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第17話 宿での女子会 下 (マイア司祭視点)

「いやね、この前のヘルハウンド事件だが、あれは仕組まれたものだって言う奴らもいるってね」


「?? どういうことだい?」


「ヘルハウンドをクレアが召喚し、わざと町を襲わせたのさ。で、その混乱に乗じて町にカードなしで入り込むという……」


「!! 馬鹿馬鹿しいったらありゃしないよ!」


 マルタが激昂する。


「あ~、住民登録なくても、そこまでしなくても町に入れますよね~?」


 この制度が始まったのは五十年ほど前からだ。人間にしてみればずいぶんと昔ではあるが、例えばエルフにしてみればごく最近のことである。そして制度からもれていた僻地の村が見つかることも、いまだにあるものね。


「でもさほら、あの町長が……」


 その一言に納得するわたくしたち。カレンディア町長はなんというか……残念な人である。その子どもたちも……、まあこの話はこれくらいでいいでしょう。


「そもそもマール教徒なら、ヘルハウンドを召喚できる神と契約できないのではないかしら?」


 魔法というのは、神もしくは精霊と契約を結ぶことで行使できる。わたくしのような聖職者であっても、何柱かの神と契約はできるのだけれど、そこには制約もあるわ。


 第一に、三大神のうちからは、一柱の神としか契約できない。そしてこの場合は契約のことを、特に洗礼と呼ぶ。


 第二に、三大神の洗礼を受けたなら、契約できない神もいる。俗に言う邪神だ。そしてヘルハウンド召喚は、邪神のうちの……誰だったかしら? このように、邪神というものは、一般的ではない。昔はもっと恐ろしいモンスターがあふれていたそうだし、野良ヘルハウンドもいないとも限らない。


「そうさ、クレアはマール教の司祭だから無理じゃないか!」


「でもそんな理屈が、あの人に通じますかね~?」


 みんな沈黙した。正論というのは、常に通じるというものではないものね。


「まあ、明日マリーと一緒に町長のところへ行ってみるわ……何回か通うことになるかもしれないけれど」


 ふう。カレンディアの子どもたちは問題が多いわね。本当ならスターリーで一緒に暮らせたらいいのだけど、そこには本国から視察が来るので難しいのよ。無神論者やソーレ教徒を養っていると知られたら何と言われるか。それにカレンディアの教会を復活させたいとか無茶なことを言ってくるし。信者獲得ばかりに目がいって、現実が見えていないのかしら。


「マイア飲んでるかい? 難しい顔をしてるじゃないか?」


「飲んでるわ、ありがとう。……ちょっと考えごとをしていただけよ」


「マイアさんはまじめですから~。もっと肩の力を抜いたほうがいいですよ~」


「悩みがあるなら言ってごらんよ。何か力になれるかもしれない」


「……そうね、今は大丈夫よ。ありがとう。何かのときは聞いてもらうから」


 目下の悩みといえば、ルトーガ本国との関係だ。でもこれはマール教の問題なので、マルタたちを巻き込むわけにはいかない。気持ちは嬉しいのだけど。


「今日の議題も終わったことだし、これからは思いっきり飲めるわ! 遠慮しないでどんどん行きな!」


 ええっと、議題って主にマリーのことだったけど、特に解決はしていないような。それより最初っから思いっきりだったでしょう? みんなで近況報告をしながら楽しく騒いでいるのを見て、ちょっと苦笑してしまう。


 わたくしたち三人は性格がバラバラだけど、息の合ういいパーティーだったわ。もう冒険者は引退してしまったけど、こうやってたまに集まっては旧交を深められる。シーナにもお世話になっていたしね。あの頃とみんな変わらない。


 久しぶりにこんなに話して、元気をもらえたわ。明日は町長のところへ行って、それからシンシアだけにでも本国の意向を話しておかないとね。明日のことは明日考えるとして、今日は楽しむことにするわ。

今回でマイア司祭視点は終了です。

次回からは、またマリーの視点です。

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