第16話 宿での女子会 上 (マイア司祭視点)
今回、初のマリー視点以外の投稿です。
マイア司祭の視点で語っています。
「あら、フーリア。お久しぶりね」
久しぶりに、仲間に再会した。長命のエルフだからか、彼女は時間の感覚がおかしい。わたくしは毎月カレンディアを訪れているというのに、在住の彼女と会うのは稀だ。行く日を伝えているのにもかかわらず、ピンポイントで出かけていってしまう。最初は避けられているのかと思ったわ。
「マイアさんお久しぶりです~」
「ああ、みんなそろったね。今夜は語り明かそうじゃないかい」
マルタが料理を運んできた。ついマリエラさまに祈りを捧げそうになるが、アレクがつくったと聞いて、胸を撫でおろす。
あの一見熊のような見た目の青年は、実は料理ができる。どうもうちのシンシアに好意を持っているらしく、料理好きの彼女に気に入られようと頑張ったそうだ。
「「再会に乾杯ー!」」
みんなで木のコップをぶつけ合った。しばらくぶりなのに、会うと昔に戻れるのは不思議である。
「ところでフーリア、今日は何か話があったんじゃないのかい? あんたにしては珍しく、夕方からずっといたじゃないか」
「はい。その、マリーさんのことなんですが~……」
「あの嬢ちゃんは『恩寵持ち』だろうね、間違いない。もっともその母親は複数の『恩寵』を受けているようだがね」
向こうの机で突っ伏していた薬師のシーナが、こちらにやって来た。彼女はお酒が好きで、夜はいつも酔っている印象だが、腕は確かだ。
「!!? マリーさんのお母さんも『恩寵持ち』? しかも複数なんですか~!!?」
ふう、この『恩寵持ち』というフレーズが、文法として間違っている気がするけど、もう市民権を得ているため、わたくしが何を言ってもしょうがない気がするわ。
「マリーさんのサークレットですが、ただの知識のサークレットではないみたいですね~。アーティファクト級ではないでしょうか~」
アーティファクト、それは魔道具の最高峰のことだ。いろいろな国で国宝扱いされているそれを、一見ただの幼児が持っているものかしら? 顔立ちはこの国では珍しく、オリエンタルな雰囲気ではあるけども。
「ああ。あれはクレアさんのつけてたものさ。遺した剣も、あれはレジェンダリーじゃないのかい?」
武器防具の最上級クラスのものは、レジェンダリーと呼ばれる。アーティファクトとレジェンダリーを持つクレアさんとは何者かしら?
「マリーさんのお母さんというと、アレクさんくらいの年齢なんですか~? 人間の年は分かりづらいですね~」
マルタとシーナが一瞬沈黙した。
「そうさねえ、……ドワーフのあたしと同じくらいかねえ……。七、八十といったところかね」
「だから実の母親ではないんだろうね。ばあちゃん、いやひいばあちゃんか、ひいひいばあちゃんか」
「とりあえず、マリーさんのサークレットには、プロテクトがかかってますね~。装着者を守るためと、サークレットそのものを守るための~。そのレジェンダリーの剣とどっちが強いんですかね~?」
しばらくは、この話題で盛り上がった。実際に試してみようというのは危険すぎるから、却下だわ。
「そういえば、マリーはそろそろ住民登録しといたらいいんじゃないかい?」
「そうね、わたくしも月に一回しか来られないですものね」
聞けば、マリーはどこの町でも登録していないとか。その場合、この町から出られない。もっとも、ずっと出なければいいという話ではあるが、それは現実的ではないものね。
「マリーはちっこいが、しっかり働くよ。マリーの分もあたしが払っとこう」
「そんな、悪いわ……」
「いいって、あんたとあたしの仲じゃないか!」
住民登録すると、その分義務もできる。それが納税だ。権利としては、町の外に出られるほかは、外で亡くなった場合の身元確認と、遺体をホームタウンへ送り返してもらえることか。それに身分証明になるので、どこかに登録がないと真っ当な仕事に就くことはできない。生まれた子どもも、遅くとも三、四歳になるまでには登録され、住民権を得るのだ。
孤児院の子どもたちはマルタの宿屋で働く代わりに、三食の世話と、三人分の税を納めてもらっている。十五歳までは大人の半分、十八歳までは大人の四分の三。十八で成人だ。大人が一月銀貨一枚ほどで、基本的には払えない額ではない。そして延滞しても特にお咎めは無かったし、年内に払えば問題なかったし……って、なぜわたくし滞納に詳しいのかしら!
「……嬢ちゃんの住民登録なんだがね、ちょっと妙なうわさがあるんだよ」
「シーナさん、どうしたんですか~?」
シーナがふと真剣な顔をして言った……お酒を注ぎながらだから説得力ないわよ。
女子(?)会はまだまだ続きます。