院はないの?」


 最悪カレンディアから出ることになっても、他の町にはあるいは……。


「普段わたくしのいるスターリーの神殿には、孤児院が併設されているわ……でも、()()()()()()()で、そこの孤児院、もしくはコートランドのどのソーレ教の孤児院にも入ることは難しいでしょうね」


「お、おれもマール教徒になるのか?」


 本当に絶望したという顔をして、テオがつぶやいた。無神論者って言うのは、神さまがいないということを信じる宗教みたいなことを、わたしが習った教授が言ってたわ。やはり、テオにとっても譲れないところなのね。でも、待てよ?


「マイア司祭がここの司祭になれないの?」


 マイア司祭は厳しいが、けっこう融通もきかせてくれているようだ。まぁ、スターリーからカレンディアに異動するのはちょっと左遷っぽいけどね。


「それも提案してみたわ。でも、わたくしのスターリーでの布教活動がかんばしくないため、新しい教会への赴任は却下されたわ。スターリーにも、新たに助祭がやって来るわ……わたくしの()()にね」


 そもそも信仰というのは……と、ぶつぶつと言うマイア司祭。みんなどんよりしてしまった。打つ手無しね……。


「まだカレンディアの新しい司祭は決まっていません。ここは人口も少なく僻地のため、なり手がなかなかいないようよ。ただ、それも時間の問題ね。今の状況を続けようと思ったら、方法は一つしか無いわ」


「方法があるのか!!」


「シンシアが司祭になるのです。司祭になれば、ある程度自由に教会の運営ができるわ。もっともルトーガ総本山との関係もできますが」


 シンシアが司祭に。まだ十五歳な上、性格的にも上に立つのには向いていないだろう。教会の運営なんて無理っぽい気がする。テオたちも、シンシアが司祭になる案が難しいと感じているのか、押し黙ってしまった。


「とにかく、わたくしはマリーと役場に行ってくるわ」


 そう言うと、マイア司祭はわたしの手をとった。後には黙ったままの三人を残して。

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